パイオニアが1992年に発売した高級カセットデッキです。メタルテープの 高性能を徹底的に引き出すべく
ヘッド系,アンプ系に凝ったデッキでした。当時,このデッキの開発チームのリーダーが,アナログ・レコード
の音を録音し「なぜ,この音が再現できない。この音を録音するデッキを作れ。」というようなことを言ってメ
ンバーを叱咤激励したという逸話?が残っています。また,このデッキの開発にあまりにコストがかかりす
ぎたため,このデッキの発売後 この技術者は,ほかの部署に代えられたという噂もありました。事実それほ
ど, この価格では考えられないほどのコストのかかったデッキだったと思います。ファイン・チュンード・アジマス・ヘッドと称して,徹底的にヘッドのアジマスの精度を追求し,録音・再生アンプ
の広帯域化とあわせ,位相特性の改善とワイドレンジ化が図られ,メタルテープ使用時には,何と10Hz〜
30kHz±3dBもの周波数特性を誇っていました。
録音アンプにはAクラス動作FETアンプ,再生アンプにはFET差動入力,カスコード接続アンプ採用など,ア
ンプ系も凝ったものになっており,低ノイズ化が図られ,新しいドルビーSシステムの採用とあわせ,86dB以
上もの高SN比を誇っていました。FLAT SYSTEMというコンピューターによるバイアス,イコライザー,録音感度の自動調整システムを搭載
し,テープの特性に合わせた録音ができ,周波数特性の改善が図られていました。マニュアルによる微調整
ができるところもマニア好みにできていました。電源系,メカニズム系の振動対策など,各部とも強力なコンストラクションを誇り,シャーシの銅メッキ化,各部
の金メッキ処理,高品質パーツの採用などこの価格とは信じられないほどの高品質で,高品位な音を誇って
いました。
以下に,当時のカタログの一部をご紹介します。
ワイドレンジシステム,ドルビーS,FLAT
SYSTEMを登載。
豊かな音楽性でテープデッキの新しい境地
を拓くリファレンスモデル。
◎録・再周波数特性の高域限界を大幅にアップしたワイド
レンジシステムを登載。
◎広帯域化に対応したFET差動入力,カスコード接続再生
イコライザーアンプを新開発。
◎録音出力部にAクラス動作FETバッファーアンプを採用。
◎音楽信号の純度を高めるMOS FETインターフェースを
採用。
◎ローインピーダンスとハイパワーを両立させた電源部。
◎ダイナミックレンジまでも拡大する,新世代ノイズリダクシ
ョン,ドルビーSを登載。
◎テープの周波数特性をフラットに補正し,テープ性能を引
き出すFLAT SYSTEMを登載。
◎伝送ロスやノイズを排除し,高音質の録音を実現するダイ
レクトコンストラクション。
◎テープ走行の安定性を高めたスラントメカニズムを採用。
また,振動,共振を徹底的に排除して高音質を獲得。
◎録音レベルがキメ細かく調整できるピークレベルキャリブ
レーション。
●主な仕様●
トラック方式 | 4トラック2チャンネルステレオ |
ヘッド | 録音再生コンビネーション型×1
(PC−OCC巻線レーザーアモルファス録音ヘッド・PC−OCC巻線レーザーアモルファス再生ヘッド) 消去ヘッド×1 (センダストガード付ダブルギャップフェライト) |
モーター | キャプスタン用DCサーボモーター×1
リール用DCモーター×1 メカニズム駆動用DCモーター×1 |
ワウ・フラッター | ±0.04%W・PEAK(EIAJ) 0.022%WRMS(JIS) |
早巻き時間 | 約75秒(C−60) |
周波数特性 | TYPEW(メタル) 10Hz〜30kHz±3dB
TYPEU(クローム) 10Hz〜20kHz±3dB TYPET(ノーマル) 10Hz〜20kHz±3dB |
SN比 | 58dB以上(EIAJ/ピーク録音レベル,TYPEW,聴感補正)
64dB以上(DOLBY NR OFF,第3次高調波歪率3%,TYPEW,聴感補正) 73dB以上(DOLBY B−TYPE NR,第3次高調波歪率3%,TYPEW,聴感補正) 80dB以上(DOLBY C−TYPE NR,第3次高調波歪率3%,TYPEW,聴感補正) 86dB以上(DOLBY S−TYPE NR,第3次高調波歪率3%,TYPEW,聴感補正 B・P・F) |
入力端子 | ライン 95mV(入力インピーダンス47kΩ) |
出力端子 | ライン 0.5V(出力インピーダンス0.9kΩ)
ヘッドホン5.5mW(負荷インピーダンス8Ω ヘッドホンVR MAX) |
消費電力 | AC100V,50/60Hz,25W |
外形寸法 | 440(W)×144(H)×375(D)mm |
重量 | 8.6kg |
※本ページに掲載したT−1100Sの写真・仕様表等は1994年9月のパイオニアの
カタログより抜粋したもので,パイオニア株式会社に著作権があります。したがって
これらの写真等を無断で転載,引用等をすることは法律で禁じられていますので,
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