Victor
SX-700Spirit
3WAY SPEAKER SYSTEM ¥110,000
1992年に,ビクターが発売したスピーカーシステム。名前からも分かるように当時,同社の人気スピーカーシス
テムであった
SX-500シリーズの 3世代目モデル・SX-500Spiritの上級機で,さらにかつての名機
SX-7シリー
ズの流れをくむモデルとして,クルトミューラー製コーン,ソフトドームユニットなどのSXシリーズらしいユニットによ
る3ウェイシステムでした。
ウーファーは,25cm口径のコーン型で,SXシリーズ伝統の,ドイツ・クルトミューラー社製パルプコーンを採用し
ていました。また,コーン紙表面にコニカルドームを設け,剛性向上と放射特性の改善が図られていました。この
コーンユニットをドライブする駆動系には,アルニコマグネットによる内磁型磁気回路が採用されていました。
スコーカーは,5.5cm口径のソフトドーム型で,自然素材にこだわった麻のソフトドームが採用されていました。
軽くしかも粘りのある麻を弾性のある新素材エッジが支える構造で,自然な音を実現していました。また,ショート
ホーンを採用することで,放射特性を大きく改善し,音の乱れを防ぐラウンド形状のアルミダイキャストフレームと
ともに,中域の再生特性を高めていました。スコーカーユニットをドライブする磁気回路にも,アルニコマグネット
が採用され,振動系の背圧を逃すリング型マグネットとされていました。
トゥイーターは,3.5cm口径のソフトドーム型で,絹製の振動板が採用されていました。この振動板には,一眼レ
フカメラのシャッター膜にも使用されている羽二重の絹に薄膜ゴムをラミネートした構造のシルクドームが使用さ
れていました。繊細な羽二重の絹を布から成形し,手作業で薄膜ゴムをラミネートしたもので,軽く,しかも腰があ
り,すぐれたトランジェント特性で,絹本来の艶やかさに力強さを加えた高域再生を実現していました。トゥイーター
にも,新設計のラウンド形状アルミダイキャストフレームが採用され,音の乱れを防止していました。
キャビネットは,密閉型で,フロントバッフルには,適度な内部損失と高い剛性などすぐれた音響特性を持つMDF
(Midium Density Fiber Board)が使用され,ビクター独自のサウンドインテンシティ法(音の進行する方向性
を考慮した測定・分析法)による新Gラインユニットレイアウトが採用されていました。フロントバッフル裏面にはさら
に単板2mm厚のスプルース材が重ねられ,温かみのある音を実現していました。さらにキャビネット組み立て時に
1トンもの高圧で6面全部を結合する高速高圧組固め工法が導入され,頑丈なキャビネットとしていました。キャビ
ネット表面は,自然材オークの突き板仕上げが採用され,入念な塗装が施され,木の質感を生かした美しい外観
と響きの美しさが確保されていました。内部には100%ウール吸音材が使用されていました。背面のスピーカー端
子は,バイワイヤリング対応型で,金メッキが施されたものが搭載されていました。
SX-700Spiritには,別売で専用のスタンドLS-10-M(¥50,000・2本1組)が用意されていました。 4点式で
振動モードを分散することでタイトな響きが確保されていました。素材も形状も音響的な見直しが図られ,バランス
のとれた見た目にもマッチングのよいスタンドでした。
以上のように,SX-700Spiritは,実にビクターらしい設計がなされた3ウェイシステムでした。それまでの10万円
超クラスのスピーカーシステムに比べて,ユニットからキャビネットまで,見た目の大きさや物量にとらわれず,さら
っと力の抜けた設計により,音楽をバランスよく楽しく聴かせるスピーカーに仕上げられていました。そういったため
もあり,目立つ人気モデルとはいえませんでしたが,中域から高域にかけての繊細さ,小音量時にもバランスのとれ
た音など,ハード指向のシステムとは異なる魅力をもつものとなっていました。