ONKYO Integra A-711/150
SOLID STATE STEREO AMPLIFIER ¥220,000 
1973年に,オンキョーが発売したプリメインアンプ。オンキョーはスピーカーからスタートし,ソリッドステートアンプ
時代に入り,アンプの分野にも進出していきました。そして1969年に,プリメインアンプの「インテグラシリーズ」を
スタートさせました。その中の最上級機インテグラ701はその高性能でオンキョーのアンプ技術の評価を高めまし
た。そして,その4年後に発売された次の世代の「インテグラシリーズ」の最上級機がA-711でした。

A-711は,/150の名称の通り,先代にあたるA-701と同じく定格出力で75W+75W(8Ω)のハイパワーを継
承していました。これは,当時オンキョーが音楽再生に必要な最大出力を,クリップすることなくクオリティを犠牲に
せずに確保するという方向で算定し,ダイナミックパワーで100W,定格出力として75W程度と考えていたことが
あったそうです。
さらに,1973年にアムステルダムで開かれた第44回AES(Audio Engineering Society)大会で示された見
解「アンプは少なくともシグナル・タイムの50%はA級でオペレイトされるべきで,そのレベルは,フルパワーのよ
り17dB下となる」から,75Wの-17dB(1/50)の1.5W程度までの微小出力時のクオリティの確保を重要点と
して考えて設計されていたそうです。
しかし,オーディオアンプでは,大出力と微少出力時のクオリティは相反するとはいえないまでも両立が難しいこと
でもあります。プリメインアンプの枠でダイナミックパワーで100Wもの大出力を確保することは,A級増幅では難
しいため,A-711ではB級幅が採用されていました。音楽信号の+側,-側上下を別々のトランジスターで増幅
し合成するB級プッシュプル増幅方式では,トランジスターの特性上,小出力時に波形にリニアティの悪い部分が
できてしまいます。そこで,無信号時にも軽く電流(アイドリング電流を流しておき,上下のトランジスターの特性)
の曲がりを補正する方法がとられることがありますが,実際にはペア特性の全く等しいトランジスターを揃えること
は難しくハイパワーの出力段になるほど,微小レベル時のリニアリティはかなり不安定になってしまうという現実が
ありました。これを避けるためにバイアス点を深めにすると,微小出力時のリニアリティは改善されるものの,その
かわりに中出力付近でリニアリティが大きく折れ曲がり,特性が劣化してしまうことになります。
A-711の出力段では,小出力時(1.5W程度まで)のリニアリティを確保するために,バイアス点を深くとり,中出
力以上のパワーに対しては,リニアリティ補正用のトランジスターで補正するという構成になっていました。このた
め,A-711の出力段は,chあたり6個,両ch合計で12個のトランジスターから構成されていました。これは,トリ
プルプッシュプルということではなく,シングルプッシュプル構成で,内8個は上述のようにリニアリティ補正用となっ
ていました。シングルプッシュプルのパワートランジスターは,High fTのリニアリティの高いトランジスターがチャン
ネルあたり2個使用されていました。こうした構成により,微小出力時から大出力までリニアリティの高い増幅が確
保され,4Ωフルパワーといった状況でも安定した特性を実現していました。

出力段の前段のドライブ段は,+側,-側の上側半サイクルと下側半サイクルの負荷が異なるため,それぞれが
対称になるようにドライブする必要があるため,ここにカレントミラー回路をもつ平衡増幅型ドライブ回路を採用し
て上下の非対称性をなくし,リニアリティの改善を図っていました。また,この回路は通常の差動アンプに比べて
ゲインが2倍になり,歪みの低減においても有利となっていました。さらに,ドライブ電圧が出力部より高くなるよう
に高圧別電源が採用されており,ダイナミックレンジの広い余裕のあるドライブが可能となっていました。

トーンアンプ部は,±2電源,差動増幅,オペレーショナルアンプ型のNF型トーンコントロール回路が採用され,過
渡応答特性や歪み特性にすぐれ,オープンループゲインも大きいため,正確な変化特性が実現されていました。
トーンコントロールは,2dBステップ式で±10dBの変化ができるようになっており,各ステップごとに時定数を変化
させ,聴感上好ましい変化カーブが得られるように設定され,フラット位置では時定数回路は全てディフィートされる
ようになっていました。さらに,ターンオーバー周波数が,TREBLEで2kHz/8kHz,BASSで400Hz/250Hzと
それぞれ2段階の切替えが可能となっていました。さらに,過渡特性のよい12dB/octのCR型フィルターが装備さ
れ,HIGH(5kHz/20kHz),LOW(10Hz/30Hz)とそれぞれ2段階の周波数切替えも装備されていました。
電源の変動に対しても,バイアス点が狂わない帰還安定型±2電源定電圧回路が採用され,定電流負荷バッファ
アンプの内蔵により,プリアンプの負荷条件の変化に対しても安定性が高められていました。また,プリアンプ単体
で使用した場合にも,電源投入時のクリック音が発生しないように,時定数操作の無接点電子スイッチ式トランジェ
ントキラー回路が内蔵されていました。

イコライザーアンプ部は,±2電源オペレーショナルアンプ型のイコライザー回路が搭載されていました。オープン
ループゲインを大きくとると同時に,NF素子にはG級(許容差±2%)やF級(許容差±1%)の精密なコンデンサー
や抵抗を使用しており,RIAA偏差を極小(±0.5dB以内)に抑えていました。±2電源の採用により,入出力端子
を0V近辺に設定できるため,カートリッジへの不要電流やスイッチ切換え時のクリック音を防いでいました。また,
不要な超高域をカットするウルトラソニック・フィルターを内蔵していました。そして,入力感度を1.2/2.4/4.8mV
の3段階に切換えることができ,カートリッジとの適応性が広く,最大許容入力も600mV(RMS)が確保されてい
ました。

電源部は,強力なものが搭載されていました。電源トランスには,重量5.5kgもの重量級カットコアトランスが使用
され,大容量15,000μF×2の大型ケミカルコンデンサーとアバランシエ特性(ある規定レベル以上の電圧が印
加されると,破損する前に漏れ電流が増加し,自身のダイオードの電圧上昇を抑え,他の直列素子に電圧を分担
させ,結果として全ての直列素子の電圧が規定電圧以内に抑えられることになる。)のハーメティックタイプのオート
ダイオードのブリッジ整流器を組み合わせた電源回路となっていました。バイアス用電源は,すべてL・Rが分離さ
れており,過渡歪みの発生を抑えていました。



PHONO入力は,2系統備えられ,上述のように入力感度が3段階に切り換えられるようになっていました。その
他,AUX,TUNER,TAPE入力が備えられていました。 スピーカー出力は2系統装備されていました。そして,通
常リアパネルに設けられるこれらの端子が上面に設けられた,トップ・パネル方式がA-701から継承され,端子
の抜き差しが,本体をラック内でも前に引きだすだけでできるようになっていました。

以上のように,A-711は,インテグラシリーズのプリメインアンプの最上級機として,A-701の後継機としてより
技術的に高められ,電源部をはじめ,物量的にもより強化されていました。ウッドキャビットも装備され,外観上も
高級感が増し,総重量も24.5kgにも及ぶ,当時並はずれた重量級のプリメインアンプとなっていました。抜けの
よい透明感のある音は,当時のオンキョーのアンプ技術を示したものでした。


以下に,当時のカタログの一部をご紹介します。



再生音楽にとって有害な高次高調波成分を徹底して排除し
しかも,小出力時のリニアリティを飛躍的に改善するなど
音楽的に充実した性能のハイパワーアンプです。




●主な定格●



●メインアンプ部●

回路方式  特殊ピュアコン全段直結D&D 
ダイナミックパワー(IHF8Ω)
200W
定格出力(8Ω・1kHz)
75W+75W,85W/85W
全高調波歪率
定格出力時1kHz:0.03%以下
10W出力時1kHz:0.03%以下
パワーバンドウィズ
10Hz~100kHz(IHF-3dB,THD0.2%)
ダンピングファクター(DC~20kHz,8Ω)
80
S/N(IHF Aネットワーク,入力シャント))
110dB
負荷インピーダンス
4Ω~16Ω
定格入力電圧及びインピーダンス
1V 100kΩ(10Hz~50kHz)
利得  28.5dB 




●プリアンプ部●

入力感度及びインピーダンス  PHONO:1.2~2.4~4.8mV3段切換(50kΩ)
AUX,TUNER,TAPE PLAY:100mV(100kΩ) 
全高調波歪率
0.03%以下(1V出力時,1kHz)
RIAA偏差
±0.5dB以内
最大許容入力
PHONO1 PHONO2 1kHz(10kHz)
             :350mV(1.7V)RMS
入力感度2.4mV時:990mV(4.8V)p-p
S/N IHF Aネットワーク PHONO1 PHONO2:75dB
入力シャント TUNER,AUX,TAPE:90dB
トーンコントロール(2dBステップ式)
TREBLE:±10dBat10kHz(F.S.2kHz)
BASS:±10dBat100Hz(F.S.400kHz)
ターンオーバー周波数 TREBLE:2k/8kHz
BASS:400/125Hz
フィルタ  HIGH:5kHz,20kHz 12dB/oct
LOW:10Hz,30Hz 12dB/oct 
寸法
490W×182H×460Dmm
重量
24.5kg
※本ページに掲載したA-711の写真,仕様表等は,1974年3月の
 ONKYOのカタログより抜粋したもので,オンキョー株式会社に著作
 権があります。したがって,これらの写真等を無断で転載・引用等す
 ることは法律で禁じられていますのでご注意ください。

 

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