PIONEER D-90
DIGITAL AUDIO TAPE DECK ¥220,000
1990年に,パイオニアが発売したDATデッキ。1987年に,パイオニアは第1号機D-1000でDAT分野に参入し,
翌年1988年に,自社製2DDメカを搭載した弟機D-900を発売しました。その後継機としてグレードアップされたモ
デルがD-90でした。
D-90では,入口・出口のコンバーター部をグレードアップして,4fs18bit A/Dコンバーターと8fs20bit D/Aコンバー
ターが搭載されていました。これは,DATデッキとしては初めての構成で,より高精度な信号処理が可能となってい
ました。また,A/D側,D/A側ともコンバーターはL・R独立構成で,チャンネル間の位相ズレを排除し,歪やノイズの
発生を抑えていました。
さらに,A/D側に独自の方式で開発したディザ回路が採用されていました。アナログ入力信号に可聴帯域外のディザ
信号を加えてA/D変換し,その後デジタルフィルターでディザ信号を取り除くことで,リニアリティのすぐれた変換が可
能となるシステムで,微小レベルでのゼロクロス歪による変換誤差を分散,平均化し,アナログ信号のより忠実な再
現が実現されていました。
録音時には,ラインストレートスイッチが設けられ,このスイッチをONにすることにより,入力ボリュームと5次のローパ
スフィルターを通さずに,A/Dコンバーターに信号を入力することができ,信号経路の短縮化,位相歪の低減が可能と
なっていました。
オーディオ基板は,ツイン・モノコンストラクションが採用され,録/再,L/Rの回路ブロックを4分割し,パーツの配置
線材の長さや引き回しを対称として,各回路間の相互干渉を排除していました。端子配置も,入出力ピンジャックの
間隔を考慮し,チャンネルセパレーションの向上が図られていました。
さらに,オーディオ用プリント基板では,片面ベタアース箔の両面基板が採用され,シールド効果が上がることで,ノ
イズの低減が実現されていました。基板上のグランドラインには1mm厚の極厚無酸素銅板のバスバーが採用され
グランドの低インピーダンス化と剛性の向上が図られていました。また,コンデンサーや抵抗に至るまで高品質のパ
ーツを厳選使用していました。
ヘッドとしては,高出力ATヘッドが搭載されていました。トラックのトレース方向に対して20μmの均一なトラック加
工をした(ALL TRACK)構造が特徴のヘッドで,パイオニアの精密加工技術が生かされたものでした。耐摩耗性を
向上させるために,ガラスをヘッド両側に溶着し,ギャップには特殊なポリシング加工を施すなど,安定したテープタッ
チを実現するための高度な加工が行われていました。また,再生出力レベルを従来の2〜6dB高くすることで,エラー
レートも低く抑えられていました。
ヘッドドラムを含むメカニズム部には,1.6mm厚素材の高剛性フラットシャーシが採用されていました。このシャーシ
に使用された鋼板は,曲げ加工による歪の発生を避けるため,特殊加工を施したフラットな構造で,メカニズムで発生
する不要な振動をやわらげ,高精度で安定したテープ走行を支えるものとなっていました。さらに,カセットの確実な
ホールドのために,特殊ゴムでカセットハーフを上下からはさみ,左右からも樹脂ではさんで固定して振動を効果的に
吸収する構造のカセットスタビライザーが搭載されていました。
振動の発生源であるメカニズム部および電源トランス部は,メインシャーシから独立させ,アイソレートシャーシに取り
付けられ,さらに,アイソレートシャーシ部分そのものも,専用の亜鉛ダイキャスト製インシュレーターで接地される構
造となっていました。オーディオユニットと機械的に分離させることで,不要な振動による音質の劣化を抑えていまし
た。
また,外部からの有害な振動を高精度メカニズム部,各回路に伝えないため,ハニカムインシュレーターと銅メッキハ
ニカムシャーシが採用されていました。
電源トランスは,オーディオ系とデジタル系を別巻線としたバイファイラ巻きOFC巻線の大形の電源トランスが搭載さ
れていました。また,トランス本体の振動を抑えるため,ケース内部にはエポキシ樹脂が充填されていました。
ギアベルトの材質,形状などを検討し,テープ走行時やカセット着脱時の動作音をきわめて小さなレベルに抑えるサ
イレントメカニズムを採用し,また,テープを入れてから音が出るまでの時間もクイックレスポンスメカニズムにより短
縮化され,快適な操作フィーリングのテーププレイが実現されていました。
DATであるD-90では,録音時に記録されたTOC(TABLE OF CONTENTS)情報により,ソースのトータル曲
数とトータル時間,各曲の演奏時間,各曲の開始時間,記録部分の残量時間などが表示でき,CD感覚でテープ再
生が楽しめる多彩なテープオペレーションが可能となっていました。
テープのTOC情報を活用したAIサーチは,最速時で300倍と,通常のサーチをはるかに上回るハイスピードでのサ
ーチが可能となっていました。さらに,テープを走行(PLAY/FF/REWなど)させることでプログラムナンバーを読み取
り,それらの位置をマイコンが記憶することでTOC情報によるサーチと同様の高速AIサーチが可能となっていました。
ディスプレイ部には,FL表示によるレベルメーターが装備されていましたが,さらに,録音レベルボリュームを−01dB
になるように調節するだけで,最大許容レベル(フルビット/00dB)まであと何dBのマージンがあるのか−50dB〜00
dBまでを1dBステップで表示するピークマージン表示と最大許容レベル(00dB)をこえたレベルも+8dBまで1dBステ
ップで表示するアッテネーター表示が装備されていました。
以上のように,D-90は,パイオニアのDATデッキの第2世代の最上級機としてすぐれた技術,基本性能が搭載された
完成度のより高められた1台でした。そして,CDからのデジタル入力録音が可能となったSCMS(シリアル・コピー・マ
ネージメント・システム)を同社として初搭載したDATデッキでした。


以下に,当時のカタログの一部をご紹介します。



デジタルも,アナログも素顔のままに。

4fs18bit A/Dコンバーター,
8fs20bit D/Aコンバーター,
そしてディザ回路の搭載。
原音の美しさを守りぬくクオリティを
備えたDATです。

◎変換精度を高める4fs18bit A/Dコンバーター
 8fs20bit D/Aコンバーター搭載。
◎アナログソースの高音質録音を実現する
 「A/D側ディザ回路」を内蔵。
◎信号経路の最短化を図るラインストレート入力。
◎録/再,L/Rの回路ブロックを4分割し相互干渉
 を排除。
◎細部にいたるまで徹底した無誘導高品質パー
 ツを使用し,電気的な干渉を排除。
◎パイオニア独自の高出力ATヘッドを搭載し,
 安定したテープタッチを実現。
◎1.6mm厚の高剛性フラットシャーシを採用
 し,安定したテープ走行を実現。
◎メカニズム部や電源トランス部をメインシャーシ
 から独立させ,無振動化を徹底。
◎上下左右の2カ所から振動を抑制するカセット
 スタビライザーを採用。
◎無振動化を追求した大型ハニカムインシュレー
 ターと銅メッキハニカムシャーシを採用。
◎バイファイラ巻OFC巻線の大型電源トランス。
◎2モード・FLディスプレイOFF機能。
◎サイレント&クィックレスポンスメカニズムで
 操作フィーリングを向上。
◎簡単操作で適切な録音レベル調整ができる
 インテリジェント・ピークモニター。
◎CD感覚で楽しめるTOC機能を採用。
◎高速AIサーチで,快適なオペレーションを
 実現。
◎オペレーション効率を高める時間情報。




●D-90の主な仕様●

型式 回転ヘッド方式デジタルオーディオテープレコーダー
テープスピード 8.15mm/s(標準)
量子化ビット数 16ビット・リニア
サンプリング周波数 48kHz(録音・再生)
44.1kHz(デジタル入力のみ録音・再生)
録再周波数特性 2Hz〜22kHz (±0.5dB)
SN比 92dB以上
ダイナミックレンジ 92dB以上
全高調波歪率 0.0045%以下
ワウ・フラッター 測定限界(±0.001%W・PEAK)以下
アナログ入出力端子 ライン入力端子 RCA PIN×2 500mV
          (入力インピーダンス100kΩ)
ライン出力端子 RCA PIN×2 500mV
          (出力インピーダンス570Ω)
デジタル入出力端子 同軸入力端子 RCA PIN×1 0.5Vp-p
          (入力インピーダンス75Ω)
同軸出力端子 RCA PIN×1 0.5Vp-p
          (出力インピーダンス75Ω)
光入力端子×1
光出力端子×1
寸法 420W×132.5H×335.2Dmm
重量 9.5kg
消費電力 34W
電源 AC100V 50/60Hz
※本ページに掲載したD-90の写真,仕様表等は1990年12月の
PIONEERのカタログより抜粋したもので,パイオニア株式会社に
著作権があります。したがってこれらの写真等を無断で転載・引用等
することは法律で禁じられていますのでご注意ください。 
       
  
 
 
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