Ｌｏ-Ｄ Ｄ-９０９
ＳＴＥＲＥＯ ＣＡＳＳＥＴＴＥ ＴＡＰＥ ＤＥＣＫ ￥１２０，０００
１９８４年にローディー（日立）が発売したカセットデッキ。コンビネーション型録再ヘッドの
開発者であり，３ヘッドデッキに優れた技術を持っていた同社が開発した優れた走行系
と同社自慢のチタン溶射Ｒ＆Ｐコンビネーションヘッドを持った高性能デッキでした。
走行系は，クローズドループデュアルキャプスタン方式が採用され，キャプスタンの駆動
にはダイレクトドライブ方式がとられていました。キャプスタンを駆動するモーターには，
ローディー自慢の滑らかな回転を誇るユニトルクＤＤモーターが搭載されていました。こ の
ユニトルクモーターは，８極に着磁された駆動用ドーナツ型マグネットと電気的に１２０度ず
つずらした６枚の８分割３相コイルから発生するトルクが，相互に補完しあい，絶えず一定
したトルクが発生し，安定した定速回転をするもので，同社のアナログプレーヤーや高級デ
ッキに採用されてきた優れたモーターでした。
また，テープエンドに近づき巻き取りリールにテープ量が増したときの巻き取りトルクの減
少による巻き取りテンションの低下，ワウ・フラッターの悪化を防ぐためにテンションコント
ロール装備されていました。これは，リールパルスの変動でテンションの変化を読み取り，
巻き取りリールモーターの電圧をコントロールして安定したテープテンションを確保するも
のでした。
以上のような優れたモーターと走行系により，ワウ・フラッター０．０１８％という高精度なテ
ープ走行を実現していました。
録再ヘッドとして搭載されたチタン溶射Ｒ＆Ｐコンビネーションヘッドは，ローディーのＲ＆Ｐ
コンビネーションヘッドの系譜の中で１９８２年に生まれた当時最新のヘッドで，録音ヘッド
と再生ヘッドのギャップ間隔を１．４mmと狭くし，鏡のように滑らかなチタン溶射テープ走
行
面処理を施したものでした。狭いヘッドギャップ間隔により，カセットのパッドの圧力を十分
に利用してヘッドタッチを確保し，滑らかなテープ走行面によりスムーズなテープ走行とレベ
ル変動の大幅な低減及び均一摩耗性による初期性能の長期維持を実現していました。ま
た，磁性粒子の微少化によって摺動ノイズ（テープがヘッドを叩く音）の低減を図っていまし
た。さらに，ヘッドベースにはＶＣ（バイブレーションカット）ＭＥＴＡＬという，２枚の鋼板の間
に薄い粘弾性高分子材料をサンドイッチした特殊な構造のパネルを採用し，有害な振動
のカットとさらなる摺動ノイズの低減を実現していました。
機能的には，
Ｄ
-５５００で初めて開発されたコンピュータチューニン
グシステム，ＡＴＲＳ（自
動周波数特性補正）システムを搭載し，使用するテープ１巻ごとに，最適バイアス，最適録
音感度，最適補償量をコンピュータが自動検出し，最適な録音特性に合わせられるように
なっていました。さらに，マニュアル操作によるＲＥＣ ＣＡＬ＆ＥＱアジャストも装備され，録
音特性をチューニングできるようになっていました。
ノイズリダクションとしてはドルビーＢタイプ，Ｃタイプが装備され，テープポジションはＮＯＲ
-ＭＡＬ，ＣｒＯ２，ＭＥＴＡＬの３ポジションとなっていました。
その他，今聴いている曲，次の曲の頭出しができるワンタッチ選曲（ＳＰＳＳ），リーダーテー
プ部を自動的に早送りするテープスタンバイメカ，自動的に４秒間の無録音部分を作るオー
トＲＥＣ ＭＵＴＥ，巻き戻し後ＳＴＯＰ，またＰＬＡＹ状態になるオートメモリーリワインド，なども
装備していました。
Ｄ-９０９には弟機としてＤ-７０７（￥７９，８００）がありました。ＡＴＲＳ，ユニトルクモーターな
どは省略されていましたが，基本的な設計は共通したモデルで，中級機として主力モデル
でした。そして，このＤ-７０７は，Ｄ-７０７Ⅱ，Ｄ-７０７ＨＸへと引き継がれ，ローディー最後の
３ヘッドデッキの系譜となっていきました。その意味でも，Ｄ-９０９はローディー最後の３ヘッド
デッキの系列のトップモデルであるとともに原型でもあったと考えられるでしょう。ローディー
の高度な基本技術が生かされたその性能と音はすばらしいものだったと思います。
