PIONEER TX-8900
STEREO TUNER ¥65,000
1974年に,パイオニアが発売したFM/AMチューナー。最上級機TX-9900と中級機TX-8800の間に位置づけ
られた中級機で,TX-8800を強化充実したともいえる内容を持ち,すっきりしたデザインと同クラスでも高い水準
の性能と機能性を持ったバランスのとれた1台でした。
フロントエンドは,周波数直線型の5連バリコンと,低雑音のデュアルゲートMOS型FET(RFアンプに2,ミキサー
に1の合計3個)から構成されていました。雑音指数の少ないFETの使用と次段のIF増幅器のゲインを大きくしない
ことなどにより,高い実用感度が実現され,5連バリコンの使用などにより,不要感度に対する排除能力も高められ,
スプリアス妨害比110dB以上,イメージ妨害比110dB以上という特性が実現されていました。
局部発振回路には,特にバッファー回路が設けられ,安定した動作が確保され,強電界の隣接局がある場合にも
引き込み現象がなく,ドリフトも抑えられていました。
IF部は,位相特性のすぐれた2素子セラミックフィルター6個,差動増幅IC7個による構成で,8段リミッターがかけら
れていました。制御系のIF検波回路をIF増幅器と別系統するなど充実した回路構成で,安定した動作が確保され,
実効選択度85dBと,隣接妨害波に影響されないIF部としていました。
IF部の検波器には,上級機TX-9900と全く同じ超広帯域直線検波器が搭載されていました。これは,分布定数形
群遅延線検波という方式だそうで,パイオニア以外のチューナーでは余り採用されていない独自方式ともいえるも
ので,通常の広帯域検波器が1〜2MHzの帯域幅であるのに対し,6MHzにおよぶ帯域幅を持ち,検波効率も高
く,歪み,SN比の面でも有利な方式であるということでした。
MPX部は,安定度の高いPLL(フェイズロック・ループ)方式が採用されていました。温度などの変動に対してもセパ
レーションが劣化せず,50Hz〜10kHzにわたって35dB以上の特性が安定して確保されていました。また,シャープ
な特性のローパスフィルターが内蔵され,キャリアリーク抑圧比も65dBが確保され,FM録音時のビート妨害や混変
調も抑えられていました。
AM部は,周波数直線型の3連バリコンが搭載され,専用ICやセラミックフィルターが採用され,混信排除能力もしっ
かり高められた本格的な内容を持ち,リアパネルにはバーアンテナが搭載されていました。
リフレクティングライトの柔らかい照明で浮き上がる実効長250mm,200kHz刻みの精緻なイメージのダイヤルスケ
ールが配されたデザインは,それまでの同社のチューナーのイメージと大きく異なる垢抜けたイメージとなっていまし
た。メーターは,シグナルメーターとチューニングメーターの搭載され,シグナルメーターはアンテナ入力90dBまで比例
的に変化・表示する高精度なものでした。
機能的には,50%変調・440Hzの信号音が約1.3秒間隔でON/OFFを繰り返すという少し凝った仕組みのレコー
ディングレベルチェック,レベルが2段階に切り換えられるミューティング回路,弱電界のステレオ受信時に生じやすい
高域ノイズ消すMPXノイズフィルターなどが搭載されていました。出力は可変と固定の2系統装備され,フロントパネル
にOUTPUTレベルのツマミが備えられていました。その他,マルチパス端子,4チャンネルMPX端子(これは当時の
チューナーでは,将来の4チャンネル放送に備えるものとして時々見られましたが・・。)が装備されていました。
以上のように,TX-8900は,当時のパイオニアのチューナーの中核機として,洗練されたデザインの中に,しっかりし
た技術を投入した使いやすい1台でした。感度と音質のバランスがとれており,パイオニアのチューナー技術の確かさ
を示していたように思います。
以下に,当時のカタログの一部をご紹介します。
高感度5連バリコンフロントエンド,超広帯域直線検波器の採用,そしてユニークな付属機能。
便利なRECレベルチェック機能を持つ,
高性能チューナー。
◎3個のデュアルゲートMOS型FETと5連バリコン
による,実用感度1.5μVの高感度フロントエンド
◎バッファー付きの局部発振回路を採用して同調の
不安定要素を排除しています。
◎高選択度とすぐれた音質のための,差動増幅用IC
7個とセラミックフィルター4個によるIF部。
◎音質を一段と引き上げる,超広帯域直線検波器を
採用。
◎安定したステレオ感を再現する,PLL方式のMPX部。
◎ユニークな付属機構,FMエアチェックに役立つレコー
ディングレベルチェックが内蔵されています。
◎使いやすい2段切換えミューティング回路や,動き
の正確なシグナルメーター。
◎3連バリコンと専用IC,そしてセラミックフィルター
などで充実したAMセクション。
◎新鮮な感覚の精緻なデザインと,快適な操作フィー
リング。
◎このほかにも万全の機構です。
●弱電界のステレオ受信時に生じやすい,高域ノイ
ズを消すMPXノイズフィルター。
●出力は,可変と固定の2系統。
●マルチパス端子。
●将来に備えた4チャンネルMPX端子など,万全の
備えがあります。
●TX-8900の規格●
■FM部■
回路方式 | MOS FET RF2段5連バリコン8段リミッター 超広帯域直線検波器,PLL MPX |
実用感度 | S/N50dB 2.5μV(モノ),30μV(ステレオ) IHF 1.5μV(モノ) |
S/N | 80dB(モノ),75dB(ステレオ) |
高調波歪率 | 100Hz 0.15%(モノ),0.2%(ステレオ) 1kHz 0.15%(モノ),0.2%(ステレオ) 10kHz 0.15%(モノ),0.5%(ステレオ) |
キャプチュアレシオ | 1.0dB |
実効選択度 | 85dB(400Hz),55dB(300kHz) |
周波数特性 | 50Hz〜10kHz+0.2,−0.5dB 20Hz〜15kHz+0.2,−1.5dB |
セパレーション | 1kHz 40dB以上 50Hz〜10kHz 35dB以上 |
イメージ妨害比 | 110dB以上 |
IF妨害比 | 110dB以上 |
スプリアス妨害比 | 110dB以上 |
AM抑圧比 | 55dB |
キャリアリーク抑圧比 | 65dB |
ミューティング動作レベル | 5μV/22μV |
アンテナ | 300Ω平衡型,75Ω不平衡型 |
■AM部■
回路方式 | 同調型RF1段,3連バリコン |
実用感度 | バーアンテナ 300μV/m IHF 15μV |
選択度 | 40dB |
S/N | 50dB |
イメージ妨害比 | 65dB以上 |
IF妨害比 | 85dB以上 |
■出力部■
出力レベル/出力インピーダンス | FIXED 650mV/5kΩ VARIABLE 70mV〜2V/3.5kΩ 4ch MPX 400mV/2.5kΩ |
■使用半導体■
FET | 3 |
IC | 11 |
トランジスタ | 34 |
ダイオード他 | 23 |
■電源部・その他■
電源電圧 | 100V,50/60Hz |
定格消費電力 | 18W |
ACアウトレット | 1(電源スイッチ非連動) |
外形寸法 | 420W×150H×365Dmm |
重量 | 9.1kg |
PIONEER TX-8900U
AM/FM STEREO TUNER ¥65,800
1976年に,TX-8900はTX-8900Uへとモデルチェンジしました。TX-8900をベースに各部に改良が施されて
より性能と完成度が高められていました。
フロントエンドは,5連バリコン,デュアルゲートMOS型FETによる,RF2段増幅回路はそのままに,段間カップリ
ングの改善により,位相特性の向上が図られていました。
IF部は,新たに選択度ワイド/ナローの2段切換えが採用されていました。ナローバンドは,厳選した2素子セラミッ
クフィルター5個で選択度を高め,実効選択度85dBの狭帯域,かつ±6MHzの広帯域をもつ超広帯域直線検波
器が継承されており,歪率,SN比など音質面でも配慮されていました。ワイドバンドは,超広帯域直線検波器の
使用とともに,4極リニアフェイズフィルターと新開発のSAW(表面弾性波)フィルターを組み合わせることで,ステ
レオ時のSN比77dB,歪率0.07%(1kHz)というすぐれた特性が実現されていました。さらに,IFでは,メーター
指示やミューティングなどの制御信号部に,新開発の専用IC(PA-3001)を採用し,信頼性を高めていました。
MPX部では,19kHzのパイロット信号をカットするために,従来のローパスフィルターにかわって,新開発の
MPX・PLL用IC(PA-1001)による,パイロット信号オートキャンセル回路を採用し,フィルターによる高域低
下を抑えるようになっていました。
オーディオ用アンプとミューティング回路は,新開発の専用IC(PA-1002)で構成されていました。オーディ用
アンプは,低雑音で,差動増幅やディエンファシス回路をNFB動作とすることなどにより,高いSN比と低歪率を
確保し,ミューティング回路は,IC内の応答のはやい電子スイッチングにより,従来ポップ音除去に使われてい
たカットオフ周波数10数Hzのローカットフィルターを,さらに8Hzまで引き下げ,低域特性を伸ばしていました。
さらに,電源部にも負荷電流300mA,リップル圧縮率80dB以上の新開発専用IC(PA-2002)を採用し,SN
比の向上を図るとともに,IC内に過電流,過電圧に対する保護回路を内蔵し,信頼性の高い新しい電源部の構
成としていました。
機能的には,新たに,マルチパス成分をチューナー出力に送り出すマルチパス切換えスイッチが搭載されてい
ました。これにより,オシロスコープなしでも,スピーカーからの音を聴きながらマルチパス成分の少ないアンテ
ナ方向を探すことが可能となっていました。また,ダイヤルスケール下部には,新たにスライド式のメモリーマー
カー(チューニング位置の目印)が設けられていました。
以上のように,TX-8900Uは,TX-8900をベースに,各部に新開発の素子,技術を投入し,より洗練され,性
能の高められた1台となっていました。
以下に,当時のカタログの一部をご紹介します。
新開発専用ICやSAWフィルターの採用,パイロット信号オートキャンセラー,実効選択度2段切換え。
低ひずみ率,高SN比,広帯域再生を実現。
付属機構も充実。
◎SN比50dB時のステレオ感度35μV。そして位相
特性を改善した5連バリコンのFMフロントエンド。
◎選択度WIDE/NARROW2段切換えのIF部は,
ともに超広帯域直線検波器を採用。そしてワイドバ
ンドは新開発のSAWフィルターで位相特性を向上
しひずみを低減。
◎19kHzパイロット信号オートキャンセル回路内蔵
の新開発PLL・IC採用。広帯域再生を実現する
MPX部。
◎オーディオ用アンプとミューティング回路,そして
電源部にも新開発ICを採用し性能を向上。
◎音を聴きながら正しいアンテナ方向が探せる
マルチパス切換えスイッチ。
◎FMエアチェックに威力を発揮するRECレベルチェッ
クスイッチ。
◎音のよいAMセクション,フィーリングのよいチューニ
ングメカ。そして付属機能も充実。
●TX-8900Uの規格●
■FM部■
回路方式 | MOS FET RF2段5連バリコン IF BAND切換付,超広帯域直線検波器 パイロット信号オートキャンセラー内蔵PLL +ダブルバランス,NFB方式 MPX |
S/N50dB感度 | モノ 2.8μV,新IHF14.0dB ステレオ 35μV,新IHF36.1dBf |
実用感度 | モノ 1.7μV,新IHF9.8dBf |
S/N | モノ 82dB,ステレオ 77dB |
高調波歪率 | WIDE NARROW モノ 0.05%(100Hz),0.07%(100Hz) 0.05% (1kHz),0.07% (1kHz) 0.07%(10kHz),0.1% (10kHz) 0.12%(15kHz) ステレオ 0.1% (100Hz),0.3% (100Hz) 0.07% (1kHz),0.25% (1kHz) 0.2% (10kHz),0.5%(10kHz) 0.5% (15kHz) |
キャプチュアレシオ | 0.8dB 2.0dB |
実効選択度 | 35dB(400kHz) 85dB(400kHz),65dB(300kHz) |
ステレオセパレーション | 1kHz 50dB 45dB 50Hz〜15kHz 35dB 30dB |
周波数特性 | 20Hz〜10kHz±0.2dB 20Hz〜15kHz+0.2,−0.5dB |
イメージ妨害比 | 120dB |
IF妨害比 | 115dB |
スプリアス妨害比 | 110dB |
AM抑圧比 | 65dB |
サブキャリア比 | 77dB |
ミューティング動作レベル | 5μV(19.2dBf),28μV(34.1dBf) |
アンテナ | 300Ω平衡型,75Ω不平衡型 |
■AM部■
回路方式 | 同調型RF1段3連バリコン |
実用感度 | バーアンテナ 300μV/m IHF 15μV |
選択度 | 30dB |
S/N | 55dB |
イメージ妨害比 | 70dB |
IF妨害比 | 65dB |
■出力部■
レベル/出力インピーダンス | FM(100%変調) FIXED 650mV/4.2kΩ VARIABLE 50mV〜1.3V/3.6kΩ AM(30%変調) FIXED 200mV/4.2kΩ VARIABLE 15mV〜400mV/3.6kΩ |
■使用半導体■
FET | 5 |
IC | 15 |
トランジスタ | 12 |
ダイオード他 | 21 |
■電源部・その他■
電源電圧 | 100V,50/60Hz |
定格消費電力 | 24W |
ACアウトレット | 1(電源スイッチ非連動) |
外形寸法 | 420W×150H×392Dmm |
重量 | 9.4kg |
※本ページに掲載したTX-8900,TX-8900Uの写真,仕様表等は
1974年11月,1976年7月のPIONEERのカタログより抜粋した
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