SONY SS-RX7
3WAY SPEAKER SYSTEM ¥59,000
1982年に,ソニーが発売したスピーカーシステム。ソニーは,1980年代に入り,独特の角形平面振動板APM
を搭載した「APMシリーズ」を展開し,注目を集めますが,その一方で1976年のSS-G7以来のオーソドックスな
コーン型ユニットをベースとした3ウェイシステムである「Gシリーズ」を展開しバランスのとれた音で定評を得ていま
した。そうしたオーソドックスなコーン型システムの系譜に新たな素材の振動板を開発・導入して発売されたのが
SS-RX7でした。
SS-RX7の最大の特徴は,スコーカーユニットにありました。スコーカーユニットは,10cm口径のコーン型で,新
開発の「POMウィスカー振動板」が搭載されていました。再生音を濁らせる振動板の分割振動を抑制するには,
分割振動が起きる周波数をできるだけ高くして使用帯域外へ追いやってしまう方法と,振動板に内部損失の大き
い材料を用いて分割振動が起きても影響を最小限に抑え込む方法があり,この2つを両立させることが理想の振
動板ということになります。2つを両立させる,高剛性,軽質量,大きな内部損失という相反する条件を満たすため
に,当時,国産オーディオメーカーは,樹脂系,金属系など様々な振動板を開発していました。「POMウィスカー振
動板」もそうした中の一つでした。
ウィスカーは,ヒゲのように針状に成長した単結晶のことで,軽量かつ強度が大きいという特徴を持っています。し
かし,樹脂のような有機材料で欠陥(転位)や不純物の少ない良質なウィスカーを量産・実用化することはきわめ
て難しいことでした。ソニーは,工業技術院の繊維高分子材料研究所との共同研究によって「POM(ポリオキシメ
チレン)ウィスカー」を完成させたということでした。
「POMウィスカー」は,太さ1〜3ミクロン,最長150ミクロン前後の針状の単結晶が数10〜数100本,ウニのよう
に中心から四方八方突き出た形状で,重さは炭素繊維より軽く(比重1.49,炭素繊維は約1.7),樹脂にきわめ
て均一に分散し,ぬれ性,密着性も良好です。さらに,高い弾性率をもち,アルミやチタンの約1.8倍にあたる秒速
9,000mという音速をもつという音響材料でした。
「POMウィスカー振動板」は,内部損失が大きく,分割振動の影響が小さい反面,重くなりやすく剛性が不足がち
という特性を持つ樹脂系の振動板の特長を生かしながら,高剛性,軽質量という条件を付加しようとしたもので,新
しい音響材料「POMウィスカー」とポリプロピレンを主体としたポリオレフィン系樹脂を複合化した振動板でした。こ
の両者の複合により,大きな内部損失に加え,高剛性,軽質量という特性も併せもつことになり,より理想的な振
動板を実現していました。
この世界初の「POMウィスカー」10cm口径コーン型振動板のスコーカーは,効率のいいストロンチウムマグネット
の磁気回路で駆動され,マイルドでバランスのとれた中域再生が実現されていました。また,フレームには剛性の
高いアルミダイキャストフレームが採用されていました。
ウーファーは30cm口径のコーン型で,宇宙船の振動解析法NASTRAN(アポロ計画等の宇宙開発の中で,宇
宙船の複雑な形状の力学的挙動を解明するために用いられたコンピューター技術・プログラム)による解析とヒヤ
リングによって割りだされた形状のストレートコーンが搭載されていました。同心円状のリブコルゲーションを施さ
れ,従来に比べ暖かみのある低音が得られる素材のコーン紙が用いられ,応答性にすぐれたウレタンエッジ,高
リニアリティダンパーが採用され,ごく低域までの安定した振動板の動作が実現されていました。
トゥイーターは,2.5cm口径のソフトドーム型で,柔軟な特殊フィルムを用い,エッジとドームを一体成形したもの
でした。駆動系は,スコーカー同様に効率のいいストロンチウムマグネットの磁気回路で駆動され,アルミダイキャ
ストフレームが採用されていました。
キャビネットは,内容積55リットルのバスレフ型で,すべての板材に高密度パーティクルボードを採用した堅牢な
構造で,不要な振動が抑えられていました。さらに,バッフル板及び裏板の内面外周部に細溝を施して銅板を含め
た各板の振動周波数を微妙にコントロールし,和音に近い耳あたりのよい鳴りを主観評価法などで設定していまし
た。
ネットワークは,プラスチックケース入り電解コンデンサー,無酸素銅線を使用したコイル,内部配線材など良質な
パーツを投入したものが搭載されていました。低歪み,低損失かつ聴感的に判断されたパーツ群でした。
以上のように,SS-RX7は,オーソドックスな中にも,新しい素材を導入して作り上げられたスピーカーシステムで
した。APMで新しい方向性をめざしていたソニーのもう一つの音ともいえる,パルプコーンとソフトドームによるやわ
らかさをもったバランスのとれたしなやかな音はまた別の魅力を持っていました。
SS-RX7には,弟機SS-RX3も発売されました。同じ方式のユニットを搭載しトゥイーターは共通で,ウーファーが
20cm口径,スコーカーが7cm口径で,デザイン的には共通性を感じさせながら全体に小型化されていました。

SONY SS-RX3
3WAY SPEAKER SYSTEM ¥33,000×2(2台1組)


以下に,当時のカタログの一部をご紹介します。



新しい振動板素材の開発を糧に,
スピーカーの音楽再現性のポテンシャルを拡大する。
マイルドなボーカル,シルキーなハーモニーに
そのねらいが色濃く反映しています,RX。

◎夢の新素材POMウィスカーは,振動
 板に求められる条件をオールラウンド
 クリアーする。
◎POMウィスカー振動板をミッドレンジ
 に採用,マイルドなボーカル,シルキー
 なハーモニーに新境地を拓く RX7。
◎30cmコーン型ウーファー
◎10cmコーン型ミッドレンジ
◎2.5cmソフトドーム・トゥイーター
◎板振動周波数を分散したキャビネット
◎良質パーツを投入した低ひずみネットワーク




●主な仕様●

  SS-RX7 SS-RX3
形式 3ウェイ位相反転型 3ウェイ位相反転型
使用スピーカー 低音用:30cmコーン型
中音用:10cmコーン型
高音用:2.5cmドーム型
低音用:20cmコーン型
中音用:7cmコーン型
高音用:2.5cmドーム型
インピーダンス 6Ω 6Ω
定格最大入力 100W 75W
瞬間最大入力 200W 150W
出力音圧レベル 93dB/W/m 91dB/W/m
実効周波数帯域 30〜25,000Hz 38〜25,000Hz
クロスオーバー周波数 900Hz,4kHz 1.2kHz,7kHz
大きさ 370W×660H×350Dmm 285W×515H×280Dmm
重さ 19.5kg 10.5kg
付属品 スピーカーコード3m スピーカーコード2本
※ 本ページに掲載したSS-RX7,SS-RX3の写真・仕様表等は,
 1982年10月のSONYのカタログより抜粋したもので,ソニー株
 式会社に著作権があります。したがって,これらの写真等を無断
 で転載,引用等をすることは法律で禁じられていますので ご注意
 ください。

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