ALPINE/LUXMAN KD-117
DIGITAL AUDIO TAPE DECK ¥230,000
アルプス電気とラックスが立ち上げたニューブランドALPINE/LUXMANが,1987年に
発売したDATデッキ。ALPINE/LUXMANブランドは,1984年に発足し,真空管とMOS
FETのハイブリッド構成のプリメインアンプ,D/Aコンバーター内蔵のプリメインアンプなど
意欲的な製品を送り出し,CDプレーヤー,カセットデッキ
,さらにスピーカーに至る多くの
ジャンルの製品群を発売しました。そして,DAT元年のこの年に発売したDATデッキの同
社の第1号機がKD-117でした。

1982年のCDのスタート以来,デジタル信号で録音するテープデッキの開発は,オーディオ
界では熱心に進められ,1983年には,DAT懇談会が設けられ,固定ヘッド,ロータリーヘッ
ドそれぞれの方式で,R-DAT(回転ヘッド方式DAT)とS-DAT(固定ヘッド方式DAT)の規
格が策定されました。その中で,ビデオデッキの技術が生かしやすい回転ヘッド方式がDAT
として1987年に商品化されることとなりました。
DATは,テープスピードが8.15mm/sと,カセットテープの約1/6という超低速ですが,ロー
タリーヘッドの採用で,ヘッドとテープの相対速度は3.133m/sと大きく高めることができ,
さらに,ビデオデッキと同様に,ヘッドをテープ走行方向に対して斜めにレイアウトしたヘリカ
ルスキャン方式を採用し,テープスペースを有効に使い,高密度の記録で,超小型のDATカ
セットに,長時間のデジタル録音が可能となっていました。



KD-117では,回転ヘッドなどの駆動系をコンピュータによるデジタルサーボでコントロール
しミクロンオーダーの記録トラックを精密にトレースするための独自の走行系メカニズムを開
発・搭載し,滑らかなテープ走行とドロップアウトの大幅な低減を実現していました。

D/A変換部には,16ビット4倍オーバーサンプリングによるデジタルフィルターを採用し,変
換時に48kHzを中心としたサンプリング周波数を高域に引き上げ,効果的にカットするよう
になっていました。D/Aコンバーターには,ラダーネットワーク型を採用し,L・R独立のデュア
ル構成として,再生時に位相特性のすぐれた再生を実現していました。さらに,DATの記録
上限(22kHz)を越える帯域をカットするローパスフィルターには,音質を損なわないGIC型
7次アナログフィルターを採用していました。
A/Dコンバーターにはオーソドックスな積分型が搭載されていました。また,アナログ入力で
の録音では,ローパスフィルターが入りますが,すでにローパスフィルターを通過しているCD
からのアナログ入力でのダビングの際には,ローパスフィルターをディフィートして,よりピュア
なダビングを可能にするCDポジションが装備され,フィルターにより音質ロスを低減できるよ
うになっていました。



電源部は,デジタル回路から波及する高周波パルスの電源ラインやアースラインへの混入
を徹底して防ごうとする,デジタル・アナログ分離電源が採用されていました。5つの2次巻
線で電源トランスを分離し,各回路の相互干渉から起こる電源変動を排除し,これに,トー
タル92,000μFにおよぶ大容量コンデンサー群を投入して,さらにピュアな電源を実現し
ていました。また,電源回路から信号回路までのアナログ回路に,ラックスがアンプに採用
してきた「S.T.A.R(Signal Transit for Accurate Response)サーキット」を採用し,
給電ラインやアースラインの共有化を排し,相互干渉のないスムーズな信号の流れを実現
していました。さらに,随所にオーディオ専用パーツを採用し,高音質化を図っていました。

DATであるKD-117は,テープ上に音楽とは別にサブコードを記録するスペースが設けら
れ,それを利用したデジタルならではの多彩な機能が実現されていました。スタートID,ス
キップIDといった信号を自動・手動で打ち込むことにより,CDのように自在な頭出しが可
能になっていました。
さらに,最大150倍速までの3スピードの早送り機能,24曲プログラム設定機能,無録音
部分を自動的に検出するREC ENDサーチ機能,タイマー再生/録音機能などが搭載され
ていました。
また,FL表示の表示部には,トラック表示,時間表示,レベル表示の他に,アナログ感覚
のバー表示のテープ残量表示も装備されていました。

入出力端子は,2系統のアナログ入出力端子を備え,入力は,通常のアナログ入力の他
に,CD入力専用の端子,出力は,通常の出力端子とCD入力をそのまま送り出すスルー
出力端子を搭載していました。CD入力は,上述のように,ローパスフィルターをディフィート
するようになっていました。そして,デジタル入出力端子としてコアキシャル(同軸)とオプティ
カル(光)を搭載していました。サンプリング周波数は,48kHz,44.1kHz,32kHzに対応
していました。しかし,第1世代のDATの共通の仕様として,CDからのデジタル入力による
録音が認められていなかったため,デジタル入力は48kHz,32kHzのみとなっていました。



以上のように,KD-117は,アルプス電気とラックスがALPINE/LUXMANブランドで発売
したDATデッキの第1号機で,新ブランドへの意気込みが詰まった,手堅くしっかりと作り上
げられた1台でした。そこには,アルプス電気のテープデッキ関連の技術とラックスのアンプ
系技術がしっかりと投入され,高い完成度を実現していました。


以下に,当時のカタログの一部をご紹介します。



デジタル伝送のコンセプトを実現した,
新次元のリファレンスデッキ,出現。


DATの概念までも,この音が覆すだろう。

◎「デジタル伝送」のコンセプトを,テープオーディオの
 世界にも。ALPINE/LUXMANが,DATに出会った。
◎ALPINE/LUXMANの提唱する「デジタル伝送」。いま,
 DATの出現で,待望のデジタルリンクが完成します。
◎録音・ダビングの概念を一変させるデジタル録音方式。
◎3モードのサンプリング周波数に対応。多彩な録再を実現。
◎目にあざやか。テープサンプリングモードディスプレイ。
◎高密度記録を実現するテープフォーマット&走行メカニズム。
◎高音質を徹底して追求したデジタル・アナログ分離電源。
◎音質重視の思想が選んだ高性能デュアルD/Aコンバータ。
◎多彩なテーププレイと操作を実現するサブコードシステム。
●スタートID
●スキップID

◎DATをさらに楽しみ,使いこなす多彩な機能を実現。
●最大150倍速までの3スピード早送り機能。
●無録音部分を自動的に検出するREC ENDサーチ。
●目覚まし再生・留守録に便利なタイマー再生/録音機能。
●アナログ感覚のテープ残量表示。
◎リファレンス機にふさわしい,確かな操作性を全身に。
◎アナログ(LINE)対応も万全。豊富な入出力端子装備。




●KD-117の仕様●

形式 回転ヘッド方式デジタル・オーディオ・テープレコーダー 
サンプリング周波数  再生モード:48kHz・44.1kHz・32kHz
録音モード:48kHz・32kHz
ダビングモード:48kHz・32kHz 
デジタル入出力  入力:コアキシャル(同軸)方式入力/オプティカル(光)方式入力
出力:コアキシャル(同軸)方式出力/オプティカル(光)方式出力 
デジタルフィルター  16bit4倍オーバーサンプリング 
A/Dコンバータ  積分型 
D/Aコンバータ  左右独立抵抗ラダー型 
録音再生S/N  92dB(JIS-A) 
ダイナミックレンジ  録音再生:90dB
再生:96dB 
周波数特性  5Hz~22kHz(±0.5dB) 
高調波歪率  0.005% 
LINE出力  2V RMS 
ワウ・フラッター  測定限界以下 
FF/REW時間  約55秒(120分テープ) 
消費電力  43W 
外形寸法  438W×86H×345Dmm 
重量  9kg 
オプション  W117-KD(側板) 価格8,000円 
その他特徴  ●スタートIDデジタルダビング
●CD専用入力VR
●ローパスフィルターディフィート(CD入力時)
●スローFF(12倍)
●マルチコントロールワイヤレスリモコン
●スタートID,スキップID消去
●最大プログラム曲数/24曲
●リピートモード
●10KEY
●スタートIDアフレコ
●スキップIDアフレコ 
※本ページに掲載したKD-117の写真,仕様表等は1987年6月の
 ALPINE/LUXMANの
カタログより抜粋したもので,ラックス株式会
 社及びアルパイン株式会社に著作権があります。したがっ
て,これら
 の写真等を無断で転載・引用等することは法律で禁じられています
 
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