SONY ST-J55
FM STEREO FM-AM TUNER ¥49,000

1979年に,ソニーが発売したFM/AMチューナー。1978年に高級チューナーST-J88,さらに,同年に中級機の
ST-J60(¥54,800)を発売し,シンセサイザーチューナーにおける高い技術を示していました。そして,ST-J60
の後継機として発売されたのがST-J55でした。

ST-J55は,ST-J88,ST-J60の「クリスタルロック・シンセサイザー方式」が採用され,安定した受信が可能となっ
ていました。通常チューナーは,受信周波数を周波数変換して,増幅,検波するスーパーへテロダイン方式であるた
め,正確で安定した局部発振周波数をつくることが重要になります。ST-A7Bで開発された「クリスタルロックシステ
ム」では,局部発振回路に水晶発振子を用いて周波数をロックするため,安定度と周波数のデジタル表示が実現され
ていました。「クリスタルロック・シンセサイザー方式」では,「クリスタルロックシステム」をさらに進め,電圧制御発振器
(VCO=Voltage Controlled Oscilator)を用いた局部発振回路とし,加える電圧の大小によってFMでは100kHz
AMでは9kHzステップで発振周波数を変化させるようになっていました。この発振周波数と基準周波数をPLL(Phase
Locked Loop)方式で比較・コントロールするようになっていました。基準周波数には高精度な水晶発振子を用い,こ
の基準信号は,局部発振器の出力を分周したプログラマブルディバイダーからの制御信号をロックして,バリキャップを
用いた同調回路をコントロールするようになっていました。これにより,従来のバリコン式のような同調ズレがなく,マイ
クロプロセッサーによる,オールフェザータッチの選局操作が実現されていました。

ST-J55では,8局までのプリセットチューニングが可能になっていました。プリセット機能は,「マルチ・プロセス・メモ
リー」と称し,受信周波数の記憶だけでなく,モード(stereo/mono),ミューティング(on/off),といった受信機能も
同時に記憶させる機能を持ち,受信放送局を切り換えるたびにファンクションを操作する必要がないというものでした。
さらに,ST-J60以来の,FM/AMにまたがってランダムにプリセットできるランダムプリセット方式が採用され,付属の
局名表示がバックからLEDで透過照明される方式とあいまって,FM/AMチューナーとしての操作性を高めていました。
プリセットに採用されたメモリーICは,電源コンセントを抜いても記憶が解除されない,電源バックアップを必要としない
不揮発性メモリーが搭載されていました。

フロントエンドは,4段バリキャップが搭載され,デュアルゲートMOS FETが採用された,上述の「クリスタルロック・シ
ンセサイザー方式」による4連相当の電子同調フロントエンドで,強電界入力特性,スプリアス妨害排除特性が高めら
れていました。
IF段は,3個のユニフェイズフィルターが搭載され,400kHzで85dBという高選択度を実現しつつ,ステレオ歪率0.08%
(1kHz),ステレオセパレーション50dB(1kHz)というすぐれたオーディオ特性が確保されていました。検波段は,クオ
ドラチュア検波回路が採用されていました。
MPX回路は,PLL方式が採用され,パイロット信号キャンセル回路の搭載で,高域までフラットな周波数特性とすぐれ
たセパレーションが実現されていました。

AM部は,2連バリキャップが搭載されたしっかりしたもので,アンテナもよくあるループアンテナではなく,より感度のす
ぐれたバーアンテナが装備されており,良好な受信性能をもっていました。AM部には急峻な特性を持つノッチフィルター
の採用によりビート雑音も大きく低減されていました。

選局の操作系は,AUTO TUNINGとMANUAL TUNINGのUP,DOWNボタンが独立して装備され,AUTO TUNING
ボタンを使っての自動選局=QUICK SEARCH,MANUAL TUNINGボタンを使って,押し続けて連続的に周波数
がゆっくり変わるSWEEP TUNE,ワンタッチするとFMで100kHz,AMで9kHzステップで変化するSTEP TUNE
が可能となっていました。また,上述の8局までのプリセットチューニングを加えると4種類の選局方法が備えられていまし
た。
その他,機能的には,強電界,弱電界で切り替えるSTEREO MUTINGスイッチ,50%変調レベル400Hzのテストトー
ンを発生するCAL TONEスイッチが装備されていました。

以上のように,ST-J55は当時のソニーのシンセサイザーチューナーの中級機として,しっかりした内容を持ち,デザイン
的にも薄型のすっきりしたデザインは,その後の同社のチューナーに共通する洗練されたものとなっており,プリメインア
ンプTA-F55とペアにするとデザインもサイズもぴったり合うものとなっていました。性能的にも,感度と音質のバランスが
とれた実用的な1台でした。



以下に,当時のカタログの一部をご紹介します。




このスリムな容姿から,
その底力を想像できる人は少ないでしょう。
クリスタルロック・デジタル周波数シンセサイザー
チューナー/J55

FMもAMもクリスタルロック・デジタル周波数シンセサイザー。
ダイレクトランダム瞬速選局はじめ数々の新しい魅力があります。

瞬速ジャストチューニング。
クリスタルロック・シンセサイザー
・・・その豊かな資質に磨きをかけよう。

◎ワンタッチでジャストチューン。FMもAMも
 クリスタルロックデジタル周波数シンセサイザー
◎FM東京のそばにTBSをセットすることも
 FM/AMダイレクト・ランダム8局プリセット
◎1週間後の留守録音もOK。
 局といっしょに,ミューティング/モードまで記憶する
 ソニー独自の不揮発性メモリー
◎ダイレクトランダムをあわせ4スピードチューニング。
 Direct Random,Sweep Tune,Quick Search,Step Tune
◎5ステップのシグナルインジケーター
◎MOS FET採用のフロントエンド
◎高選択度,低ひずみ率設計
◎音質を重視したMPX回路
◎AMも重要なプログラムソース
◎CAL-TONEスイッチ




●ST-J55の主な仕様●


■FMチューナー部■

受信周波数 76MHz〜90MHz
アンテナ端子 300Ω平衡型,75Ω不平衡型
中間周波数 10.7MHz
SN比50dB感度 モノ   :3.5μV(IHF),16.1dBf(新IHF)
ステレオ:40μV(IHF),37.3dBf(新IHF)
実用感度 1.8μV(IHF),10.3dBf(新IHF)
SN比 78dB(モノ),73dB(ステレオ)
高調波ひずみ率
       モノ    ステレオ
100Hz:0.06%  0.08%
 1kHz:0.06%  0.08%
10kHz:0.1%   0.2%
混変調ひずみ率 0.06%(モノ),0.08%(ステレオ)
ステレオセパレーション 48dB(100Hz),50dB(1kHz),45dB (10kHz)
周波数特性 30Hz〜15kHz+0.2,−0.5dB
実効選択度 85dB(400kHz)
キャプチュアレシオ 1.0dB
AM抑圧比 60dB
イメージ妨害比 85dB
IF妨害比 100dB
スプリアス妨害比 100dB
RF相互変調妨害比 80dB
キャリアリーク抑圧比 60dB
ミューティング及び
オートチューニング動作レベル
5μV,19.2dBf
出力 750mV,4kΩ



■AMチューナー部■

受信周波数 522kHz〜1602kHz
アンテナ フェライトバーアンテナ
外部アンテナ端子付き
中間周波数 450kHz
感度 250μV/m(バーアンテナ使用時)
SN比 50dB
高調波ひずみ率 0.5%
選択度 35dB(9kHz)
イメージ妨害比 35dB
ミューティング及び
オートチューニング動作レベル
65dB/m




■電源部・その他■


電源 AC100V,50/60Hz
消費電力 12W
大きさ 430W×80H×325Dmm
重さ 3.7kg

※本ページに掲載したST-J55の写真,仕様表等は1979年10月のSONY
 のカタログ及び広報資料より抜粋したもので,ソニー株式会社に著作権があ
 ります。したがって,これらの写真等を無断で転載・引用等することは法律で
 禁じられていますのでご注意ください。

 

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