Technics SU-A900
STEREO INTEGRATED AMPLIFIER ¥74,800
1993年に,テクニクス(現パナソニック)が発売したプリメインアンプ。テクニクスブランドは家電メーカーな
がら,先進的な技術的アプローチで高性能な機器を次々と発売し,家電ブランドの中でも,最も長く続き,
頑張りを見せていたブランドでした。プリメインアンプの分野でも,早くから野心的な力作を展開し,「シンク
ロバイアス」「リニアフィードバック」「コンピュータドライブ」「クラスAA」といった技術を展開し,低歪みを徹底
して追求していきました。そうした中,上級のセパレートアンプSU-C7000,SE-A7000等の開発で得ら
れた回路技術,部品技術,構造設計等を用いて開発されたプリメインアンプが,SU-A900でした。
SU-A900の一つ目の大きな特徴は,新開発の「MOSクラスAA回路」の採用でした。テクニクス独自の
「classAA回路」をベースに発展させたものでした。「classAA回路」は,通常一つのアンプ内で行われる
電圧コントロールと電流ドライブの2 つの動作をそれぞれ独立させ,別個のアンプに受 け持たせたもので,
左右合わ せて2つの電流ドライブアンプと電圧コントロールアンプで計4個のアンプで構成 され,「VC-4ア
ンプ構成」と称していました。この「VC-4」アンプ構成は,出力イン ピーダンスが無限大の電流ドライブアン
プと出力インピーダンスが0の電圧コントロールアンプをパラレルにつなぎ,電流供給から開放された電圧
コントロールアンプが入力信号に忠実に電圧コントロールし,駆動に必要な電流は電流ドライブアンプから存
分に供給されるというある種理想的な動作方式となっていました。その結果,負荷インピーダンス変動にも
電流/電圧の位相ズレのない 安定した伝送・増幅特性を得るというものでした。
「MOSクラスAA回路」では,A級動作の電圧コントロールアンプにMOS FETが用いられ,大出力動作に
勝るバイポーラトランジスターの電流ドライブアンプが電流供給を専任する間に,電流出力=0という理想的
な動作状態ですぐれたリニアリティを発揮するようになっていました。
MOS FETはオーディオアンプの素子として,真空管のように入力電圧によって出力電流が増幅され,すぐ
れた伝送特性を持つなどすぐれた特性を持つ反面,コストが高く,大きな電流ロスが発熱につながり,大出
力には巨大なヒートシンクと強力な電源部が必要となるなどのデメリットがありました。SU-A900に搭載さ
れたMOS FETは,理想的な特性を,より合理的な価格及びボディサイズのもとに活用できるように研究開
発を続けて実現した独自のパワーMOS FETでした。
SU-A900の2つ目の大きな特徴は,「バーチャルバッテリーオペレーション」と称する新しい電源回路の搭
載でした。従来の電源回路では,家庭用電源に乗ってくる様々なノイズが基準電電圧発生器を介してオーディ
オ回路に混入し,また基準電位発生回路のツェナーダイオードも自らがノイズ源になるなどの問題がありまし
た。「バーチャルバッテリーオペレーション」では,基準電位発生回路をコンデンサーチャージに使用し,音楽再
生中,FET素子のゲートコンデンサーから電圧が供給されている間,基準電位発生回路が効果的に遮断され
オーディオ信号のノイズ汚染を防ぐようになっていました。この結果,オーディオ電源として理想とされるバッテ
リー=直流電源に近い性能が電源にもたらされているということでした。
「バーチャルバッテリーオペレーション」による電源部には,新開発のRコア電源トランスが搭載されていました。
一般的に用いられるEIトランス,トロイダルトランスのコアは,角形断面をしており,均一なコイルの巻き付け
を妨げ,これが磁束の部分集中を生み効率を低下させ,磁束の漏洩を発生してしまっていたのに対し,Rコアト
ランスは,断面が円形のコアにコイルが緊密に巻かれ,均一な磁束が形成されるため,磁束の漏洩が極めて
少なく抑えられていました。
電解コンデンサーには,電解液とアルミ箔を音質吟味するとともに,アルミ2層にレジン層をはさみ込んだ3層
ケースで振動を効果的に抑制したマスターシリーズ電解コンデンサーを採用していました。
内外の振動対策として,テクニクスがアナログプレーヤーで培っていた防振構造の技術が取り入れらえ,シャー
シベースには,すぐれた振動減衰特性を持つT.H.B.C.(Technics Hybrid Construction Base)と称する,鋼
板シャーシと硬質ラバーによる多層構造が効果的に振動を抑えていました。
ボリュームには,金メッキブラシ,鏡面仕上げカーボン抵抗体,亜鉛防振ケースを用いた高品質のものが採用さ
れ,モータードライブにより,リモコンでの操作も可能となっていました。トーンコントロールは,低雑音NFB型トー
ンコントロール回路が搭載され,DEFEATスイッチも装備されていました。ボリューム,入出力切換えなどの基本
的な操作ボタン類以外は,下部のシーリングパネルに収められ,すっきりしたフロントパネルデザインとなってい
ました。入出力切換えは,端子直結の金メッキ接点リレーによるもので信頼性が確保されていました。テープ入
出力は2系統,フォノ入力は1系統でMM/MC切換えが可能となっていました。スピーカー端子は,A,B2系統
が装備されていました。基本操作だけでなく,同時期のテクニクスのCDプレーヤー,チューナー,カセットデッキの
基本操作もできるシステムリモコンも標準装備されていました。
以上のように,SU-A900は,当時の同社のプリメインの中堅機,主力機として,要所に技術をしっかりと投入し
た完成度の高い作りとなっていました。中庸で耳障りのよい音は,音楽を雰囲気良く楽しめるアンプという性格を
もったものでした。


以下に,当時のカタログの一部をご紹介します。



圧倒的な静粛さの中に,
深々と音のステージを浮び上がらせます。
バーチャルバッテリー駆動MOSクラスAAアンプ

回路構成,素子,部品・・・全てに
独自のテクノロジーを投入し,
新たな音質評価の地平を拓きます。
新開発MOSクラスAA回路採用,
テクニクスAシリーズ。

◎クラス概念を越えた高音質を実現
 新開発MOSクラスAAパワーアンプ
◎電源ノイズを極小化,バーチャル
 バッテリーオペレーション
◎漏洩磁束を極小化した
 オリジナルRコア電源トランス採用
◎制振性をはじめ,まさにオーディオ専用
 マスターシリーズコンデンサー
◎あらゆる振動を徹底的に排除する
 T.H.C.B.(テクニクス・ハイブリット・コンストラクション・ベース)




●SU-A900の主な定格●

定格出力 65W+65W(20Hz〜20kHz,0.02%,6Ω)
50W+50W(20Hz〜20kHz,0.01%,8Ω)
定格歪率 0.01%(20Hz〜20kHz,定格出力8Ω)
全高調波歪率 0.01%(20Hz〜20kHz,定格出力−3dB,8Ω)
ダンピングファクター 60(8Ω)
負荷インピーダンス 4〜16Ω(A,B)
8〜16Ω(A+B)
周波数特性 tuner,CD,aux,tape1,tape2:
   20Hz〜20kHz(+0dB,−0.3dB)
   3Hz〜80kHz(+0dB,−3dB)
イコライザー偏差 30Hz〜15kHz(+1dB,−1dB)
入力感度/インピーダンス tuner,CD,aux,tape1,tape2:150mV/22kΩ
phono MM:3mV/47kΩ
phono MC:200μV/220Ω
トーンコントロール特性 ±10dB:50Hz,±10dB:20kHz
S/N比 tuner,CD,aux,tape1,tape2:83dB(EIAJ),100dB(IHF’66)
phono MM:80dB(EIAJ),85dB(IHF’66)
phono MC:71dB(EIAJ),64dB(IHF’66)
消費電力 160W
電源 AC100V,50/60Hz
外形寸法 430W×136H×365Dmm
重量 9.4kg
※本ページに掲載したSU-A900の写真,仕様表等は,1993年11月
 のPanasonic/Technicsのカタログより抜粋したもので,パナソニック
 株式会社に著作権があります。したがってこれらの写真等を無断で転
 載・引用等することは法律で禁じられていますのでご注意ください。

 

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