YAMAHA K-1
YAMAHA K-1B
STEREO CASSETTE DECK ¥95,000/¥98,000(K-1B)
1978年に,ヤマハが発売したカセットデッキ。当時のヤマハのカセットデッキの最上級機で,前年の
1977年に発売されたTC-1000をベースに,より内容をブラッシュアップ,強化したモデルで,デザイ
ン的にも,シーリングパネルを採用し,シンプルな美しいフロントパネルを実現して,より洗練されたも
のとなっていました。
K-1は,オーソドックスなワンウェイ,シングルキャプスタン,2ヘッドという型式で,性能を追求したカ
セットデッキで,各部の作り,パーツにしっかりと技術とコストが掛けられていました。
K-1の最大の特徴は,録音・再生ヘッドとして搭載された「Triple-P-Head」でした。これは,「Pure
& Plasma Process Head」の略で,高純度のセンダストを素材とした高性能ヘッドでした。セン
ダストは,昭和7年(1932年)に東北の仙台で開発された純国産の合金で,磁気特性に優れた純鉄
の特性を生かすために鉄合金中の鉄の結晶を大きくすることで磁気特性の良い合金を生み出そうと
したアイデアから生まれ,鉄と特殊シリコン(Si)約10%とアルミニウム(Al)約7%を加えることで,磁
気特性の非常にすぐれた合金としたものでした。東北大学の研究室で生み出されたこの発明が仙台
で行われたことから,仙台(センダイ)の圧粉鉄心(ダストコアー)・・・「センダスト」と名付けられたこの
合金は,パーマロイよりすぐれた磁気特性とフェライトに迫る硬度を併せ持つといわれ,磁気ヘッドの
素材としてすぐれた特性を持っ ていました。反面,難加工性とコストの面で,磁気ヘッドとしての実用化
に時間がかかったといわれています。
センダストの加工を容易にするために,ジルコニウムやチタンなどの添加物を意識的に混入し,加工性
を高める方式もありますが,センダストの磁気特性はクリティカルで,ごく少量の不純物の混入でも,磁気
特性は大きく低下するという問題点がありました。ヤマハの「Triple-P-Head」は,センダストの難加工性
を克服するために,高真空遠心鋳造法という技術を採用していました。99.999999%〜99.9%という
超高純度のセンダストを高真空のカプセル内で溶かし,同じカプセル内にセットされた高速回転(18,000
rpm)するセラミックの鋳型の中に流し込んで鋳造するとことで,結晶方向の揃った超高純度のローインピ
ーダンスのセンダストコアが形成されというものでした。さらに,ピュアセンダストの磁気コアは,パーマロイ
のシールドケースに収められますが,センダストとパーマロイの硬度が異なるため,パーマロイ部分が早く
減り片減りの恐れがあります。「Trplei-P-Head」では,組み立ての済んだヘッドの前面にコア材と同一の
センダストを真空中で一度プラズマ状に溶融したものを放射してヘッド前面をセンダストで厚く覆い鏡面仕
上げして完成するというプラズマ溶射法がとられていました。このような製造法や構造を持つこのヘッドは
Pure(高純度)であること,Plasma(プラズマ)溶射法などによって,そのProcess(加工工程)が簡略化
されしかも高精度であることから,「Triple-P-Head」と名付けられていました。この「Triple-P-Head」は
(1) コア透磁率が高いため,再生効率が良く,感度が高い。(2) 飽和磁束密度が大きいため,大きな信号
電流を流すことが可能で,大入力時でもリニアリティが良く,歪みが少ない。(3) 摺動ノイズが少なくSN比
が良い。(4) キュリー点が高いため,安定した温度特性が得られる。(5) 硬度が十分に高く,耐摩耗性に
すぐれる。など多くのすぐれた特徴が実現されていました。ヘッドの形状自体も,コンピュータシミュレーシ
ョン手法なども導入され,コンターエフェクト(形状効果)についてもしっかり考慮されたものとされ,すぐれ
た低域特性も実現されていました。そして,このヘッドは,後に「ピュアセンダストヘッド」と称されるように
なっていきました。
弟機のK-2が録再コンビネーションヘッド搭載の3ヘッド構成であるのに対し,K-1は,録再ヘッドそのも
のの特性を高め,テープ走行においては,シンプルな走行系で安定した走行性とヘッドタッチが実現でき
る2ヘッド構成で,音質・性能を追求するという設計になっていました。
走行系には,キャプスタン駆動用モーターとリール駆動用モーターを独立させた2モーター構成がとられ,巻
き取りリールの駆動をキャプスタン用モーターが兼用するというような,複雑な伝達機構を持たず,キャプス
タン用モーターはキャプスタン駆動専用というセパレートドライブ方式となっていました。キャプスタンモーター
はFG(周波数発電機)サーボ回路を採用したハイトルクDCモーターが搭載され,安定したテープスピードが
確保されていました。テープ巻き取り用リールモーターには両方向回転型のDCモーターが搭載され,早送り
時と巻き戻し時には回転を逆転させるようになっており,さらに,早送り・巻き戻し時には,2,000rpmの回
転数が,再生時には電圧制御により約1,000rpmに減速されるようになっており,再生時のテープ巻き取
りの回転音や振動を減少させ,ワウの向上が図られていました。
キャプスタンは,キャプスタン自身の真円度誤差0.1ミクロンの精度が確保され,キャプスタン及びキャプス
タン軸受けのクリアランスもミクロンオーダーで仕上げられ,正確な回転が確保されていました。フライホイー
ルは直径77mmの大型のもので,慣性質量1700g・cmを確保し,しかも偏重心距離は6ミクロン以内と,精
密にバランスがとられていました。また,キャプスタンモーターの動力をフライホイールに伝達するためのベル
トには伸縮が少なく圧着面積の広い平ベルトが採用されていました。圧着面は,特殊加工技術によって鏡面
に近い高精度に研磨されておりよりしなやかに密着してなめらかな伝達を実現していました。
走行メカニズムは,1.6mm厚の鉄板でがっしりと作られた精密シャーシに取り付けられ,安定動作が確保さ
れていました。これらの高精度なメカニズム系により,ワウ・フラッター0.03%以下という高精度なテープ走
行が実現されていました。
イコライザアンプの初段は,ローノイズFETを採用した4石構成で,±15Vの2電源で駆動されていました。
ヘッドの出力はコンデンサを介さずにダイレクトにFETのゲートに接続されたICL構成となっていました。
そして,このイコライザアンプは,録音時にはNF回路のイコライザ素子を切り換えることで,マイクアンプと
して働くようになっていました。また,このイコライザアンプは,録音時には,NF回路のイコライザ素子を切換
えて,広ダイナミックレンジ,広帯域,低歪率のフラットアンプとして動作させるようになっていました。
再生系には,ユニークな機能としてサウンドフォーカススイッチが装備されていました。通常は再生時に,高
域でのヘッドの損失を補うためにヘッドと並列に高域ピーキング用のコンデンサを挿入して周波数特性を補
正していますが,通常のこの状態をSHARPのポジションとして,もう一方のSOFTのポジションにすると,こ
のコンデンサをカットして,素直な特性を得ようとするものでした。周波数特性上は,高域で1〜3dB低下する
代わりに,位相が逆転する周波数を可聴帯域外のかなり高い周波数に追いやり,位相特性が改善され,ボ
ーカル等の定位が良くなるなどの効果が得られるようになっていました。
ヘッドホンアンプは,専用のICが使用されたOTL回路で,インピーダンス8Ωから数kΩまでのヘッドホンに
対応していました。
バイアス発振回路には,発振波形の歪が少なく,発振出力が充分に大きなものが搭載され,バイアス周波数
は105kHzに設定されていました。消去ヘッドには,60dB(1kHz)以上の高い消去効率を持つダブルギャッ
プフェライトヘッドが搭載されていました。
走行系の操作は,高集積のロジックICとソレノイドプランジャーを採用したICロジックコントロールで,操作レス
ポンスが良く,軽いタッチの操作フィーリングと他のモードへのダイレクトチェンジが可能な高い操作性を実現
していました。
テープセレクターは,LH,CrO2,FeCrの3ポジションで,さらに±8%可変のバイアスアジャスタも装備されて
いました。ノイズリダクションとして,ドルビーNR(Bタイプ)が装備され,MPXフィルタースイッチも備えられてい
ました。また,レコードのそりなどによる低域の不要信号をカットするサブソニックフィルタスイッチも装備されて
いました。
レベルメーターは,蛍光表示管を用いたワイドレンジバーグラフピークメーターが搭載されていました。24ピ
ンICによるコンパレーターとデコーダドライバが駆動し,−30dB〜+2dBを12分割してグリーンのバーで表
示する美しいものでした。プログラムソースに合わせてメータ回路のリカバリータイム切換スイッチ付で,0dB
→−30dBの戻り時間をFAST(1.5秒),SLOW(3.5秒)に切換えられるようになっていました。
以上のように,K-1/K-1Bは,当時のヤマハのカセットデッキの最上級機として,2ヘッド,ワンウェイという
オーソドックスな型式ながら,しっかりした各パーツと作りで,ヤマハらしからぬ(?)低音の支えのしっかりし
たおだやかな品位のある音を実現していました。スマートなデザインながら,アンプ並のフロントパネルを持
つしっかりした筐体も,その音を表していたのかもしれません。
YAMAHA K-1a
NATURAL SOUND CASSETTE DECK ¥98,000
1979年に,K-1はK-1aにモデルチェンジされました。K-1の改良によりメタルテープに対応したモデ
ルでした。テープポジションも,LH,CrO2,FeCrからLH,CrO2, METALへと変更されていました。
メタルテープ対応のため,特にヘッド周りの改良が施されていました。「Triple-P-Head」は継承されつ
つも,さらに,巻線に銀線を使用し,巻線仕様も変更するなどの改良で,ヘッド自体のインピーダンスを
1/4に低減していました。インダクタンス成分の減少により矩形波応答特性の向上,ヘッドの自己共振
周波数が40kHzから500kHzへと移行したことにより高域の位相特性のリニアリティの改善,ヘッド内
部の構造に無理がなくなり,2kHz以上で約10dBのチャンネルセパレーションの改善,といった特性の
向上が実現されていました。そして,ヤマハの,この世代のデッキから,このタイプのヘッドが広く採用さ
れ,「ピュアセンダストヘッド」と称されるようになりました。
消去ヘッドは,ダブル・ギャップ・フェライトヘッドをベースにした,ダブル・ギャップ・ストロング・イレーザが
採用され,消去特性は,20Hz〜20kHzの全帯域で,約70dBに強化されていました。
アンプ系も,細部にブラッシュアップが行われ,チャンネルセパレーションも40dBへと向上していました。
走行系にも,円周方向と軸方向の両方向でバランスをとった直径77mm,慣性質量2000g・cmという
両面ダイナミックバランス型のフライホイールの採用など,ブラッシュアップが行われ,ワウフラッター
0.028%というすぐれた特性を実現していました。
機能的には,メータ回路のリカバリータイム切換スイッチ付は省かれ,代わりに,テープを入れなくても
入力ソースのモニターができるNORM/SOURCEの切換ができるテープモニタースイッチが新たに装
備されていました。
以上のような,改良が行われ,メタルテープ対応が図られ,外観にも通じる上品な音は継承されていまし
た。
YAMAHA K-1d
NATURAL SOUND CASSETTE DECK ¥99,800
1981年には,K-1dが発売されました。前モデルK-1aに比べて,録再ヘッド,アンプ系,ノイズリダ
クションなど,各部に大幅に改良が加えられたモデルとなっていました。
録再ヘッドには,新開発の「マルチラミネート・ローインピーダンス・ピュアセンダストヘッド」が搭載さ
れていました。これは,ピュアセンダストを多層(5枚)ラミネートしたコア材を採用したヘッドで,ロー
インピーダンス化に加え,高域周波数特性(18kHzで25dB改善),位相特性,バイアス電流効率
(30%向上・METALテープ時),セパレーション等が大幅に改善されていました。
録音アンプには,新たに,同社の
BX-1,
A-9などの単体アンプに採用されている「ピュアカレントサー
ボアンプ」が採用されていました。ピュアカレントサーボ回路によって,電源から常に一定の電流がアン
プに供給される方式で,アースラインや電源ラインに信号電流が流れ込むことがなく,電源ラインやアー
スラインのノンリニア成分の悪影響を受けないアンプ回路となっていました。さらに,±35Vの高耐圧IC
を±27V(通常は±12V前後)の高電源電圧で動作させ,全帯域で余裕あるヘッドルームを確保して
いました。そして,録再ヘッドは,バイアストラップのみを介して録音アンプと直結されて特性の向上が
図られていました。ヘッドアンプは,1チップデュアルFET差動入力ダイレクトカップルのDCアンプ構成
となっていました。ラインアンプも,通常カセットデッキでは,ドルビーICに内蔵されているアンプを流用し
ているものが多いのに対し,DCアンプ構成の専用のラインアンプを搭載していました。FET差動入力セ
ミコンPPという回路構成で,すぐれた特性が確保されていました。専用ラインアンプの搭載により,ノイズ
リダクション回路は,THRU状態で信号経路から完全に切り離される構成となっていました。そして,これ
らの録音アンプ,ヘッドアンプ,ラインアンプ,さらにノイズリダクションシステムも含むすべてのアンプ回
路がDCアンプ構成となっていました。
また,アンプ系全体のインピーダンスを下げ,ボリュームにも従来より低い抵抗値のものを採用し,配線
などにも改善を施し,アンプ系全体のセパレーションを向上させ,ローインピーダンスの新しいヘッドと合
わせ,録再のオーバーオールで45dB以上(1kHz)のセパレーションが実現されていました。
K-1dの大きな改良点として,ノイズリダクションシステムがありました。従来からのドルビーBタイプに加
えて,新たにdbxが搭載されていました。強化されたヘッド周り,アンプ系の性能にdbxを組み合わせる
ことで,SN比100dB,ダイナミックレンジ110dBという高性能を実現していました。
また,MPXフィルタは,OFF時に信号系にインダクタンス成分の残らない新しい設計で,音質への悪影
響を減少させていました。
以上のように,K-1dは,K-1シリーズの第3世代として,アンプ系,ヘッド系などを中心に強化が行わ
れ,2ヘッドの高性能デッキとして,一つの完成形となっていました。この後,3ヘッド構成の
K-1xへと
継承されていくこととなりました。