marantz SC-5&bb-5
STEREO PRE AMPLIFIER ¥680,000
1994年に,マランツが発売したプリアンプ。1953年にスタートしたアメリカのオーディオブランドだった
マランツは,1964年にスーパースコープ社の傘下となり,日本では,スタンダード工業がマランツブラン
ドのオーディオ製品の生産を担当していました。そして,1975年にスタンダード工業は名称を変えて日
本マランツとなり,マランツは国産ブランドとして完全に定着していきました。日本マランツとなった頃にも
セパレートアンプでも名をはせた名門・マランツブランドを受け継ぎ,1980年代前半にかけて,プリメイ
ンアンプに加え,セパレートアンプの分野でも,次々と製品を発売していきました。そんなマランツも1980
年代半ば以降はセパレートアンプの分野の新製品は出していませんでした。そんなマランツから久々に
登場した本格的セパレートアンプのプリアンプがSC-5でした。

SC-5の1つ目の大きな特徴は,高速電圧増幅モジュール「HDAM」を搭載していたことがありました。ア
ンプの中でも,電圧増幅回路は性能に大きな影響を与えるもので,通常の高級アンプでは,大きなディス
クリートパーツを多数配置した構造となっていますが,回路を大きく広げるとそれだけ基板上のパターンの
長さが長くなって外来ノイズを拾いやすく,また熱や振動の影響を受けやすいというデメリットも生じてきま
す。しかし,普及価格帯のアンプのように一般的なオペアンプを使用した場合には,性能的に不十分なも
のがあります。こうしたことから,マランツは,アンプの心臓部ともいえる電圧増幅回路をモジュール化し,
徹底的に小型にしてシールドカバーで覆った「HDAM」を開発したということでした。「HDAM」は,「Hyper
Dynamic Amplifier Module」の略で,通常IC化されているオペアンプをディスクリート化したともいえるア
ンプモジュールで,切手大ほどの銅ケースの中に,多層基板によるシールド構造がとられたアンプ回路が
納められており,熱や振動,電磁波からの影響を排除しつつ常に安定した性能が発揮できるというもので
した。通常のオペアンプの約15~20倍の速さを誇る70V/μsのスルーレイトと80dBもの裸ゲイン,ICの
スペース効率,熱や振動に対する高い安定度を実現し,音質面でも密度感やスピード感が上がるという効
果がもたらされていました。この「HDMA」は,自社グループ内に通信機部門を持つマランツならではのも
ので,持ち前の多層基板技術,表面実装技術,ノイズ対策の技術などを生かした自社開発のモジュールで
した。1992年にプリメインアンプPM-99SE,CDプレーヤーCD-15に初搭載された技術で,その後,同
社のアンプ,CDプレーヤー等に広く採用されていくようになりました。



SC-5に搭載された「HDAM」は,従来型は内部が2層だったのに対して4層とし,銅シールドケースには
金メッキが加えられていました。1層目は,その上にデュアルのチップFETも含めてトランジスター6石,ダ
イオードが2石,抵抗が10本というディスクリート部品を並べ,ロボットによって半田付けされていました。
2層目は,完全なグランドでシールド板にもなっていました。3層目は,プラスマイナスの2ライン,4層目も
完全なグランドでシールド板にもなっており,まるで測定器用のシールドルームのような構造になっていま
した。



入力は,CDバランス入力,PHONO入力(MM/MC),ライン入力6系統,テープ入出力2系統が搭載され
ていました。
CDバランス入力では,「HDAM」をつかってバランス入力をアンバランスに変換するようになっており,L・R
それぞれに「HDAM」を1個ずつ,合計2個搭載していました。PHONO入力は,ヘッドアンプ→「HDAM」と
いう2段構成で,NFBでゲインを変えてMMとMCに対応するようになっており,L・Rそれぞれに「HDAM」1
個ずつ,合計2個搭載していました。入力系からボリュームを通った信号は並列に接続した「HDAM」に入る
ようになっており,プラスアンプ,マイナスアンプに「HDAM」を2個ずつ,L・R合計で4個の「HDAM」が搭載
されていました。以上を合計すると,SC-5は,「HDAM」8個を搭載した構成になっていました。
PHONO入力には,MM,MCのポジションに加えOFFのポジションも設定されていました。PHONO入力を
使っていないときは,こういうローレベルのアンプが動いていない方が音質的に有利となるため,OFFポジ
ションでフォノアンプの電源を切るようになっていました。



マスター・ボリュームには,マランツが当時最高レベルと考える,新開発の高精度2連ボリュームが搭載され
ていました。径50mmという大型で,シャフトも太く,100dBまで絞った状態で,L・Rの連動誤差が1dB以内
に抑えられていました。
さらに,マスターボリュームのほかに,スイッチで抵抗を切り換えて,1ステップ1dBずつ,ゼロからマイナス
14dBまで変えられるアッテネーター(プリアンプ・ゲインコントローラー)がL・Rそれぞれに1個ずつ搭載され,
独立してプリアンプのゲインを変えることができるようになっていました。こうした構成は,実使用時のS/N向
上を図ったもので,同社のプリメインアンプで展開されていた4連アクティブボリュームをさらに進化させたも
のでした。

内部構造についても,徹底してノイズ対策がとられていました。シャーシは2mm厚の頑丈な鉄板製で,通常
の約2倍の厚さの銅メッキが施されていました。プリント基板のパーツが実装されている側の銅箔は通常よ
りも厚い70μとされていました。これらによって,基板の裏面にいっぱい走っているパターンや信号ラインが
ガードされ,測定器のシールドルームのような効果が得られ,空中からのノイズをほぼシャットアウトしていま
した。



リアパネルに並ぶ入力端子のRCA型ピンジャックも,両面基板の片側は厚い銅箔でシールドされ,すぐ近く
に,それぞれ直接小さなリレーを埋め込み,音楽信号をできるだけコントロール信号に近づけることなく伝送
できるように,選ばれた入力信号だけがボリュームに1本のラインで導かれるようになっていました。さらに,
内部のプラットフォームの上に信号ラインが乗った構造になっており,コントロール系の信号は全部,プラット
フォームの下に棚を設けてその下をくぐらせるようになっていました。これは,信号ラインとコントロール系の
信号を完全に隔離しようとするものでした。
筐体そのものも,響きが音に影響があるという考えでチューニングされていました。筐体をがっちりと作ると,
その筐体独特の音のようなものが出てきます。筐体の振動をブチルゴムなどでダンプしていくと,響きのない
鼻をつまんだような面白みのない音になったりします。そこで,SC-5では,2mmの鉄板の銅メッキシャーシ,
両サイドが12mm厚アルミで,上が5mm厚アルミという構造になっていました。トップパネルに開いている穴
も,放熱のためというよりも空気の抜けをよくする穴で,こうすることで音が詰まった感じにならないというもの
でした。しかし,このトップパネルの穴から小さなコインくらいなら入ってしまうので,それを防ぐために,荒い
布製のネットが張り付けられていました。これも,鉄のパンチングメタルなどでは音が良くないということで,材
質についていろいろ試してみた結果だそうでした。このように,聴感で筐体の各部のチューニングがとられて
いました。




SC-5の2つ目の大きな特徴は,電源部が別筐体になっていることでした。電源部bb-5をアンプ本体SC-5
と別筐体にしたのは,電源として容量を大きくとるためと,制御用のマイクロコンピュータをプリアンプに同居さ
せないためでした。
bb-5には,(a)鉛シール型バッテリー,(b)バッテリーチャージ用の整流した電源,(c)AC駆動時の整流電源
(d)制御用のマイクロコンピューターが搭載されていました。
バッテリーは,12V,3.4Ahというかなり大型の鉛シールバッテリーで,プラス12V,マイナス12Vの2つの電
源を供給するようになっていました。このバッテリーによってかなり音が変わるということで,聴感テストを繰り
返して選択されていました。バッテリー電源のインピーダンスは,通常のトランスで整流したものよりかなり下が
るため,これも音質向上に効果があったようです。このバッテリーは,6時間から8時間は充分聴ける容量が
あり,聴いた後電源を切らないでおくと自動的に充電されるようになっていました。電圧はマイコンが監視して
いて,バッテリー電圧が11.5Vまで落ちると,自動的に強制充電モードに入るようになっていました。これに
よって最適な電圧を維持し,バッテリーのライフ(約3年)をできるだけ伸ばそうという仕組みになっていました。
フロントパネル中央には,バッテリー電圧が直視できるメーターが装備され,バッテリーの動作状況を目で確認
できるようになっており,デザイン上もポイントになっていました。
バッテリーそのものは,自動車のバッテリーを考えれば分かるように,本来,充電しながらDC電源を用いるこ
とも可能で,こうすると充電中も,AC電源に切り換えるなどの操作も必要となくなりますが,こういう形で供給さ
れるDCにはACの悪影響が及ぶ恐れがあるため,SC-5では,充電の時には充電に専念させ,アンプはAC
で動作するという形になっており,バッテリーでの動作時には,DCならではの音を聴くことができるようにという
設計になっていました。このバッテリー電源の電圧を12Vに設定するのも検討の結果だったようです。12Vと
いう電源電圧は,低くて,プリアンプとしてのダイナミックレンジが充分にとれないという懸念も考えられますが
SC-5は出力を8VRMS取り出すことができ,一般的なパワーアンプの入力感度約1Vに対しては充分ドライ
ブできるものでした。さらに12Vという電圧のバッテリー駆動に合わせて増幅素子の選定等をやり直しており,
「HDMA」も新しく設計し直されていました。



電源部のDC出力は,3系統装備されていました。1系統は,SC-1専用の出力で,その他の2系統はペアを
想定したパワーアンプのSM-5用でした。パワーアンプながらSM-5は,入力バッファアンプとパワーアンプ
初段をbb-5でバッテリーによるDC駆動ができるようになっていました。パワーアンプ用のDC出力が2系統
あるのは,SM-5をBTL駆動でモノラルアンプとしてL・R2台使用するときのためでした。

以上のように,SC-5は,マランツがセパレートアンプにおけるブランクを埋めるかのように,各部に高い技
術と積み上げたノウハウを投入した高級プリアンプでした。バッテリー駆動,HDAMなど,ノイズや汚れのな
いクリーンな音を目指した設計は,刺激感のない透明で安心できる音を実現し,高い評価を得ることになり
ました。


以下に,当時のカタログの一部をご紹介します。



あの銘機”による名声が,いま蘇る・・・。
セパレートメーカー・マランツの復活を予感させる,
新時代の扉を開くステレオ・プリ・アンプ。

SC-5
◎専用電源・bb-5によるバッテリードライブを実現。
◎新開発の「NEW HDAM」(金メッキ仕様)を採用。
◎プリアンプ・ゲインコントローラーを採用。
◎豊かな音楽性を確保する細やかな配慮。


bb-5
◎鉛シール型バッテリーを使用したDCクリーン電源。
◎バッテリー電圧直視メーター
◎3系統を確保したDC出力(SC-5×1,SM-5×2)。
◎制振性に優れたコンストラクション。




●主な仕様●


■SC-5■

定格出力/インピーダンス 15V/100Ω 
全高調波歪率  0.005%(20Hz~20kHz) 
周波数特性  5Hz~150kHz+0dB,-1dB 
SN比(Aカーブ)  108dB(HIGH LEVEL) 
最大外形寸法  454W×138H×366Dmm 
重量 13.5kg 



■bb-5■

消費電力  45W(電気用品取締法) 
最大外形寸法  454W×138H×348Dmm 
重量  16.0kg 
※本ページに掲載したSC-5,bb-5の写真,仕様表等は1995年10月
 のmarantzのカタログより抜粋したもので,D&Mホールディングスに
 著作権があります。したがって,これらの写真等を無断で転載・引用等
 することは法律で禁じられていますのでご注意ください。

  
 
 
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