Technics ST-G6T
FM/AM STEREO TUNER ¥49,800
1984年に,テクニクス(現パナソニック)が発売したFM/AMチューナー。テクニクスは,スピーカーからスタートした
ブランドでしたが,バリコンチューナーの時代からチューナーの分野でもすぐれた性能の製品を作っていました。シン
セサイザーチューナーが主流になった1980年代に入り,薄型のスマートなチューナーを次々製品化していきました
が,あまり目立つ存在ではありませんでした。そうした中,1983年に,多くの新技術を投入したST-G7を発売し,人
気モデルとなり,高い評価を受けました。その弟機として,また次世代のモデルとして発売されたのがST-G6Tでした。
ST-G6Tは,ST-G7の技術を継承し,クォーツ制御,DC構成といった技術をより合理化した形で設計されていました。
フロントエンドとMPX回路にクォーツ制御を採用し,世界初のツイン・クォーツ構成となっていました。フロントエンド部
では,クォーツシンセサイザーチューナーとして,希望局の電波をクォーツで正確に水晶精度でロックし,周波数ドリフト
のない安定した同調精度が実現されていました。
クォーツシンセサイザー部は,基準周波数を可聴帯域外の25kHzに設定し,音楽信号への悪影響を防ぎ,SN比の改
善が図られていました。また,シンセサイザー部には,テクニクス伝統のスワローインカウンタ方式が採用されていまし
た。1/16,1/17の分周期をプリスケーラコントローラ(PLLシンセサイザの出力周波数が高くなり,可変分周回路が応答
できない場合に,前段に挿入される固定分周比の高速カウンタ)で制御する特殊な分周方式により,スプリアス妨害が
放送帯域内に発生することが抑えられ,伝送特性がより高められていました。
MPX回路においては,従来の19kHzのパイロット信号を基準とする第1PLL(ループ1)に,クォーツ発振信号を基準
とする第2PLL(ループ2)を加えたダブルPLL構成となっていました。これにより,PLL・MPX回路におけるVCO(電圧
制御発振器)のフリーランニング周波数が第2PLLで常に19kHzにクォーツロックされ,スイッチング信号のクオリティ
が大きく高められ,安定した波形伝送が実現されていました。
さらに,クォーツコントロールされたMPX回路には,新開発のダイナミック型リニアスイッチング回路が採用されていま
した。従来のスイッチング回路は二重平衡型差動方式で,素子構成上非直線性の発生は避けられず,比直線部をコ
ンポジット信号が通過した際に位相ズレを発生していました。リニアスイッチングMPX回路では,スイッチング部を大幅
にシンプル化し,非直線性を廃したダイナミック型のスイッチング部を構成することで,リニアリティを大幅に向上させて
いました。このリニアスイッチングMPX回路は,テクニクス伝統のFM検波出力とステレオMPXのダイレクトカップリン
グによる効果をより高め,広ダイナミックレンジ,低歪み化を実現していました。
また,MPX回路でステレオ復調用に使用し,後は不要となる19kHzパイロット信号を電子回路でシャープにキャンセ
ルする,パイロット信号キャンセル回路が搭載され,さらに信号変動によるリークもオートレベルアジャスタで極少に抑
えられていました。



そして,これらのリニアスイッチングMPX回路,パイロット信号キャンセル回路,オートレベルアジャスタは,約800素
子を高度な半導体技術によってステレオデコーダーICとしてワンチップ化し,信号の純度を高めるとともに,安定度・信
頼性を確保していました。IC化の成果は,106dB以上という広ダイナミックレンジの実現にもつながっていました。
テクニクス伝統のチューナーのDC化もしっかり行われ,ST-G6Tでも,RF系を含めたDC増幅,DC検波,DCステレオ
復調となっており,4Hz〜18kHz(+0.2dB,−0.5dB)と,超低域からの平坦な周波数特性,正確な波形再現能力
が確保されていました。
IF部には,FM IFリニアアンプICが搭載され,もう一つのIC化が行われていました。バルク波群遅延平坦型セラミックフィ
ルターと新設計の位相補正回路を独立させ,IF回路の選択度特性と位相特性を両立させるとともにDC化伝送の忠実度
をさらに高めていました。
IF回路は,音質優先で±400kHz離調40dBの高選択度を持つノーマル回路と,±200kHz離調25dBの狭帯域・高
選択度を持ち,隣接妨害に極めて強いスーパーナロウ回路が搭載されており,この2系統の回路を妨害信号の有無・強
弱や入力信号レベルに応じて,マイクロコンピューターが自動的に切換えるオートIFが搭載され,常に最適受信が可能と
なっていました。また,この一連の回路の動作はLCDディスプレイの表示されるようになっており,受信状態が確認でき
るようになっていました。そして,ノーマル/スーパーナロウのマニュアル切換えも可能となっていました。
ST-G6Tは,末尾に”T”が付く型番が示すとおり,クォーツ・プログラムタイマーが内蔵されていました。マイクロコンピュー
ターが,FM/AM受信局と電源on/off時刻をコントロールするエアチェックに便利な機能でした。タイマーの動作モードは
毎日動作(every)1通り,1回動作(once)1通りで,1日2回のタイマー設定が可能となっていました。時刻セットは,up/
downの2キーで時・分が各々独立してセットできるようになっていました。また,clockボタンを押せば放送をリスニング中
でも瞬時に現在時刻表示になり,メモリーを保持しながらプログラム動作を一時的に停止するタイマーon/offボタンも独立
して装備されていました。さらに,リアパネルには最大680WのACアウトレットが装備されていました。このACアウトレット
は本体電源と連動型なので,テープデッキなどここに接続した機器のタイマーとしても働くようになっていました。
その他,ST-G6Tは,マイクロコンピューター搭載による多彩な機能が搭載されていました。チューニングは,最近辺の局
を捜し出して自動的にクォーツロックするオートスキャンチューニング,up/downキーによるマニュアル同調,局を捜してボ
タン一つで順次メモリーしていけるオートメモリー,FM/AMの区別なく16局までプリセットできるランダムアクセスメモリー
が搭載されていました。オートスキャンのスキャンニングレベルは,10dBステップで30dBから50dBまで3段階の設定が
可能となっていました。また,受信局の信号強度を2dBステップで54dBまでデジタル表示するシグナルストレングスリード
アウトも搭載されていました。
その他,精度99.999%の333Hz基準信号を出力し,テープデッキの録音レベル設定に使えるクォーツレベルチェック,
電波状態と回路状態をコンピューターが自動チェックして受信状態が一定以上で高品位エアチェックが可能なときに点灯す
るシグナル・フィデリティ・インジケーターも搭載されていました。

以上のように,ST-G6Tは,シンセサイザーチューナーとして,機能,操作性,性能のバランスのとれた完成度の高いチュー
ナーでした。1985年の通産省グッドデザインに選定されるなど,デザイン的にも薄型の筐体にバランスよく機能・表示部を
配した洗練されたものでした。エアチェックチューナーと称するように,当時はまだよく行われていたエアチェック(死語?:FM
放送などからの録音)に便利な1台でした。


以下に,当時のカタログの一部をご紹介します。



Dレンジ106dB,歪率0.009%。
クォーツタイマー内蔵。
高音質&多機能を極めた
エアチェック・チューナーです。

◎DCツイン・クォーツ,リニアスイッチングMPX・ICを搭載
●IC化の成果。106dBもの広Dレンジ。
●もうひとつのIC化。FM IFリニアアンプIC。
●25kHzリファレンス周波数・スワローインカウンタ方式で
 高SN比を実現。

◎隣接局妨害を自動排除
 FM多局時代に応えるオートIF

●隣接局の妨害波を鋭くカット。オートIF。
●点灯したら高品位エアチェックの準備OK。
 シグナル・フィデリティ・インジケータ。

◎使い勝手に極めてすぐれたクォーツ・プログラムタイマー
●clockボタンを押せば,リスニング中でも
 瞬時に現在時刻を表示します。
●メモリーを保持しながらプログラム動作を一時的に停止する,
 タイマーon/offボタンも独立して装備しています。
●リアパネルには最大680WのACアウトレットを装備。

◎大容量コンピュータが可能にした
 テクニクスならではの多彩な操作機能

●シグナルストレングスリードアウト。
●クォーツレックレベルチェック。
●3段切換えスキャンニングレベル。
●オートスキャンチューニング,オートメモリー,
 FM/AM16局ランダムアクセスメモリー。
●最適受信位置に移動・セットできる
 高感度・大型AMループアンテナ。




●ST-G6Tの定格●

(FMチューナー部)

受信周波数帯 76.1〜89.9MHz
実用感度 10.3dBf,0.9μV(IHF’58)
50dB(S/N)感度 モノラル 18.1dBf,2.2μV(IHF’58)
ステレオ 38.1dBf,22μV(IHF’58)
全高調波歪率 モノラル 0.009%(normal)
ステレオ 0.015%(normal)
ダイナミックレンジ 106dB
周波数特性 4Hz〜18kHz +0.2dB,−0.5dB
実効選択度 normal 40dB(±400kHz)
super narrow 25dB(±200kHz)
キャプチュアレシオ 1.0dB
イメージ妨害比 90dB(83MHz)
IF妨害比 105dB(83MHz)
スプリアス妨害比 110dB(83MHz)
AMサプレッション 55dB
ステレオセパレーション 20Hz  60dB
1kHz  70dB
10kHz 57dB 
リークキャリア −70dB(19kHz)
アンテナ 75Ω(不平衡型)


(AMチューナー部)

受信周波数帯 522〜1629kHz
実用感度 290μV/m,20μV(SN=20dB)
選択度(±9kHz) 50dB
イメージ妨害比(999Hz) 40dB
IF妨害比(999Hz) 60dB


(総合)

出力電圧 0.6V
消費電力 9.5W
時計動作時:7W
電源 AC100V 50/60Hz
外形寸法 430W×64H×241Dmm
重量 2.3kg
停電補償 約1週間


(タイマー部)

クロック機能 クォーツロック式,24時間表示
時間精度(平均室温25℃) 月差±10秒以内
タイマー機能 24時間のタイムプログラミング
everyday動作:1回
once動作:1回
プログラム内容 FM/AMの受信局と電源on-off
時刻の設定
タイマーセット時間間隔 0時0分〜23時59分(1分間間隔)
優先動作 once優先動作
※本ページに掲載したST-G6Tの写真,仕様表等は1984年10月の
 Technicsのカタログより抜粋したもので,パナソニック株式会社に著
 作権があります。したがって,これらの写真等を無断で転載・引用等
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