Accuphase
DP-75
COMPACT DISC PLAYER ¥580,000
1994年にアキュフェーズが発売したCDプレーヤー。アキュフェーズは,
DP-80+DC81という
高性能なセパレート型CDプレーヤーがCDの商品化第1号でした。そして,一体型CDプレーヤー
においても,セパレート機に負けない高い性能と,システム的発展性を持ったモデルを作っていまし
た。DP-75は,1992年発売の
DP-90+DC-91を一体化したともいえる内容
を持ち,同社の一
体型CDプレーヤーの最上級機ともいえる意欲作でした。
DP-75の最大の特徴は,DC-91で開発された「MMB D/A変換方式」の採用でした。「MMB」
はMultiple Multi-Bitの略で,20ビットのマルチビット・コンバーターを複数個並列駆動させること
で,高い変換精度を実現したものでした。MMBは,複数のコンバーターの出力を加算した場合,
各コンバーターの変換誤差は発生の仕方が異なるため,出力の増加のように単純に増えずに平
均化されるため,結果としてダイナミックレンジ,リニアリティ,高調波歪率といった特性が改善され
るという現象を利用したもので,アキュフェーズのCDプレーヤーに広く採用されていきました。
DC-91開発時,ΔΣ方式(1ビット方式の基本原理)を研究していたアキュフェーズは,当時の素
子では満足行く結果が得られず,マルチビット方式の性能を高めるMMBを採用するに至ったと
いわれています。
DP-75では,20ビットD/Aコンバーターを8個並列駆動させて高い変換精度を実現していました。
8倍オーバーサンプリング・デジタルフィルターの高速出力を,パラレルに各D/Aコンバーターに入
力し,D/A変換された直後の高速状態で精密に加算されるようになっていました。MMB方式では
D/Aコンバーターが単純な並列接続ではないため,コンバーター素子を厳選し,配置・配線パター
ンの相似性を高めるなどして,一個一個がそれぞれ独立した動作をするコンバーター素子の位相
等の理想的な一致を実現し,リニアリティ,歪み率,雑音レベルにおいて,限界的な性能を実現し
ていました。
デジタルフィルターとして,上記のように20ビット・8倍オーバーサンプリング・デジタルフィルターが
搭載され,後段のフィルターの負担を軽減し,アナログフィルターには,素子を厳選したGIC3次バ
ターワース・アナログフィルターが搭載されていました。
DAI(Digital Audio Interface)信号に同期させてD/Aコンバーターを動作させるための,マスター
クロックを抽出するPLL回路には,「ウルトラ・ジッターフリーPLL回路」が採用されていました。この
「ウルトラ・ジッターフリーPLL回路」は,プリアンブル(ディジタル・データをシリアル(直列)に伝送す
る場合に,データの始まりに付加する区切り用の特殊ビット列(同期符号))検出回路とVCO(Volt-
age Controlled Oscillator=電圧制御発振器)に水晶発振子を用いて,マスタークロックがジッ
ターやパルス伝送歪みの影響を受けないようにしていました。常に一定間隔かつ一定レベルで発生
し,パルス伝送歪みの影響を受けないプリアンブル信号だけを検出してPLL回路に入力することに
よりマスタークロックからパルス伝送歪みの影響を排除し,プリアンブル信号に含まれるジッターは
VCOに水晶発振子を用いてロックイン・レンジ(同期する周波数範囲)を非常に狭く設定し,ループ
フィルター定数を最適化することで対処していました。
DP-75は,CDトランスポート部とD/Aコンバーター部の独立性がしっかり確保されており,CDプ
レーヤーとしてだけでなく,高性能のD/Aコンバーターあるいはデジタル・プリアンプ的な使用ができ
るような設計となっていました。デジタル入力端子は,オプティカル3系統,同軸3系統を備え,24ビ
ットまで対応していました。オプティカル端子のうち1系統には,150MBPSの伝送能力をもつ,ST
タイプのHPC高速リンクを備え,同軸入力のうち1系統には,BNCコネクターが備えられていました。
さらに,デジタルレコーダーの端子として,TOSリンクと同軸RCAの2系統が備えられていました。
デジタル入力に対しては,32kHz,44.1kHz,48kHzのサンプリング周波数を自動検出するSFC
(Sampling Frequency Converter)が搭載されていました。このSFCは,一旦高い周波数にアッ
プ・コンバージョンし,48kHz,20ビット,レベル1でサンプルして変換するもので,水晶発振子の非
常に正確な周波数で変換することで,ジッターフリー回路としてもはたらくものでした。デジタル出力端
子は,TOSリンクと同軸の各1系統が備えられ,サンプリング周波数48kHz,20ビット,レベル1の
高精度デジタル信号として出力されるようになっていました。
DP-75には,+4ビットの余裕を持つ20ビットMMB方式を生かして,デジタル雑音を抑えた正確
で音質劣化の少ない音量調整(−40dB)も備えられ,上記のデジタル出力時にもデジタルボリュー
ムとしてはたらくため,一種のデジタル・プリアンプとしても使用可能でした。
筐体内部は,中央に強力な電源トランスとCDトランスポート部を配し,左右にデジタルプロセッサー
部回路と,CDトランスポート部回路を振り分けて分離した構造で,相互干渉を抑えるとともに,内部
構造のシンメトリカルな重量配分にも配慮され,機械的な安定度が高められていました。電源部も
電源トランスが2基搭載され,完全に分離されていました。
さらに,デジタル部とアナログ部は,HP(Hewlett Packard)社製の40MBPSの伝送能力をもつ
高速フォトカプラーを用いて信号伝送が行われ,静電的・電磁的に完全に分離されていました。
CDトランスポート部は,ピックアップ部等の基本メカニズムはソニーから供給を受けたものを改良
して使用していました。メカニズムのコントロールには,デジタル方式が採用され,アダプティブフィ
ルターの使用により,ディスクごとにサーボ回路の最適設定が可能となり,一層の動作の安定化
が図られていました。ピックアップには,小型軽量RFアンプを内蔵し,レーザーピックアップの微小
な出力を増幅して送り出し,周囲の雑音による妨害の影響を抑えていました。スピンドル,フォーカ
ス,トラック,トレイの各アクチュエーターに流れるドライブ電流の急激な変化が他の回路へ影響を
与えて音質劣化を起こすことを防ぐために,アクチュエーターを2つのアンプで駆動するバランス駆
動回路を採用し,アースには電流が流れないようにし,干渉を抑えていました。
CDメカデッキやコントローラー部は,8mm厚のアルミ無垢シャーシによって支えられ,回転部から
発生する振動,外部から受ける機械振動,音響振動の影響を受けにくい剛性の高い構造となって
いました。また,ディスクをスライドするトレイの振動による音質劣化を抑えるため,トレイがディスク
から離れるドライブユニットの演奏中,トレイをロックし共振を防ぐトレイのオートロック機構が採用
されていました。さらに,15mm厚のアルミフロントパネルや,重量バランスも考慮された頑丈なフ
レーム構造の筐体の中に,ユニット化されたプリントボードやメカニズムが整然と並ぶ筐体構造も
非常に機械的安定度を高め,振動の影響を受けにくい構造となっていました。
以上のように,DP-75は,アキュフェーズの一体型CDプレーヤーの最上級機として作られただけ
あり,完成度の高い1台でした。CDプレーヤーしてだけでなく,D/Aコンバーターやデジタル機器の
コントロールセンターとしてもすぐれた性能をもっていました。また,とてもクリアながら,硬いとか耳
障りとかいうことのない非常にバランスの取れた音は,音楽を聴く道具として高い評価を受けました。
Accuphase
DP-75V
COMPACT DISC PLAYER ¥650,000
1999年にDP75がモデルチェンジされ,DP-75Vとなりました。フロントパネルのデザインも
変わり,D/Aコンバーター部分を中心に5年間の技術的成果が投入され,強化されていました。
DP-75Vの最大の特徴であり,最大の改良点は,D/Aコンバーター部でした。新開発の「MDS
(Multiple Delta Sigma=マルチプルΔΣ)変換方式」が搭載されていました。MDS方式で
は,1ビット系のΔΣ型D/Aコンバーターを複数個用意して,各コンバーターにすべて同一のデ
ジタル信号を入力し,各コンバーター出力を加算して全体の出力とするため,ΔΣコンバーター
によるMMBといえるものでした。DP-75Vでは,6個のΔΣ型D/Aコンバーターを並列動作さ
せ,全体の性能は2.45倍の向上が実現していました。素子の進歩がもたらしたともいえる,こ
のMDS方式により,DP-75VのD/Aコンバーターは,DP-75に比較して約10dBの歪率の改
善が実現されていました。
超高域のイメージ・ノイズを除去するためのアナログフィルターとして,DP-75Vには,位相特性
に優れた3次のリニアフェイズ型フィルターが搭載されていました。
正確なマスター・クロックを抽出するウルトラ・ジッターフリーPLL回路や正確で音質劣化の少な
いデジタル方式のレベルコントロールは継承されていました。デジタル方式のレベルコントロール
はビット落ちのない24ビットMDS方式D/Aコンバーターを搭載したことにより,最大−60dBま
での音量調整が可能となっていました。
デジタル出力端子は,DP-75と同じ同軸・オプティカル各1系統の2系統と同じながら,入力端子
は,同軸・オプティカル各1系統の2系統と,DP-75の各3系統の6系統に比べ大幅に減少して
いました。しかし,その代わりに,リアパネルに最大3枚のオプションボードが増設可能な増設ス
ロットが設けられ,用途に応じてオプションボードを増設することで多様なデジタル入出力を装備
できるようになっていました。この増設スロットは,従来の32kHz〜48kHzといったサンプリング
周波数に加え,48kHzを超えるハイサンプリング信号にも対応し,将来のSACD/DVD-Audio
にも対応していこうとしたものでした。
CDトランスポート部は,DP-75のものと基本的に同一で,重量バランスも考慮された頑丈なフ
レーム構造の筐体の中に,ユニット化されたプリントボードやメカニズムが整然と並ぶ筐体構造も
継承されていました。D/Aコンバーター部のプリント基板には,新たにテフロン基材(ガラス布フッ
素樹脂)によるプリント基板が採用されていました。誘電率の低さ,漏れ電流の少なさ,耐熱性や
優れた高周波特性などの特性を備えたテフロン基材を回路に使用することにより,信号のよりピュ
アな伝送が実現され,聴感上のSN比が大幅に改善されていました。さらに,銅箔面の金プレート
化も行われていました。
以上のようにDP-75Vは,DP-75をベースに特にD/Aコンバーター部が大幅に強化され,高域
の透明感や細やかさ,低域の力感などが改善され,一体型CDプレーヤーとして,あるいはD/A
コンバーターとして,そのすぐれた音質から高い評価を得ることになりました。