TA-AX8の写真
SONY  TA-AX8
INTEGRATED STEREO AMPLIFIER ¥130, 000

1980年に,ソニーが発売したプリメインアンプ。ソニーは,1977年頃より,新しい電源部・パルス電源を開
発し,搭載したアンプを展開。アンプの高効率化,軽量化に向かいました。そして,アンプの筐体の薄型化も
進められ,それまでのプリメインアンプやパワーアンプとはデザインイメージの異なる,薄型のモデルを展開
していきました。そうした中,回路方式にも新たな技術を展開していったのが,TA-AX8でした。

TA-AX8は,「カレントドライブアンプ」の名の下,「オーディオカレントトランスファ方式」,「レガートリニア方式」
などの技術を核に,信号も電源も電流をしっかりと考慮した設計が行われていました。
「オーディオカレントトランスファ方式」は,増幅系の最も核心となる技術で,プリメインアンプの1つの筐体内に
同居しているプリアンプとパワーアンプ間及び左右チャンネル間の干渉を徹底的に断つためのものでした。こ
の回路は,プリアンプに加えられた信号をカレント変換アンプを用いて定電流型信号系に変換し,パワーアン
プ初段の2端子型リニアゲインコントローラーを負荷とするもので,パワーアンプから見たプリアンプは無限大
のインピーダンスをもち,電気的には完全に切り離された状態に等しくなるというものでした。この方式でプリ
アンプのL・RとパワーアンプのL・Rの4つのアンプが電気的にほぼセパレート化されたことで,それぞれが独
立した特性追求がはかれるとともに,理想的な接地が可能となり,さらに入力信号と負荷がはっきり定まり,
アースループや電源インピーダンスの影響,信号経路に介在する線材やスイッチ類の影響も抑えられるなど
多くのメリットがあるということでした。

TA-AX8のブロックダイアグラムリニアゲインコントローラー

また,新たに採用された2端子型のリニアゲインコントローラーは,ゲインを下げるほどインピーダンスが低下
し,小音量時の周波数特性,S/N比,歪みなどの点で,通常のアッテネーターに比べて大きく特性の改善が
実現されていました。
プリアンプの電源部には,定電流シャントレギュレータを採用することで,パワーアンプ電源からの影響をシャ
ットアウトし,電源インピーダンスがほぼゼロとなり,安定したレギュレーションが実現されていました。

パワーアンプ部には,「レガートリニア方式」が採用されていました。これはTA-AX8で開発されたもので,これ以
降同社のプリメインアンプに広く採用された技術でした。パワーアンプ部で問題となるスイッチング歪やクロスオー
バー歪みを防ぐために,この当時,各社でノンスイッチング方式や疑似A級方式など,可変バイアスや電源電圧
値の変動などの手法が多く採用されていました。「レガートリニア方式」は,固定バイアス方式をとりながら,高速
出力素子Hi-fTトランジスタを極小カットオフ領域で働かせるもので,(1)信号系に追加される非直線性素子が皆
無(2)入力信号の大小で動作条件を変化させない(3)100kHzの超高域までスイッチング歪みが観測されない
(4)位相特性を含め安定した動作を保証,などの特徴を持ち,高速広帯域な特性が実現されていました。

パワーアンプ部のパーツHi-fTトランジスタ

パワーアンプ部に搭載されたHi-fTトランジスターは,自社開発で,細かいライン状のパターンをとったオリジナル>
のHi-fTトランジスターで,高域の信号に対する応答性を改善し,過渡混変調歪(TIM歪)を大きく低減していまし
た。このHi-fTトランジスターは高域特性のよい小電力トランジスターを無限大個集積したようなもので,大電力に
対しても十分な安全動作をするとともに,動作領域の広帯域化を実現していました。

ヒートパイプパルス電源による電源部

従来,パワートランジスターは,その発熱の放熱のため,ヒートシンクに装着されていました。TA-AX8では,回
路基板上の信号の流れから理想的な位置にパワートランジスターを配置し,それを同径の金属棒の数百倍とい
う熱伝導率を持つヒートパイプに装着し,熱をいったん回路の外に逃がし,あらためてラジエーターで放熱すると
いう構造がとられていました。この結果,大電流の流れるリード線等の線材は極少に抑えられ,歪みにつながる
磁界の発生も非常に少なくなっていました。

電源部は,ソニー自慢のパルス電源で, AC100Vをトランスレス整流回路でダイレクトに整流し,ここで得られた
直流(正確には脈流)を20kHzのパルス(方形波)に変換,高周波トランスで変圧し,再び整流してアンプの電源
電圧を得るというものでした。高い周波数のパルスを用いるため高効率で,小型のトランスで,大型のトランスを
用いた電源と同じ電源供給能力を持ち,パルス幅制御定電圧回路によりパルス幅を制御(ロック)しているので
出力の変化に対してもAC電源の電圧の変動にも強く(0〜120Wの間で電圧変動率1%以下),電源電圧の変
動がなく安定し,パルス整流なのでリップルがほとんどないため,ハムノイズがないなど,すぐれた特性を持ち,
アンプ自体のノンフラックス化にも貢献していました。

イコライザーアンプは,入出力のコンデンサーを排した,FET差動サーボイコライザーアンプで,パワーアンプ部
とあわせて,PHONO入力からスピーカー出力まで信号系に一切のコンデンサーを挿入しない完全直結DCアン
プ構成となっていました。MMカートリッジだけでなくMCカートリッジにも対応したハイゲインイコライザータイプと
なっていました。また,各種のカートリッジに対応するため,MM/MCそれぞれに対応するカートリッジロードセレ
クターが備えられていました。インピーダンス(MM用:100kΩ,50kΩ,MC用:40Ω/3Ω),容量(100pF
/180pF,330pF)がそれぞれ独立したツマミで選択できるようになっていました。

TA-AX8シーリングパネル

機能的には,オーソドックスで,上述のカートリッジロードセレクターの他,TREBLE/BASSのトーンコントロール
RECセレクター,ベースブースト,LOW FILTERなどが備えられ,電源スイッチ,ボリューム,INPUTセレクター
などの他は,下部のシーリングパネルに収められ,閉めるとすっきりした直線基調のデザインにまとめられていま
した。また,TA-AX8には,出力をやや抑え,カートリッジセレクターなどの機能をやや簡略化した,非常に類似点
の多い弟機TA-AX7も同時に発売されました。

TA-AX7の写真
TA-AX7の写真2

SONY TA-AX7
INTEGRATED STEREO AMPLIFIER ¥89,800

以上のように,TA-AX8は,1980年代に入り,パルス電源から,さらにアンプ回路をさらに新しくしていこうとす
るソニーの意欲が表れたモデルでした。そのデザインの通り,すっきりとクリアな音はソニーらしいものでしたが
薄型で軽量というオーソドックスなプリメインアンプからやや離れた筐体デザインなどが,広くオーディオファンに
受け入れられることにはならず,人気の面では成功作とはなりませんでした。しかし,ここで積み上げられた技
術は,その後の同社のアンプに生かされていくことになりました。


以下に,当時のカタログの一部をご紹介します。



「オーディオ・カレント・トランスファ方式」
「レガートリニア方式」・・・
新技術を手段に,
「シンプル&ストレート伝送」の理念の
完成に一歩一歩近づく。
これが,アンプの音を向上させる
最良の道と考えます。
ソニープリメインアンプの新次元。


AX8
出力 100W+100W,ひずみ率0.004%の
諸特性を実現。回路で素材で,
贅を尽くし,プリメインアンプの
ひとつの頂点をめざしました。


AX7
出力80W+80W,ひずみ率0.004%・・・
余裕あるパワーと,上級機AX8に
肉迫するまでに磨き抜いた,
音と特性を実現しています。


◎プリアンプとパワーアンプ間の干渉を断つ
 「オーディオ・カレント・トランスファ方式」が,
 TA-AX8,TA-AX7の核心となる技術です。
◎パワーアンプのスイッチングひずみ,クロス
 オーバーひずみを追放し,なめらかな再生音 
 を生む「レガートリニア方式」。
◎シンプル&ストレート伝送
◎ヒートパイプ
◎パルス電源
◎Hi-fTトランジスタ
◎完全直結DCアンプ




●主な仕様●

 
TA-AX8
TA-AX7
実効出力
100W+100W
(20Hz〜20kHz,両チャンネル動作時,
  高調波ひずみ率0.004%,8Ω負荷)
80W+80W
(20Hz〜20kHz,両チャンネル動作時,
  高調波ひずみ率0.004%,8Ω負荷)
出力帯域幅
5Hz〜100kHz
(40W出力,高調波ひずみ率0.02%,IHF)
5Hz〜100kHz
(40W出力,高調波ひずみ率0.02%,IHF)
ダンピングファクター
150(1kHz,8Ω)
150(1kHz,8Ω)
高調波ひずみ率
実効出力時:0.004%(20Hz〜20kHz)
50W出力時:0.003%(20Hz〜20kHz)
実効出力時:0.004%(20Hz〜20kHz)
40W出力時:0.003%(20Hz〜20kHz)
混変調ひずみ率
(60Kz:7kHz=4:1)
実効出力時:0.004%
50W出力時:0.003%
実効出力時:0.004%
40W出力時:0.003%
スルーレート
250V/μsec
520V/μsec(インサイド)
200V/μsec
480V/μsec(インサイド)
ライズタイム
0.3μsec
0.3μsec
セパレーション
PHONO MC:70dB
PHONO MM:85dB
TUNER/AUX/TAPE:95dB
PHONO MC:70dB
PHONO MM:85dB
TUNER/AUX/TAPE:95dB
周波数特性
PHONO MM:RIAAカーブ±0.2dB
TUNER/AUX/TAPE 1,2:0.1Hz〜600kHz+0,−3dB
PHONO MM:RIAAカーブ±0.2dB
TUNER/AUX/TAPE 1,2:0.1Hz〜600kHz+0,−3dB
入力感度
PHONO MM(100kΩ,50kΩ):2.5mV
PHONO MC(40Ω,3Ω):130μV
TUNER/AUX/TAPE 1,2:150mV
PHONO MM(50kΩ):2.5mV
PHONO MC(40Ω,3Ω):130μV
TUNER/AUX/TAPE 1,2:150mV
入力インピーダンス             抵抗           容量
PHONO MM:100kΩ,50kΩ/100pF,180pF,330pF
PHONO MC:100Ω,30Ω
TUNER/AUX/TAPE 1,2:50kΩ
          抵抗     容量
PHONO MM:50kΩ/100pF,330pF
PHONO MC:100Ω,30Ω
TUNER/AUX/TAPE 1,2:50kΩ
最大許容入力
PHONO MM:310mV
PHONO MC:15mV
PHONO MM:160mV
PHONO MC:8mV
SN比
PHONO MM:84dB,81dB(IHF-A202,1978)
PHONO MC:70dB,70dB(IHF-A202,1978)
TUNER/AUX/TAPE 1,2:85dB,92dB(IHF-A202,1978)
PHONO MM:83dB,80dB(IHF-A202,1978)
PHONO MC:64dB,70dB(IHF-A202,1978)
TUNER/AUX/TAPE 1,2:85dB,92dB(IHF-A202,1978)
出力端子
REC OUT1,2 出力電圧:150mV/出力インピーダンス:220Ω
SPEAKER A,B 適合インピーダンス:4〜16Ω(A,B同時動作8〜16Ω)
HEADPHONES 負荷インピーダンス:8Ω以上
REC OUT1,2 出力電圧:150mV/出力インピーダンス:220Ω
SPEAKER A,B 適合インピーダンス:4〜16Ω(A,B同時動作8〜16Ω)
HEADPHONES 負荷インピーダンス:8Ω以上
トーンコントロール
BASS(低音)±10dB(60Hzにて,ターンオーバー周波数 300Hz)
TREBLE(高音)±10dB(25kHzにて,ターンオーバー周波数5kHz)
BASS(低音)±10dB(60Hzにて,ターンオーバー周波数 300Hz)
TREBLE(高音)±10dB(25kHzにて,ターンオーバー周波数5kHz)
ベースブースト
+4dB,50Hzにて
+4dB,50Hzにて
ローフィルター
15Hz以下,6dB/oct
15Hz以下,6dB/oct
ミューティング
−20dB
−20dB
消費電力
190W
170W
大きさ
430W×105H×350Dmm
430W×105H×350Dmm
重さ
約7kg
約6.7kg
 ※本ページに掲載したTA-AX8,TA -AX7の写真,仕様表>等は,1980年
  12月のSONYのカタログより抜粋したもので,ソニー株式会社に著作権
  があります。したがってこれらの写真等を無断で転載・引用等することは
  法律で禁じられていますのでご注意ください。

 

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