YAMAHA GF-1
ACTIVE SPEAKER SYSTEM ¥5,000,000(2台1組)
1991年に,ヤマハが発売したスピーカーシステム。4ウェイ・アンプ内蔵のフロア型という大型のシステムで,
各ユニット,内蔵アンプ,YST方式のサブウーファーなど,各部にヤマハのこれまでの技術が投入された,ヤ
マハの歴史上,最大で最高級機といえるスピーカーシステムでした。
GF-1は,高さ140cmに達する大型のスピーカーで,ユニット構成は,4ウェイ・4ユニットの全ダイレクト・ラジ
エーターでした。そして,125Wのパワーアンプ4台をチャンネルデバイダーとともに内蔵するアクティブ・スピー
カーシステムとして構成されていました。見方によっては,3ウェイ+YST方式のスーパーウーファーという形
になっており,超低域までのワイドレンジを実現しようとしたシステムとなっていました。
トゥイーターは,直径30mmのドーム型,スコーカーは,直径88mmのドーム型が搭載されていました。これ
らのドーム型ユニットは,ヤマハ自慢のベリリウムのダイアフラムを採用していました。ベリリウムは,ヤマハ
が1974年のNS-1000シリーズで初めて採用した素材で,ヤマハスピーカーのアイデンティティともいうべ
きものでした。ベリリウムは,ハードドームユニットに使われる金属系素材の中でも,比重が小さく,高い剛
性と硬度を持つというもので,ハードドーム型ダイアフラムとしてかなり理想的な特性を備えていました。反
面,成形性が悪く,当時,他社ではほとんど採用されていませんでしたが,ヤマハは,ドーム状に成型した
銅箔の上にベリリウムを真空蒸着したあと,ケミカルなエッチングによって銅を取り除くという製法でベリリウ
ムダイアフラムを実現していました。GF1では,鍛造によるベリリウムダイアフラムが採用されていました。
当時,NASAや航空宇宙研に出荷していた自社製のベリリウム箔が鍛造製であったことから,これをもと
に,ドームダイアフラムを深絞り成型加工で作ることに成功したものでした。材料となる鍛造ベリリウム箔は
直径30mm,厚さ10ミクロンのもので1枚10万円という高価な材料でしたが,鍛造によるベリリウムダイア
フラムは,以前の蒸着法によるものより,結晶の均一化が飛躍的に向上し,特性が向上していました。さら
に,金蒸着によってサウンドコントロールが行われていました。蒸着はごく薄いもので,純金の粘性によって
ベリリウムの僅かな鳴きをダンプし,防蝕の効果も持たせていました。
駆動系には,アルニコマグネットが使用されていました。アルニコマグネットの中でも,特性的に最もすぐれ
た柱状結晶アルニコが採用されていました。柱状結晶アルニコマグネットは,ネオジウムの約3倍,フェライ
トの約6倍もの磁束密度をもつもので,ダイアフラムの動きを阻害しない形状を実現していました。ボイスコ
イルはショートボイスコイルを採用し,大幅な軽量化を図っていました。
ウーファー(ミッドウーファー)は,27cm口径のコーン型で,振動板にはケプラー繊維に,金蒸着を施したも
のが採用されていました。ケブラー繊維は,アメリカのデュポン社が開発した高強度・高耐熱性の芳香族ナ
イロンで,有機繊維では最も引っ張り強度が高いといわれ,同じ重さの鋼鉄と比べて5倍の強度を持つとい
うものでした。この高い強度の振動板に金蒸着で,鳴きのダンプ,音質の統一性をもたせるなどの音質の微
調整を図っていました。
駆動系には,トゥイーター,スコーカーと同様に,柱状結晶アルニコマグネットによる磁気回路と軽量のショー
トボイスコイルが採用されていました。さらに,マグネットの内径を大きくとるとともに,フレームに空気抜きを
あけるなどして,振動板の動きを規制しないような設計として,レスポンスの良い豊かな低音再生を実現して
いました。
スーパーウーファーは,ウーファーと同様のケブラー繊維に金蒸着を施した振動板をもつ,30cm口径のコー
ン型ユニットで,このユニットを負性抵抗駆動してキャビネット内部の空気を共振させ,ポート内の空気自身を
振動板として超低域の音圧を取り出すエアウーファーを実現したYST方式によって,38cm口径以上のユニッ
トに匹敵する25Hz(-5dB)という低域再生を実現していました。そして,駆動系には,ウーファーと同様に,柱
状結晶アルニコマグネットによる磁気回路と軽量のショートボイスコイルが採用されていました。
GF-1は,4ウェイ・4ユニット構成ですが,LCネットワークを介さず,マルチアンプシステムを採用していました。
チャンネルディバイダーを内蔵し,各ユニットごとにそれぞれ専用のパワーアンプを搭載していました。
チャンネルディバイダー(エレクトロニッククロスオーバー)のクロスオーバー周波数は,60Hz,600Hz,4kHz
となっていました。このシステム専用のため,クロスオーバーポイントは各ユニットやシステム全体に合わせた
最適な設定がなされた上,固定となっており,余分な回路が内蔵されないシンプルで性能を高めた構成となっ
ていました。そして,各ユニットごとに0.5dBステップで±2.5dBの範囲でレベルコントロールができるように
なっていました。
各ユニット用の4台のアンプは,スーパーウーファー部のエンクロージャーの裏面にぴったり縦に取り付けられ
ていました。それぞれ125Wの出力を持った同一のアンプで,シンプルな構成の手造りの高級アンプでした。
スーパーウーファー部のアンプにはさらにYST回路が内蔵されていました。
アンプへの電源供給は,独立した筐体になっていて,床に設置するようになっていました。内部には,4台のア
ンプそれぞれに専用の独立した電源トランスが搭載されていて,4つ並んだコネクターからそれぞれのアンプ
に電源を供給するようになっていました。
アンプ内蔵型のスピーカーシステムであるGF-1の入力端子は,アンバランス3.3kΩのターミナルとバランス
600Ωの2系統あり,内蔵パワーアンプへの入力となっていました。バランス入力は,キャノンコネクターで,
入力感度2Vで,コントロールアンプの出力を直接入力する端子となっていました。アンバランス入力は3P端
子で,入力感度が20Vとなっており,パワーアンプからのスピーカー出力を入れられる端子となっていました。
パワーアンプからのスピーカー出力を内蔵アンプに入力するという形は,余分なアンプが入るという見方もあ
りますが,音楽信号がインピーダンスの高いアンバランスのラインを長く通過するよりも,高電圧・低インピー
ダンスの信号伝送の方がクオリティを高められるという考え方によるものでした。
エンクロージャーは,高さ140cm,幅70cmに達する大型のもので,システム総重量150kgで,スーパーウー
ファー部と3ウェイ部の2つに分かれるようになっていました。ヤマハは,GF-1のエンクロージャーの設計にあ
たり,容積係数VF(VOLUME FACTOR)値というものを提唱していました。これは,ユニットに対するエンク
ロージャーの容積の係数で,エンクロージャーの容積をユニットの公称径の3乗で割ったもので,当時の一般
的なハイファイスピーカーシステムでは2~5という値でした。このVF値が大きいほど,スピーカーユニットの大
きさに対してエンクロージャーの内容積に余裕があり,音の雰囲気が豊かになり低音も伸び伸びとした再生音
になる傾向があります。また,VF値が大きいと,キャビティ内の空気の圧力が高くならないので,エアースティフ
ネスによるfoの上昇が起こらず,ユニットのfoをあらかじめ下げるために振動系を重くするといったことも必要
でなくなり,ユニットの設計の自由度も高まり,軽く反応のよい振動系も可能となります。
GF1では,VF値がスーパーウーファーで5.6,ウーファーが7.4という大きい値になっていました。こうした設
計は高域ユニットにも行われ,トゥイーターとスコーカーにも異例に大きいバックキャビティが設定され,VF値
はトゥイーターで22,スコーカーで15となっていました。
エンクロージャーの素材には,強さと響きの美しさを持つアメリカンハードメープル材が採用されていました。バッ
フル面は,3枚のメープル材を積層に張り合わせたラミネートコアタイプ,その他の面は縦に張り合わせたラン
バーコアタイプとし,アメリカンウォルナットの添え芯を両面に張り合わせた上で,さらにアメリカンウォルナット
を両面に張り合わせ,外装面はウレタンオープンポア仕上げとしていました。板厚はすべて28mmで,バッフル
面は留め加工としていました。
また,標準仕様のウォルナットウレタンオープンポア仕上げに加え,高級家具やピアノなどの外装材に使用さ
れる,西アフリカ産の濃いめのブラウンの色と調と美しい縞模様を特徴とする木材・サペリのウレタン塗装仕上
げを外装材に採用した特別仕様も用意されていました。
YAMAHA GF-1s
ACTIVE SPEAKER SYSTEM ¥7,000,000(2台1組)
以上のように,GF-1は,ヤマハの歴史の中でも群を抜く最高級のスピーカーとして,まさに超弩級ともいえる
ものでした。持ち前のユニット技術,アンプ技術,木工技術など,総合的な高い技術力で仕上げられていまし
たが,大型のエンクロージャーが支える音は,物理特性の高さを表に出すというよりも,明るく伸び伸びとした
音楽を豊かに聴かせるものでした。
YAMAHA GFD-1
GF DRIVE AMPLIFIER ¥1.200,000
GF-1の発売の翌年の1992年に,専用ドライブアンプGFD-1が発売されました。上述の高電圧・低インピー
ダンスの信号伝送を実現するために,プリアンプというより100W+100W(6Ω)相当のパワーアンプ構成と
なっていました。内容的には,GF-1の内蔵アンプ1チャンネル分と同じものが,それぞれ左右チャンネルに搭
載された形になっていました。プリメインアンプとしても使用できるようになっていました。専用設計ゆえに,プリ
アンプの送り出しバッファーアンプのゲインを上げただけといったきわめてシンプルな回路構成を追求していま
した。機能的には,6ポジションのライン入力と23ポジションのロータリースイッチによるアッテネーターという構
成になっていました。さらに,GF-1本体の内蔵アンプと同様に,大型の電源トランスが左右独立で搭載された
電源トランス部は別筐体となっており,電源供給も左右独立で,信号系への影響やチャンネル間の相互干渉を
防止していました。こうした構成のため,通常のプリメインアンプとして,一般のスピーカーと接続しても使えるよ
うになっていました。このドライブアンプGFD-1とCDプレーヤーGT-1を組み合わせるとヤマハ純正のシンプル
かつハイクオリティなシステムとなるように想定されていたようです。実際,この純正組み合わせの音は,変な
誇張感がない自然でクリアな音質として完成されたものとなっていました。
以下に,当時のカタログの一部をご紹介します。
GF-1
すべての束縛から解き放たれ,
音楽をあるがままに映し出すグランドフロアスピーカ。
◎過去のすべてを超越するため
設計を規制する要素の排除に努めました。
◎理想のダイアフラムを求め
鍛造ベリリウム&ケブラーを採用。
◎柱状結晶アルニコマグネット採用
軽量ショートボイスコイルとフレーム設計。
◎豊かでハイクオリティな低音再生,YST方式。
◎LCネットワークシステムによる様々な規制から
解放するマルチチャンネルアンプシステム。
◎ユニットの素性の良さを
素直に引き出す余裕のエンクロージャ。
◎バイオリンやピアノにも使われている
鳴りの美しいハードメープル材を採用。
◎特別仕様のサペリ ウレタン塗装仕上げも用意。
GFD-1
至芸のスピーカGF-1を鳴らし切るために生まれた
専用ドライブアンプ。
●GF-1主な規格●
方式 | マルチアンプドライブ方式 |
型式 | 4ウェイ防磁型 |
スーパーウーファ方式 | ヤマハ・アクティブ・サーボ・テクノロジー方式 |
使用ユニット | 30mm金蒸着鍛造ベリリウム・ドーム型ツイータ 88mm金蒸着鍛造ベリリウム・ドーム型スコーカ 27cm金蒸着ケブラー・コーン型ミッドウーファ 30cm金蒸着ケブラー・コーン型スーパーウーファ |
ポート口径 | 100mm×2 |
再生周波数帯域 | 25Hz~35kHz(-5dB) |
出力音圧レベル(ユニット単体) | 94dB(ツイータ/スーパーウーファ) 95dB(スコーカ/ミッドウーファ) |
クロスオーバ周波数 | 60Hz・600Hz・4kHz(+12dB/oct,-18dB/oct) |
定格出力 | 500W/ch(125W×4)(5Ω・歪0.005%) |
入力接続/感度 | ラインレベル(キャノン端子)/2V パワーアンプレベル/20V |
内容積 | 332L |
キャビネット | アメリカンハードメープル ムク材 |
外装仕上げ | アメリカンウォルナット/ウレタンオープンポア塗装(標準仕様) サペリ/ウレタン塗装(特別仕様) |
定格消費電力 | 360W/ch |
無信号時消費電力 | 120W/ch |
最大外形寸法 | 本体:710W×1400H×630Dmm 電源部:650W×175H×180Dmm |
重量 | 本体:150kg(3ウェイ部:70kg,スーパーウーファ部:80kg) 電源部:25kg |
●GFD-1主な仕様●
GF-1接続時 | |
動作方式 | 純A級 |
出力電圧/インピーダンス | 25V/0.012Ω |
S/N比 | 128dB |
消費電力 | 60W |
通常スピーカー接続時 | |
定格出力 | 100W+100W(6Ω) |
全高調波歪率 | 0.003%(6Ω,100W) |
消費電力 | 240W(4Ω) |
総合 | |
入力感度/インピーダンス | 1.4V/10kΩ |
外形寸法 | 本体:454W×180H×490Dmm 電源部:350W×1850H×196Dmm |
重量 | 本体:21kg,電源部:17kg |
※ 本ページに掲載したGF-1,GFD-1の写真・仕様表等は,1992年
9月のYAMAHAカタログより抜粋したもので,ヤマハ株式会社に著作
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