Victor A-X110

STEREO INTEGRATED AMPLIFIER ¥59,800
1982年にビクターが発売したプリメインアンプ。¥59,800とエントリークラスのプリメインアンプ
ながら,110W/chというハイパワーの出力段を持ったアンプでした。CD元年となり,デジタルオー
ディオ時代の始まったこの当時,ヤマハ,ケンウッドをはじめ各社からエントリークラスである6万円
前後の価格で100Wクラスのハイパワーを搭載したアンプが発売されていきました。そういった中
A-X110+(ワン・テン・プラスと読むそうです。)は,ビクターが発売した高いコストパフォーマンス
の1台でした。

A-X110のパワーアンプ部は,ビクター自慢の「スーパーA」をさらに発展させた「ダイナミック・
スーパーAアンプ」を採用していました。
「スーパーA」は,バイアスを少し可変とすることでコントロールし,常に電流が両波形のトランジスター
に流れるようにしてスイッチングをなくしたものでした。高速動作の「スーパーAバイアスサーキット」
によるバイアス電流のコントロールと高速なスイッチング特性を持つハイfγパワートランジスターの
採用で,一対のパワートランジスターが交互にスイッチする通常のB級アンプとしての高効率での高
出力と,パワートランジスターが常に動作状態にありスイッチングしないA級アンプ並の歪み特性を
実現したものでした。


A-X110の「ダイナミック・スーパーA」は,「スーパーA」に「Gmドライバー」を組み合わせたも
のでした。パワーアンプ部は,電圧増幅段(プリドライブ段)と電力増幅部(パワー段)から構成さ
れていますが,このプリドライブ段にGmドライバーが搭載されていました。トランジスター本来の
特性である電流増幅機能をそのまま使うために開発された電流増幅回路がビクター独自の「Gm
プロセッサー」で,信号電圧を電流に変換して増幅し,再度電圧化して送り出すという働きをする
モジュールでした。このGmプロセッサーの技術を応用して,プリドライバーとして生かしたものが
Gmドライバーでした。回路は,すべてハイブリッドIC化された高信頼設計になっていました。
Gmドライバーにより,パワー段を定電圧・低インピーダンス駆動することによって,スピーカーの
インピーダンス変動に強い,そして,逆起電力をパワー段で吸収して前段の動作を妨げない,安
定した動特性を実現していました。Gmドライバー自身もきわめて低歪率で,しかも,パワー段の
歪も改善し,スーパーA方式のパワー段自身も低歪率であり,こうした構成の「ダイナミック・スー
パーA」のパワーアンプ部は,110W+110W(8Ω,20Hz〜20kHz)の大出力を,0.007%
(実効出力時,20Hz〜20kHz)という低歪率で実現していました。



ハイパワーと動特性を支える電源部は,クラスを超えた大型のものが搭載されていました。電源
トランスは,コアサイズ100×90mm,厚み60mm,電力容量211VA,重量4.8kgのものが搭
載されていました。従来の同社の同級機に比べて主さは1.65倍,巻線の抵抗値は30%以上も
少ないものでした。アンプ全体の重量が10.0kgですから,アンプ重量の半分ほどを占める重量
級の電源トランスということになっていました。電解コンデンサーも71V・10,000μFの広帯域
ローインピーダンスの新開発大容量コンデンサー2本を搭載していました。その他,高速ダイオー
ドや低雑音ツェナー・ダイオードなど,各部の素子もしっかりと選定されていました。

全体の回路構成は,プリメインアンプという形を生かし,パワーアンプとイコライザーアンプだけ
というシンプルな2アンプ構成となっていました。イコライザーアンプは,入力にビクター自慢のロー
ノイズEL・FETを使用したICLハイゲイン・イコライザーで,MCカートリッジにも対応していました。
MCでもMMでも,PHONO〜SP OUT間では,トーンコントロールのON-OFFに関わらず,常
に2アンプ構成となるようになっていました。

入力は,PHONO,TUNER,AUX1,AUX2,TAPE1,TAPE2が装備されていました。AUX2
系統のうち,AUX2には,20Hz〜15kHz(−3dB)の¥というバンドパスフィルターが挿入され
ソースによっては有害になる超低域と超高域をカットするるようになっていました。TAPE2系統
は相互ダビングが可能で,音質に影響を与える可能性のあるTAPE出力を切り離すREC OFF
もできるようになっていました。
機能的には,プリメインアンプとしてオーソドックスにまとめられており,BASS,TREBLE独立
で,OFFもできるトーンコントロール,サブソニックフィルター,ラウドネス,モード切替え,2系統
のスピーカー端子,ヘッドホン端子などが装備されていました。

以上のように,A-X110は,エントリークラスながら,上級機で開発された技術を効率よく導
入し,電源部等ポイントとなる部分にはしっかりと物量を投入したコストパフォーマンスにすぐれ
たプリメインアンプでした。デザインは,上級機のようなビクターの個性を感じさせるものではな
くなっていましたが,むしろ外観よりも実質にコストをかけたという設計で,透明度も十分あり,
しっかりと力のある音をもった実力派のアンプとなっていました。


以下に,当時のカタログの一部をご紹介します。



動特性プラス・パワーのゆとり,
110Wのダイナミック・スーパーA。

プログラムソースの進歩にこたえる
リニア伝送とアクチュアル・パフォーマンス,
スピーカーの駆動力が違うアンプです。

◎ダイナミック・スーパーAで動特性のゆとり,
 110W+110Wでドライブ・パワーのゆとり。
◎基本の基本,4.8kgのビッグ・トランスを用いた
 大容量電源と高性能な音質重視パーツ。
◎キーボードやマイコン機器など,多様化する
 プログラムソースのためのAUX-2入力。
◎シンプルな2アンプ構成の信号回路,
 MCカートリッジもダイレクト接続。

●レコード再生時の超低域ノイズをカットする
 イコライザー・サブソニック・フィルター
●相互ダビングも自由にできる2系統テープ回路と,
 レコーディング・アウト・セレクター。
●2系統のスピーカー・セレクター付き。




●A-X110仕様●



■回路方式■

イコライザーアンプ部 ICL,初段EL-FET,MC/MMハイゲイン・イコライザーアンプ
パワーアンプ部 Gmドライバー,ダイナミック・スーパーAハイゲイン・パワーアンプ
電源部 ダイレクト・パワーサプライ



■総合特性■

実効出力
TUNER,AUX-1,TAPE→SP OUT=
 110W+110W(20Hz〜20kHz,8Ω,THD0.007%)
 115W+115W(1kHz,8Ω,THD0.001%)
全高調波歪率
TUNER,AUX-1,TAPE→SP OUT=
 0.007%(実効出力時,20Hz〜20kHz,8Ω)
PHONO→SP OUT=
 0.01%(MM,20Hz〜20kHz,VOL−30dB)
混変調歪率 TUNER,AUX-1,TAPE→SP OUT=
 0.002%(実効出力時,8Ω)
スイッチング歪
TIM歪
出力帯域幅 TUNER,AUX-1,TAPE→SP OUT=
 5Hz〜60kHz(IHF,8Ω,THD0.05%)
周波数特性 TUNER,AUX-1,TAPE→SP OUT=
 5Hz〜150kHz(+0,−3dB)
AUX-2=
 20Hz〜15kHz(+0,−3dB,600Ω)
ダンピングファクター TUNER,AUX-1,TAPE→SP OUT=
 70(1kHz,8Ω)
入力感度/インピーダンス
 (1kHz)
PHONO(MM)=2.5mV/47kΩ
PHONO(MC)=200μV/100Ω
TUNER,AUX-1,TAPE=200mV/33kΩ
SN比 PHONO(MM)=87dB(IHF A-202 82dB REC OUT)
PHONO(MC)=69dB(250μV入力)(IHF A-202 76dB REC OUT)
TUNER,AUX-1,TAPE=110dB(IHF A-202 82dB SP OUT)
トーンコントロール BASS   ±8dB
TREBLE  ±8dB
EQサブソニックフィルター 18Hz(−6dB/oct)
ラウドネス
(VOLUME−30dB時)
+4dB(100Hz),+4dB(10kHz)



■イコライザーアンプ部■
(PHONO→REC OUT)

PHONO最大許容入力 MM=150mV(1kHz,THD0.007%)
MC=10mV(1kHz,THD0.07%)
PHONO RIAA偏差 MM=±0.3dB(20Hz〜20kHz)
MC=±0.5dB(20Hz〜20kHz)
全高調波歪率 MM=0.007%(7V出力時,20Hz〜20kHz)
MC=0.07%(7V出力時,20Hz〜20kHz)
REC出力電圧/インピーダンス 200mV/660Ω




■電源部その他■

電源電圧 AC100V(50/60Hz)
定格消費電力 170W(電気商品取締法基準)
電源コンセント SWITCHED    2個
UNSWITCHED 1個
寸法/重量 435W×117H×353Dmm/10.0kg
※本ページに掲載したA-X110の写真,仕様表等は,
 1982年10月のVictorのカタログより抜粋したもので,
 JVCケンウッド株式会社に著作権があります。したがっ
 て,これらの写真等を無断で転載・引用等することは
 法律で禁じられていますのでご注意ください。

 

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