TA-ER1の写真
SONY TA-ER1
STEREO PREAMPLIFIER ¥1,000,000

1991年にソニーが発売したプリアンプ。同社の高級機ブランド「ESPRIT」が消えてしまって以来,久しぶりの
ソニー製の単体プリアンプで,高級機揃いの「Rシリーズ」の1台として,ソニーブランドで発売され,デジタルオ
ーディオ時代のプリアンプとして性能が追求された1台でした。

CDプレーヤーがメインのデジタルオーディオ時代になり,定格出力の高いCDプレーヤーからの出力を直接パ
ワーアンプにつなぎ,接点や増幅系を最小限にして伝送ロスを少なくして高音質を実現しようとする考え方「プリ
アンプ,コントロールアンプ不要論」が出てきました。そうした中,「信号の伝送状態を理想化するための機器」と
いう新しいコンセプトで開発されたのがこのTA-ER1でした。それだけに,実伝送S/Nが徹底的に高められた設
計が大きな特徴となっていました。

TA-ER1では,まず,ノイズに強いバランス伝送を採用し,さらにそのノイズ打ち消し効果を高めるために,バラン
ス入力端子と高平衡度バランスアンプを直結し,入力した信号をただちに差動合成する構成としていました。この
ため,高平衡度バランスアンプのもつCMRR(同相除去比)50dBをすべてノイズ除去に生かすことができ,通常
120dB前後である伝送路のSN比は170dB前後まで高められていました。

さらに,コネクターの接触抵抗,ケーブルの内部抵抗などによる信号ロスを生む電圧降下を少なくするために,高
入力インピーダンス設計が行われていました。入力インピーダンスを通常の20kΩ〜100kΩからバランス入力
4MΩへと高めていました。これにより,信号電流は通常に比べ1/40〜1/200になり,それとともに歪みも十分
に抑えられていました。この高入力インピーダンス設計は,入力機器側にとってドライブの負担が少なく,低域信
号が−側から+側へゼロクロスするときの歪みの改善が大きいなどの効果がありました。

また,アンバランス入力に対してもバランスアンプのメリットを生かす構成がとられていました。バランスアンプの
ホット,コールドの入力に,ピンジャックのホット,シールドをそれぞれ接続し,ピンジャックのホット・シールド間に
伝えられてきた信号のみ増幅し,シャーシ内部のグランド電位の揺らぎは増幅しない構成となっていました。これ
により,アンバランス信号に対してもうより正確にSN比を高く増幅できるようになっていました。
その上で,グランドラインの管理を徹底するため,バラレルスイッチド・ファンクションが採用されていました。これは,
入力セレクターでホット,シールドの切替を同時に行うもので,増幅の基準となるグランドラインには,選択された
入力端子のシールド側のみが接続され,他の機器のシールドは切り離されるようになっているものでした。これに
より,プリアンプに集中する複数の機器からもたらされるグランド電位の揺らぎをなくし,アンバランス入力の音質を
向上させていました。

パワーアンプへの強力な信号ドライブを行わせるために,TA-ER1はパワーMOS FETをコンプリメンタリーペアで
使用したMOSダイレクトSEPP方式出力回路を搭載していました。MOS FETは音楽信号に影響を与える歪みが
少なく,コンプリメンタリーSEPP回路にすると歪みが相殺されていっそうの低歪み特性が実現されるということでし
た。MOSダイレクトSEPP方式出力回路は,そのすぐれた特性をより生かすために,前段のバイアス回路に通常バ
イアス安定化のためにつけられるソース抵抗も排除したものでした。このようなMOSダイレクトSEPP方式は,プリア
ンプとパワーアンプ間のケーブルが長い場合でもしっかりした音質を実現していました。

XLRターミナルバランス入力は,CDとラインの2系統が備えられ,ピンジャック・アンバランス入力はフォノ2系統,CD
チューナー,ライン4系統,テープ2系統の10系統が備えられていました。バランス入力にはフェーズインバートスイッ
チも設けられ,3番ホット,2番ホットのいずれの入力機器にも対応できるようになっていました。
一方,プリアウトはバランス出力とアンバランス出力が各1系統装備され,いずれも正相/逆相のペア出力端子が設
けられ,海外製に多い2番ホットのバランス入力パワーアンプに対応できるほか,正相と逆相の両端子を使ってバラ
ンスBTL接続によるパワーアップという使い方も可能としていました。

CD時代に登場したTA-ER1ですが,MM/MCカートリッジに対応したフォノイコライザー回路も搭載されていました。
スイッチの切替のための接点を減らすために,MM用,MC用それぞれ専用の入力端子が設けられていました。フォ
ノイコライザー回路はNF型で,ディスクリート構成で組み上げられていました。
MM入力には,MMロード端子を別途に装備し,100kΩ/100pFの入力インピーダンス/容量を付属のロードピンを
併用することで,50kΩ/100pFに変更できるようになっていました。
MC入力では,信号のゲインアップに昇圧トランスが搭載され,3Ω/30Ωの入力インピーダンスが選択できるように
なっていました。さらに,信号のシールド側をグランドから切り離したフローティング接続の選択もでき,電源トランスな
どのノイズ源を遠ざけられる場合にはより高い音質を得られるようになっていました。

スタビライザーを搭載したユニットアンプ
TA-ER1の内部

TA-ER1は,入力から出力までの各回路セクションの性能を高めるために,フォノイコライザーアンプ,入力バラン
スアンプ,出力バランスアンプの各増幅ブロックごとに基板を分離したユニットアンプ構成を採用していました。各
ユニット基板は,増幅ブロックごとのメイン基板にピンポイント支持により固定され,2層構造のコンストラクションで
信号の流れをスムーズに無理のないプリント配線を実現していました。
また,制振性をいっそう高める目的から,ユニットアンプ上に高剛性樹脂複合材を使用した厚さ12ミリのスタビライ
ザーを搭載し,振動による変調ノイズの発生を防いでいました。
L/Rchの離れすぎによるSN比の悪化や振動モードの不揃いを避けるため,チャンネル間の距離はできるだけ縮
め,L/Rchのユニットアンプはメイン基板に並行配置されていました。一方電源ラインとグランドラインはL/Rchで
厳密に分離したツインモノラルワイヤリングがとられ,110dB以上のセパレーション特性を実現していました。
回路基板には,OFC(無酸素銅)がインゴットを圧延して製造した特注のOFC基板が使用され,また,入力から
出力までの全信号系と,電源,グランドのすべての配線材に不純物含有量1ppm以下の6N・OFC線材を使用し
ていました。
背面の端子も,フランジ部の強度が高められた真鍮削り出しの金メッキピンジャック端子が採用され,金メッキも
通常のハイファイ機器に使われているものの10倍以上の厚みをもったものとなっていました。

セパレート電源部

TA-ER1では,さらに,プリアンプに入力される信号への電源トランスのフラックスなどの影響を避けるため,電源部
は本体と分離され,別筐体で設計されていました。この電源部は,低リーケージフラックスの大型トロイダルトランス,
高音質電源用コンデンサーを搭載し,良質の直流を作ってから本体に供給するようになっていました。

TA-ER1のアッテネーター

ボリュームには,コンダクティブプラスチック抵抗体を使用した高音質アッテネーターを開発し搭載していました。こ
の抵抗体は,低歪みの炭素系導電性樹脂を硬質基板に鏡面形成したもので,抵抗体の精度が極めて高く,入力
信号を130dB以上絞り込むことができるというものでした。また,ギャングエラー(チャンネル間の減衰量のズレ)も
−100dBで1dB以下の実力をもつというものでした。さらに,TA-ER1では,このアッテネーターを最大部肉厚9.5
ミリの真鍮削り出しケースに収納し,ケースと電極ブラシには金メッキを施すなど電気的,機械的性能をいっそう向
上させて搭載していました。

TA-ER1には,リスニングポジションからアッテネーターとミューティングを操作できるリモコンが付いていました。一
般的なリモコンに対応したボリュームは本体側のモーター駆動機構がボリューム軸にぶら下がる形になり共振を起
こしやすい等の欠点がありますが,TA-ER1では,こうした問題を解決するために,超音波セラミックモーター駆動に
よるロッキングギア機構を新開発して搭載していました。これは,ボリューム軸に厚手のギア板を取付け,ボリューム
操作のたびにモーター側とギアを噛み合わせ,操作後は切り離すもので,操作時以外は駆動機構が完全に切り離
されているためガタつきがなく,モーター自身もセラミックの圧電変位を動力源としているため有害なフラックスやスパ
ークノイズがなく停止時には文字通り石となり,振動面でも有利なものとなるというものでした。モーターの始動から停
止にいたるまでいい連の動作はマイコンで精密に制御され,約1/128回転(1/5目盛)のステッピング操作と連続回
転操作を自由にフィーリング良く行えるようになっていました。

TA-ER1には,リモコンボリューム操作に加え,オーディオ専用設計の高品質リレーを使用した入力切替などのため
に,マイコンが内蔵されていました。マイコン系の信号はデジタルノイズとして信号に影響を与えるため,捜査終了後
には1秒以内にすべてのマイコン動作を停止させるセルフオフ方式が採用され,音楽を聴いている間,純粋なアナロ
グアンプとして機能するようになっていました。

小音量リスニング時の微妙な音量調整に有効な20dB/40dBのレベルダウンを行うデュアルモード・アッテネーターが
搭載されていました。これは,通常のミューティングスイッチがミューティング・OFF時でも信号が接点を通ることになり
音質上好ましくないのに対し,ローエクステンド・ポジションに切替えると抵抗値/回転角のカーブが変わり,通常の音
量で約3目盛分を,約8目盛分へと,小音量の調整範囲を広げるというもので,通常音量時には余分な回路を通らな
いようになっていました。
また,L/Rchのバランスコントロールも,同様の理由から,L/Rch各アンプ自体のゲインを1dBステップ,片側3dBの
範囲でリレー切替により調節する方式がとられていました。

以上のように,TA-ER1は,当時国産プリアンプとしては異例の高級機として登場し,電源部セパレート,徹底した
高SN設計などが功を奏し,聴感上のSN比が極めて高く,情報量の多い癖の少ない音は,すばらしいものでした。
  
 

以下に,当時のカタログの一部をご紹介します。


音楽を育んでいくための,
最良のコンディションをつくりだす。
ここに,増幅の基本をおきました。
◎信号伝送路のSN比を170dBまで高めた,
 入力端子と高平衡度バランスアンプの直結構成。
◎高性能FETの採用によりバランス入力4MΩを実現。
 低ひずみ化をすすめた高入力インピーダンス設計。
◎アンバランス入力信号のバランスアンプによる増幅と,
 バラレルスイッチド・ファンクション。
◎真鍮削り出しケースに収納した,
 高音質コンダクティブプラスチック・アッテネーター。
◎ドライブ能力の安定化と強力化をめざした
 MOSダイレクトSEPP方式・出力回路搭載。
◎ユニットアンプ基板用スタビライザーの搭載など,
 振動面にも配慮した内部コンストラクション。
◎昇圧トランスによるMCカートリッジのフローティング
 接続も可能にしたフォノ入力装備。
◎海外製アンプへの対応,バランスBTL接続など,
 発展的な使いこなしに応える入出力。
◎調節の確かさと使いやすさを両立させた
 超音波セラミックモーター搭載のリモコンボリューム。
◎小音量時に役立つデュアルモード・アッテネーター,
 ゲイン切替え式バランスコントロール。
◎電源から端子,内部配線材にいたるまで
 吟味をかさねた素材によるきめ細やかな音質設計。

 ●セパレート電源
 ●セルフオフ・マイクロプロセッサー
 ●リアパネル・ヘッドホン端子
 ●OFC基板&6N・OFC線材
 ●真鍮削りだし金メッキ・ピンジャック端子

 
 
 


●TA-ER1主な仕様●


形式 ステレオプリアンプ
入力感度/インピーダンス BALANCED CD/LINE:250mV/4MΩ(2MΩ/2MΩ)
                 ※REC OUT ON時100kΩ
PHONO MM       :4mV/100kΩ:100pF
       MC(3Ω)   :0.2mV/125Ω
       MC(30Ω)  :0.4mV/500Ω
CD/TUNER/LINE1〜4:250mV/2MΩ※REC OUT ON時50kΩ
TAPE1,2         :250mV/2MΩ※TAPE MONITOR時20kΩ 
出力レベル/インピーダンス BALANCED PRE OUT  :2.5V/4Ω(2Ω/2Ω)
UNBALANCED PRE OUT:1.25V/2Ω
PHONES(FRONT/REAR) :39mW/2Ω
REC OUT           :375mV/1kΩ
最大出力レベル BALANCED PRE OUT  :20V
UNBALANCED PRE OUT:10V
PHONES(FRONT/REAR) :1000mW
REC OUT           :10V
周波数特性 MCトランス       :20Hz〜20kHz,+0,−1.0dB
フォノイコライザー偏差:20Hz〜20kHz,±1dB
CD→PRE OUT   :20Hz〜20kHz,+0,−0.1dB
ひずみ率
(THD+N,ATT−0dB,5V出力時)
PHONO MM         :0.003%以下
PHONO MC(3Ω,30Ω):0.005%以下
その他LINE系         :0.003%以下
チャンネルセパレーション(全入力) 110dB以上
電源 AC100V,50/60Hz
消費電力 45W
大きさ 本  体:470W×135H×420Dmm
電源部:260W×135H×395Dmm
重さ 本  体:約19.5kg
電源部:約12.5kg
※本ページに掲載したTA-ER1の写真,仕様表等は1994年10月
 のSONYのカタログより抜粋したもので,ソニー株式会社に著作権
 があります。したがってこれらの写真等を無断で転載,引用等をす
 ることは法律で禁じられていますのでご注意ください。

 
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