Lo-D HA-630
INTEGRATED STEREO AMPLIFIER ¥69,800
1976年に,ローディーが発売したプリメインアンプ。日立は,Lo-D(Low Distortion=
低歪みに由来)のブランドで,家電のみでなく重電,半導体なども自社生産する総合電機
メーカーとしての技術力を生かして,画期的なオーディオ機器を発売していました。アンプ
の分野でも高い半導体技術を生かしたすぐれた製品を発売していました。そして,ローディー
は,この年,「ダイナハーモニー方式」を発表,採用し,高効率で大出力を実現したパワー
アンプHMA-8300,とプリメインアンプHA-630を発売しました。
HA-630は,前年発売のHA-610の改良モデルともいえますが,最大の特徴は,上述
の「ダイナハーモニー方式」の採用でした。
「ダイナハーモニー方式」は,「2段差動増幅全段直結4電源高能率純コンプリメンタリー
OCL・E級ドライブ方式」というもので,通常±2電源でドライブされている出力段に,低圧
電源,高圧電源の各々±2電源(合計4電源)を搭載し,小出力時には,低圧電源が働き
大出力時には高圧電源が働くように,自動的に音楽レベルに合わせて,切り換えるシステ
ムで,ローディーは,これを通常B級アンプの3倍の効率を持つということで,「E級ドライブ
方式」と称していました。
この方式は,ローディーが音楽信号の解析を行い,実際に大出力を要するのは,音楽再
生の中の約1.4%であり,残りの98%あまりは小出力であるという結果から生まれたも
ので,音楽のピークに対しては大出力,通常は小出力アンプとして働かせることで,大出
力時は効率がいいが,小出力時には効率が低くなるという大出力アンプの欠点を,高低
2つの電源を切換えることで克服したという,当時としては画期的なものでした。この方式
は,かなり後の1980年代に入って,トリオ・ケンウッドのDLD方式や,パイオニアのプリ
メインアンプにもよく似た方式が採用された例が見られ,その意味で,非常に先進的な技
術であったといえると思います。ローディーは,この方式のために,100万分の1秒という
超高速スイッチング素子を開発し,電源切換時の歪みの問題も回避していました。
HA-630では,±67Vの高電圧と±31.5Vの低電圧の4電源方式を採用し,音楽プロ
グラムの瞬間レベルに対して,高速度電源切換を行い,ダイナミックマージンを高めてい
ました。そのために,高耐圧・高速度スイッチングダイオードUO6C,及びダブルエピタキ
シャル構造のパワートランジスター2SD581A,2SB611Aを使用し,日立の持ち前の
高速度半導体技術を生かしていました。
メインアンプのA級ドライブ回路には,カレントミラー回路を採用し,パワー部のプッシュプ
ル駆動により,実効出力85W+85W(1kHz・8Ω),ダイナミックパワー320W(IHF・
8Ω)と低歪率を実現していました。
イコライザー部は,初段差動・4石構成の3段直結という構成で,PHONO・S/N比75dB
を実現していました。また,メインアンプ部のダイナハーモニー方式のダイナミックレンジ
に対応して,最大許容入力320mV(1kHz・RMS)を確保していました。
トーンコントロール部には,高利得・高安定度のIC HA-1456とNF型回路を組み合わ
せて低歪率を確保していました。BASS,TREBLE独立のコントロールが可能で,ディ
フィートも可能でした。
ボリュームコントロールは,32接点アッテネーター型を採用し,正確なレベルコントロー
ルが可能となっていました。左右偏差が少なく,減衰量が正確に制御できるようになって
いました。さらに,2段切換のゲインセレクターが装備され,0dB,-15dB,-30dBと
アッテネーターを組み合わせて,より細やかな音量調整が可能となっていました。
その他の部分は,機能的には,プリメインアンプとしてオーソドックスにまとめられ,25Hz
12dB/octのサブソニックフィルター,8kHz・6dB/octのハイフィルター,ラウドネススイッ
チ,STEREO・REVERSE・L+R,L,Rのモード切換スイッチなどが装備されていました。
以上のように,HA-630は,ローディーが,自社の半導体技術を生かして開発したプリメイ
ンアンプで,中級クラスながら「ダイナハーモニー方式」を導入し,音楽のピーク時にも歪み
感の少ない滑らかな音を聴かせてくれました。
以下に,当時のカタログの一部をご紹介します。
◎ダイナミックパワー320Wの大出力!!
◎半導体技術を駆使して開発した
”ダイナハーモニー”方式(E級ドライブ・・当社呼称)
をパワー部に搭載。
◎32接点ボリュームコントロールと
2段ゲインセレクターによる
マニアックなフィーリング。
●定格HA-630●
■メインアンプ部■
回路方式 |
差動2段全段直結 4電源 高能率コンプリメンタリーOCL回路 |
ダイナミックパワー |
320W(IHF 8Ω) |
実効出力 |
20Hz~20000Hz(両ch駆動): 60W+60W(8Ω) 1000Hz(両ch駆動): 85W+85W(8Ω) 1000Hz(片ch駆動): 110W/110W(8Ω) |
全高調波歪率(1kHz,8Ω) |
実効出力時:0.3% |
混変調歪率 (70Hz:7kHz=4:1) |
1/2実効出力時:0.03% |
出力帯域幅 |
10~50,000Hz |
ダンピングファクター | 30以上 |
出力端子 |
スピーカー端子:A・B(4~16Ω) A+B(8~16Ω) ヘッドホン端子:4~16Ω |
回路方式 |
イコライザーアンプ:差動1段,3段直結 コントロールアンプ:NF形 |
入力端子 (感度/インピーダンス) |
PHONO 1 :2.3mV/50kΩ PHONO 2 :2.3mV/50kΩ(連続可変) TUNER :100mV/50kΩ AUX :100mV/50kΩ TAPE PLAY-1:100mV/50kΩ TAPE PLAY-2:100mV/50kΩ |
PHONO最大許容入力 (1kHz,全高調波歪率0.3%) |
PHONO 1,2:230mV(RMS) |
出力端子 (レベル/インピーダンス) |
TAPE REC OUT(PIN Jack):100mV/1kΩ TAPE REC OUT(DIN端子):40mV/80kΩ |
周波数特性 |
PHONO(RIAA偏差):30~15,000Hz(±0.5dB) |
トーンコントロール |
BASS :±10dB(100Hz) TREBLE:±10dB(10kHz) |
フィルター |
LOW:25Hz(12dB/oct) HIGH:8kHz(6dB/oct) |
ラウドネスコントロール (ボリューム-30dB) |
+8dB(100Hz),+4.5dB(10kHz) |
S/N (IHF,Aネットワーク) |
PHONO:75dB TUNER,AUX,TAPE PB:90dB |
ゲインセレクター |
-0,-15,-30dB |
使用半導体 | IC:1個 トランジスタ:44石 ダイオード:43個 |
電源電圧 |
AC100V 50/60Hz |
定格消費電力 |
120W |
ACアウトレット |
3 |
外形寸法 |
435W×144H×353Dmm |
重量 |
11kg |
付属機能 | ゲインセレクター,スピーカーA・B・A+B切換 トーンディフィート,ローフィルター,ハイフィルター ラウドネス,録音/再生コネクターヘッドホンジャック |
※本ページに掲載したHA-630の写真,仕様表等は,1976年
11月のLo-Dのカタロ グより抜粋したもので,日立家電販売株式
会社に著作権があります。したがって,これらの写真等を無断で
転載・引用等することは法 律で禁じられていますのでご注意くださ
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