LUXMAN T-12
ACCUTOUCH QUARTZ LOCKED FM TUNER ¥96,000
1977年に,ラックスが発売したFM専用チューナー。セパレートアンプのC-12,M-12との
ペアを想定された「12シリーズ」のチューナーで,薄型のシンプルなデザインのチューナーで
すが,凝った内容を持つ高級チューナーでした。

フロントエンドは,デュアルゲートFETとシングル同調,トリプル同調,OSC同調のFM専用
の5連バリコンを搭載し,各高周波増幅回路の選択度を高め,十分な妨害排除能力を確保
していました。そして,選局同調部には,クォーツロック回路とアキュタッチ機構を搭載し,正
確な同調を可能にしていました。
水晶発振器を内蔵したクォーツロック回路により,ローカル発振器の発振周波数を,端数の
ない100kHz単位で変化させ,希望周波数にぴったり同調させ,温度・湿度等の変化があっ
ても,発振周波数がきちんとロックされて変化を起こさず,同調後のドリフトを排除していまし
た。 さらに,T-12では,正確な同調点をとらえるためにアキュタッチ機構が搭載されていま
した。これは,クォーツロック回路の制御電圧を利用して正確なセンターポイントを検出し,こ
れによって機械的なブレーキををかける機構でした。チューニングノブをゆっくりと回して放送
局が見つかるとノブに一時的(約2秒間)に機械的ロック(電磁ソレノイドでフライホイールを
吸着してブレーキをかける)がかかり,そこで手を離すと,RF段を含めた正確な同調点にピ
タリとロックされて止まるというユニークな仕組みでした。
また,T-12のクォーツロックは,クォーツロックがかかった状態で電源をOFFにした場合で
も,電源をONにした際には再び自動的にロック状態に戻る「Dynamic Kick System」が
採用され,電源OFFでPLL回路のループが断ち切られても,再びチューニングを取り直す必
要がないようになっていました。



水晶発振器による高精度のクォーツロック回路ですが,局部発振回路に接続されている制
御素子(バラクターなど)の容量が一定であるため,局部発振周波数が低い場合に比べて,
高い場合ほど局部発振回路の影響が大きくなり,受信周波数のロックレンジが広くなり,RF
段のトラッキングエラーの原因になる可能性がありました。そこで,T-12のクォーツロック回
路では,受信周波数が高いか低いかを検出し,これによって制御素子の制御能力をコント
ロールして,76MHz~90MHzの受信目盛の全域で常に一定の最適なロックレンジを保つ
ループゲイン・イコライザーが採用されていました。

IF段は,WIDEとNARROWの2段階の帯域切換が装備されていました。WIDEでは,特に
位相特性のすぐれたLC型ブロックフィルター(集合IFT)2個とIFアンプIC2個という構成で,
一切セラミックフィルターが挿入されない形になっており,低歪率を実現していました。このブ
ロックフィルターは,IFTを4個内蔵したもので,コストがかかっているものだそうです。
NARROWでは,これにセラミックフィルターが4段挿入され,高選択度特性が実現されてい
ました。

検波段は,広帯域特性のクオドラチュア検波回路で,IC(日立HA11211)として搭載されて
いました。ステレオ復調を行うMPX段は,正確なスイッチング信号の生成が可能なPLL回路
が取り入れられ,さらに,PLL回路を用いてMPX回路に入力された19kHzのパイロット信号
のちょうど逆位相のパイロット信号を正確に作り出し,プリアンプとデコーダーの間でキャンセ
ル回路を構成するパイロット信号キャンセラーも搭載され,ローパスフィルターの位相特性を
改善したMPX用IC(日立HA11223)が採用されていました。
そして,最終のオーディオ段には,DCアンプ構成が採用され,すぐれた音質を実現していま
した。

独特の選局機能「アキュタッチ機構」の他は,機能的には,シンプルでオーソドックスに仕上
げられていました。50%変調400Hzの録音用テストトーンスイッチ,IF帯域幅切換,局間ノ
イズを抑えるミューティング機構などが搭載されていました。その他,独特であったのが,マ
ルチパス確認機能で,ONにして小さく聴こえる放送音を最小になるようにアンテナの向き等
を調整するとマルチパスが低い向きが分かるようになっていました。
シグナルメーターは,5点LEDによるもので,センターインジケーターは,クォーツロック解除
ボタンの上のLEDによるものとなっていました。横行式のダイヤルスケールは,印字表示だ
けでなく,時計の時間目盛のような金色の金属による目盛もついた高級感のあるものとなっ
ていました。そして,薄型のシンプルな筐体ながら,しっかりとしたフレームと厚みのあるアル
ミパネルで構成された剛性のある作りは,高級チューナーらしいものでした。

以上のように,T-12は,スタイリッシュな薄型の筐体に,しっかりと技術と工夫を投入した力
作でした。独特の選局感覚と高感度とラックスらしい豊かな音質を両立させた高級チューナー
でした。


以下に,当時のカタログの一部をご紹介します。



◎正確な同調点を捕らえるアキュタッチ機構
◎改良型クォーツロック回路の採用
◎電源をOFFしても再びONすれば
 クォーツがかかる
 Dynamic Kick System
◎オーディオ段にはDCアンプ構成を採用
 などすべて音質重視が設計のテーマ
◎IF帯域幅切替の採用




●SPECIFICATIONS●
 
実用感度 1.7μV(9.8dBf)
50dBクワイティング感度 3.2μV(15.2dBf)
SN比 80dB 
歪率 WIDE 0.05%(wide,1kHz,mono)
0.06%(wide,1kHz,stereo)
0.05%(wide,100Hz,mono)
0.07%(wide,100Hz,stereo)
0.07%(wide,6kHz,mono)
0.1%(wide,6kHz,stereo)
キャプチャ比  0.8dB(wide),2dB(narrow) 
2信号選択度 60dB(narrow,300kHz)
スプリアス特性 100dB
IF妨害除去比 100dB
イメージ比 100dB
振幅変調抑圧度 62dB
ステレオセパレーション 50dB(wide,1kHz)
45dB(wide,100Hz)
45dB(wide,6kHz)
出力電圧 1V
出力インピーダンス  100Ω 
付属装置  チューニングロック機構,IF帯域幅切換
マルチパス確認用回路,録音用テストトーン回路
センターインジケーター
シグナルストレングスインジケーターほか 
外形寸法 438W×78H×322Dmm
重量 7.0kg
※本ページに掲載したT-12の写真,仕様表等は1978年
2月の
LUXMANのカタログより抜粋したもので,ラックス株
式会社に著
作権があります。したがって,これらの写真等を
無断で転載・引用
等することは法律で禁じられていますの
でご注意ください。                        

 

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