SONY
SS-G5
3WAY SPEAKER SYSTEM ¥68,000
1977年に,ソニーが発売したスピーカーシステム。前年の1976年に発売されベストセラーとなった
SS-G7
の弟機として,1977年にSS-G5,SS-G3(¥48,000)が発売されました。つまり「Gシリーズ」の中の中
間の機種にあたりますが,その価格や搭載ユニットの規模から見て,同クラスで当時ベストセラーであったヤ
マハの
NS-690U(¥69,
000)への対抗意識もうかがえます。
G5の特徴の1つは,G7にも採用されていた「PLUMB IN LINE方式」でした。前後方向の定位を改善ずる
ためにウーファーユニットが前に出ていて,スコーカー,トゥイーターなどの全ユニットの等価的な音源位置を
鉛直線上にそろえたもので,バッフル面においても3つのユニットは中心を揃えて一列に並んだインライン方
式がとられていました。
ウーファーユニットは30cm口径の半頂角60°のストレートコーンで,カーボンを混抄した,ソニーの自慢の
CARBOCONユニットでした。コーン紙を漉く抄紙機の開発からスタートし,抄紙方法から,成形,熱処理に
至るまで検討が加えられたもので,同心円状のリブコルゲーションを施され,CARBOCONならではの剛性
の高さと内部損失が両立されたコーンユニットでした。形状の決定にも,NASTRAN(アポロ計画等の宇宙
開発の中で,宇宙船の複雑な形状の力学的挙動を解明するために用いられたコンピューター技術・プログラ
ム)が応用されていました。
磁気回路は,総磁束112,500マクスウェルに及ぶ強力なもので,この磁気回路は,アルニコマグネットと
T型ポールに加え,特殊鋼材(FC材)を用いたもので,高調波歪みの発生を抑えていました。
フレームには,ステー部を強く,外周部を厚くし,さらに多数のリブを外周部裏面に設けることで剛性を高めた
アスミダイカストフレームを採用していました。
ミッドレンジは,バランスドライブ型を採用した8cm口径のコーン型を搭載していました。通常のコーン型より
大きなセンタードームを持ち,有効面積を小さくした形のユニットで,コーン紙をでき>るだけ忠実にピストン運
動させるために,コーン紙に対するボイスコイルの位置・ドライブポイントに注目して改良を施したユニットでし
た。磁気回路には,フェライトマグネットとT型ポールが採用され,リニアリティが高められていました。このミッ
ドレンジは,受け持ち帯域の5.5kHzまで高いリニアリティでピストニックモーションが可能で,実際には10
kHz程度までカバーできるほどの特性を持っていました。
トゥイーターは,2.5cm口径のドーム型で,振動板は,厚さ20ミクロンのチタン箔を一体成形したもので,
20,000Hzまで正確なピストニックモーションを可能としていました。
ネットワークもしっかり検討されたものでした。ウーファー用にSS-G7と同様のオリエントコアに1.5mmの太い
導線を巻くことで抵抗値を0.2Ω以下に抑えたインダクターを用い,さらに,線間の共振の影響を防ぐために
特殊樹脂でしっかり固定していました。また,コンデンサーには,内部損失が少なく音質的にもすぐれた特性を
持つメタライズドフィルムコンデンサーを使用していました。
エンクロージャーはバスレフ方式で,フロントバッフルは,18mm厚のカラ松材によるパーティクルボードで,そ
の他の面には18mm厚針葉樹系高密度パーティクルボーという,強固なものとされていました。
バッフル面には,ソニー独自の「AGボード」を採用していました。「AGボード」は,バッフルボードからの不要な
反射が直接波に悪影響をえる現象を抑えるために,バッフル面に無数の縦横の溝を刻み反射波が散乱する
ようにしたもので「Accuusticcal Grooved Board」(アコースティカル・グルーブド・ボード)の略でした。さらに,
音質上望ましいトゥイーターとミッドレンジの近接配置を実現しつつバッフル板の強度を落とさないため,トゥイー
ターとミッドレンジをユニットボードで一体化させてバッフル面に取り付けていました。
SS-G5には,別売で専用のスタンドWS-G5が用意されていました。重量が13.5kgという重量級のしっかり
したもので,これを使うとSS-G5がフロア型的に鳴らせるようになっていました。
以上のように,SS-G5は,SS-G7で高い評価を得たソニーが,Gの名称でシリーズ化すべく作り上げられた
中級モデルでした。G7のスケールダウンともいえますが,しっかりと技術的内容を受け継ぎ,低音がしっかり
ベースを支えるバランスのとれた音をもっていました。
SONY
SS-G5a
3WAY SPEAKER SYSTEM ¥79,000
1980年に,SS-G5はSS-G5aにモデルチェンジされました。細かな点も含め,約30ポイントの見直しが
行われたということでした。
CARBOCONによるストレートコーンウーファーはさらに改良が加えられていました。コーン紙は,G5a用に
さらに改良を加えた新開発のものが使用され,エッジ部は上級機G9と同じくコンプライアンスが大きく音の>
色づけが少なくなるウレタンエッジが新たに採用されていました。駆動系も強化されていました。ボイスコイル
は直径50mmから75mmへと大口径化され,不要振動を抑えるためにボイスコイルボビンや補強リングの
強度もアップされていました。T型ポールの磁気回路はさらに強化され,磁束密度は25%アップしていました。
そして,溝加工されたプレートで,逆起電力による磁気の乱れも抑えられていました。ダイキャストフレームは
背面開口率をアップし,振動板の動きを改善し,強度を高めてフレームの鳴きをさらに抑えていました。
ミッドレンジは,同じく8cm口径のバランスドライブ型が継承されていましたが,振動板は,特に新開発された
ものが搭載されていました。また,エッジのダンプ剤,含浸剤にも検討が加えられていました。ボイスコイルに
は新たに純度の高いアルミ線が採用され,感度がアップされていました。また,ボイスコイルボビンの強化も
行われ,その他,ドーム部の吸音材には音質的な癖の少ないフェルト系の素材が採用されていました。
トゥイーターには,新たにGシリーズの上級機G7,G9にも使用されているバランスドライブ型の技術を導入し
た3.5cm口径バランスドライブ型ユニットが搭載されていました。NASTRANによる振動解析によって得ら
れた形状,材質をもとに決定された振動板が搭載され,人工皮革によるエッジが採用されていました。ボイス
コイルには,細いコイルを巻くために強度アップと音質上のメリットから銅線が採用されていました。また,大
入力に対する強度を高めるために,耐熱性が高く,鳴きの少ないボイスコイルボビンが採用されていました。
ユニット前面のイコライザーも形状,材質に検討が加えられ,鳴きが減少していました。
エンクロージャーにも検討が加えられていました。バッフル板,裏板,側板の性質を変えて響きをコントロール
し,構造にも検討を加えて響きの質を高めていました。また,溝加工をフロントバッフルと裏板に施すことで,
不要な鳴きを減少させていました。さらに,補強と吸音処理,制振材などにも検討を加え,音のクリアさを向上
させていました。
ネットワークもパーツや構成などの面で大きく改良されていました。基板には新たに70μのパターン厚をもち
断面積が従来の4倍にもなるものを採用していました。そして,配線材に音質ロスの少ない無酸素銅線を使用
していました。また,ウーファー用コイルをコンプレッションモールド(SBMCで固めている)して不要な共振を抑
え,ネットワーク基板から話して取り付け,フラックスの影響を抑えていました。
パーツ類も見直しが行われ,電
解コンデンサーはすべてプラスチックケース入りのものを使用し,メタライズドポリエステ
ルフィルムコンデンサー
を電解コンデンサーに並列接続する構成となっていました。アッテネーターは,接点の接触抵抗を減らし,音質
の劣化を低減していました。
以上のように,SS-G5aは,各部に見直し・改良が行われ,Gシリーズのミドルレンジを受け持つ強力なスピー
カーシステムとなっていました。ブックシェルフタイプながら大きめのエンクロージャーからスケール感豊かな音
を聴かせ,モデルチェンジによりクリアさも増していました。