TRIO KP-800
QUARTZ PLL AUTO-UP DD TURNTABLE ¥85,000
1982年に,トリオ(現JVCケンウッド)が発売したプレーヤーシステム。トリオは,1976年発売の
KP-7300以来,重量級ターンテーブルによる「大慣性質量ターンテーブル」など,正攻法のしっか
りした作りのアナログプレーヤーを発売していました。そして,新たに駆動モーター周りに新開発の
技術を投入し,正攻法で作り上げたプレーヤーシステムがKP-800でした。
KP-800には,新開発の高剛性回転機構・DL(ダイナミック・センターロック)モーターシステムを
搭載していました。DLモーターシステムは,スピンドルの外径面に切った特殊なオイルスリットとオ
イルホールにより,スピンドルの回転に伴いオイルが循環し,スピンドル全体を超高圧薄膜でカバー
してスラスト受け部と剛体化すると同時に,ヘリングボーンと呼ばれ逆くの字形に加工されたオイル
スリットが,流体の圧力を利用した強力な圧力でスピンドルを回転軸上に固定し,非常に安定した
回転を実現するというものでした。
このDLモーターシステムには,(1)ワウフラッター0.006%の安定した回転を実現,(2)軸受部か
らの振動及びノイズの発生を追放,(3)外部振動が伝わりにくい,(4)摩耗する部分をもたないた
め長期使用しても性能の劣化がないなどのメリットがあるというものでした。
ターンテーブルを駆動するモーターには,コアレス&スロットレス,3相スイッチング,プレーンドライ
ブDCサーボモーターが搭載され,クォーツ発振子の基準信号,速度検出信号を比較して位相差を
制御するクォーツPLL方式により,静的な定常回転の回転ムラを追放する クォーツロックが採用
されていました。さらに,このサーボ系には,ターンテーブル上に乗せられる負荷に応じてサーボ時
定数を切換えられるスイッチが装備されていました。これは,当時,同社が別売で用意していたター
ンテーブルシートやディスクスタビライザー,あるいは他社製のものを使用する際に対応するもので
ONポジションにすると,より最適な時定数が得られる仕組みになっていました。
ターンテーブルは,直径33cm,重量1.9kgのアルミ合金ダイキャスト製の重量級のものが搭載さ
れ,ゴムシートも含めて450kg・cm2の 大慣性質量により,動的な回転ムラを抑える「慣性ロック」
となっていました。当時のトリオは,サーボ系のクォーツロックと合わせて,安定した高精度な回転
を保持するシステムとして,「ダブルロック」と称していました。これらの回転系メカニズムや制御系
により,ワウ・フラッター0.006%(FG直読法)という高精度な回転を実現していました。
トーンアームは,スタティックバランスのS字型アームで,オーソドックスなユニバーサル型が搭載さ
れていました。アームパイプとメインウェイトがブチルゴムでカップリングされた「弾性カップリング質
量分離型トーンアーム」で,アームレゾナンスと1次分割共振という同時に制御することが難しい2
つの外乱の影響を抑え,分割振動がカートリッジに伝わらない仕組みになっていました。
また,このトーンアームには,ディスク最内周で自動的にアームが上がる,オートリフトアップ機構が
採用されていました。この機構には,機械的な接触や磁石などを用いず,無接触のオプティカル検
出方式が採用され,アーム感度への影響もなく,正確で静かな動作が可能となっていました。
キャビネット内部では,モーター支点(ターンテーブルの回転支点)とアーム支点を明確にするため
にメカニカルショート構造が採用されていました。アーム支点とモーター軸をARCB材という強靱な
樹脂系素材で固定し,同時に,DLモーターシステムもダイレクトに固定されていました。これにより
変換ロスを大幅に減少させ,クリアな音楽再生を実現していました。
以上のように,KP-800は,再生音に影響を与える要所を正攻法できちんと作り上げたプレーヤー
システムでした。とんでもなく大型のプレーヤーではないものの,もっと重量級の高級機にも通じる,
しっかりとしたクリアな再生音が得られるコストパフォーマンスにすぐれた1台でした。
以下に,当時のカタログの一部をご紹介します。
ワウ・フラッター0.006%(FG直読法)
を達成した,
世界初の高剛性回転機構
「DLモーターシステム」。
◎世界初の高剛性回転機構
DLモーターシステム
◎450kg・cm2の 大慣性ターンテーブルで慣性ロック
PLLサーボ回路でクォーツロック
◎モーター固定は
メカニカルショート構造
◎質量分離方式トーンアーム
駆動方式 | ダイレクトドライブ |
モーター | クォーツPLLコアレス&スロットレス 3相スイッチング,プレーンドライブ,DCサーボ |
起動トルク | 1.2kg・cm |
ターンテーブル | 33cm,1.9kg,アルミ合金ダイキャスト |
慣性モーメント | 450kg・cm2(ゴムシート含む) |
回転数 | 331/3,45rpm |
ワウ・フラッター | 0.006%(FG直読法) |
SN比 | 78dB(DIN-B) |
定常負荷特性 | 0%(針圧120gまで) |
起動特性 | 3秒 |
回転数偏差 | ±0.003%以内 |
時間ドリフト | 0.0005%/h以下 |
温度ドリフト | 0.00005%/℃以下 |
電源電圧特性 | 0%(±10V) |
型式 | スタティックバランスS字型パイプアーム質量分離方式 |
アーム実効長 | 245mm |
オーバーハング | 15mm |
トラッキングエラー | +1.8°~-1.0° |
針圧可変範囲 | 0~3g(0.1gステップ) |
適用カートリッジ重量 | 2~12g(付属シェル使用時) |
電源 | AC100V,50/60Hz |
消費電力 | 18W(電気用品取締法に基づく表示) |
寸法 | 490(幅)×155(高さ)×448(奥行)mm |
重量 | 11.5kg |
付属機構 | 無接点オプティカル検出オートリフトアップ機構 スタティック型アンチスケーティング機構 独立キューイング機構 トーンアーム高さ調整機構(可変範囲6mm) |
※ 本ページに掲載したKP-800の写真・仕様表等は1982年
2月のKENWOODのカタログより抜粋したもので,JVCケン
ウッド株式会社に著作権があります。したがって,これらの写
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