TRIO KT-5500
FM STEREO TUNER ¥38,000
1975年に,トリオ(現JVCケンウッド)が発売したFMチューナー。通信機メーカーでもあるトリオは,すぐれた
高周波関係の技術をもち,チューナーにすぐれた製品を多く送り出していました。1976年には,世界に先駆
けて「パルスカウント方式」のチューナーKT-9700を発売するなど,パルスカウントチューナーのイメージも強
いですが,当時,非パルスカウントチューナーにおいても,KT-7700などすぐれた製品を出し,その弟機と考
えられるKT-5500はエントリークラスのモデルながら,しっかりした内容をもつFM専用チューナーでした。
フロントエンドには,発振回路を内蔵し,連動誤差を抑えた工作精度の高い精密5連バリコンが搭載され,バリ
コンの回転角度に対して,厳密に周波数管理されたこの精密なバリコンにより,目盛精度が高く,RF段のトラッ
キングエラーによる歪みを抑えていました。
また,局部発振部をブロック化し,立体配線することで安定度を高め,温度や湿度の変化による周波数ドリフ
トを抑えていました。さらに,2段のRF段とミキサー段にデュアルゲートMOS型FETを3石使用して混変調,
相互変調を改善していました。こうしたシングル,ダブル,シングルチューニングという構成の高周波増幅部
により,1.7μV(IHF),3.7μV(50dBクワイティング感度)という高感度とイメージ比110dB,スプリアス
妨害比120dB以上というすぐれた妨害排除能力を実現していました。
IF部には群遅延特性にすぐれた,2素子セラミックフィルター2個と4素子セラミックフィルター4個からなる8
素子フェイズリニア型セラミックフィルターが搭載され,85dBという高選択度を実現していました。また,広帯
域のクオドラチャー検波回路を搭載し,オフセット電圧を調整することによって,広帯域にわたって低歪率特
性を実現していました。さらに,高利得増幅段と6段リミッターにより,AM抑圧比60dB,キャプチャーレシオ
1.0dBと,混信による音質劣化を抑えていました。
MPX部には,ステレオ信号を復調するマルチプライヤー(アナログ掛け算)回路に電流調整回路を付加し
た新型PLL MPX ICを採用し,オーバーオールの歪率,ステレオセパレーションを改善していました。また
ノルトン変換した5素子L・R分離型ローパスフィルターを使用し,音質を損なうことなくキャリアリークを抑えて
いました。
オーディオ部には,±2電源差動直結方式のオペレーショナルアンプを搭載し,低歪率化を図るとともに,
300%の過変調までカバーできるダイナミックレンジを確保していました。
ミューティング回路は,シュミットトリガー回路(入力電位の変化に対して出力状態が2つのしきい値で2段階
に変化する入力回路)でドライブするリレーミューティング回路を採用していました。アンテナ入力とディスクリ
SカーブとをAND合成した出力をシュミットトリガー回路でドライブしているため,良好な受信が可能となって
いました。
検波回路のオフセット電圧調整部,セパレーション調整部,PLL-VCO調整部などに,温度や湿度変化に強
いメタルグレイズ型半固定ボリュームを採用し,信頼性をより高めていました。
アンテナ端子には,従来の300Ω,75Ωの端子に加えて75ΩのF型接線を搭載していました。出力端子に
は,可変出力端子とREC(固定)出力端子,マルチパス出力端子,さらに4chアダプターを想定したFM DET
OUT端子が搭載されていました。
デザイン的には,上級機のKT-7700との共通性を強く感じさせるもので,250mmのロングダイヤルスケー
ルと2つのメーターが装備されていました。メーターは,電界強度指示型シグナルメーター,同調のセンター
位置を表すチューニングメーターが装備されていました。そして,フロントグラスに8mmの合わせガラスが使
用され,フロントパネルは3.5mm厚のアルミ1枚パネル,ブロンズゴールドのヘアライン仕上げ,無垢のツマ
ミという,上級機に準じた作りは豪華なものでした。
以上のように,KT-5500は,エントリークラスのチューナーながら,FM専用モデルとして設計され,中身も
外観デザインもしっかりした作りがなされ,コストパフォーマンスにすぐれたチューナーとなっていました。アナ
ログ的な良さを感じさせる少し柔らかな音は,バリコンチューナーならではの外観とともに雰囲気あるものだ
と思います。
以下に,当時のカタログの一部をご紹介します。
<FMのトリオ>が世に問う
FM専用チューナー★KT-5500
発振回路内蔵F直5連バリコン採用。
◎FM歪率0.1%(MONO)0.15%(STEREO)
オーディオ機器としての音質をきわめて重視。
◎高感度設計とすぐれた妨害排除能力
受信機としての性能もひときわひかります
◎信頼性・デザイン・操作性・・・・・・
<FMのトリオ>が磨き上げたオーディオ感覚
受信周波数 | 76MHz~90MHz |
アンテナインピーダンス | 300Ω平衡,75Ω不平衡 |
感度(IHF規格) | 1.7μV |
SN比50dBクワイティング感度 | 3.7μV(MONO),43μV(STEREO) |
歪率(400Hz,100%変調) | 0.1%(MONO) 0.15%(STEREO) |
SN比(100%変調1mV入力) | 75dB(MONO) 70dB(STEREO) |
イメージ比 | 110dB |
選択度(IHF規格) | 85dB |
IF妨害比 | 100dB |
ハーモニック・スプリアスレスポンス | 120dB |
AM抑圧比 | 60dB |
キャプチャーレシオ | 1.0dB |
ステレオ・セパレーション | 45dB(400Hz) 37dB(50Hz~10kHz) |
キャリアケージ | 65dB |
周波数特性 | 50Hz~10kHz +0.2dB,-0.3dB 30Hz~15kHz +0.2dB -1.5dB |
出力および出力インピーダンス | FM(400Hz 100%変調) 可変 0~1.5V 2.5KΩ 固定 0.7V 4.5kΩ FM DET OUT 250mV マルチパス出力 0.2V |
電源電圧 電源周波数 | 100V 50Hz/60Hz |
定格消費電力 (電気用品取締法に基づく表示) |
13W |
寸法 | 380(W)×140(H)×255(D)mm |
重量 | 5.7kg |
※本ページに掲載したKT-5500の写真,仕様表等は1975年
10月のTRIOのカタログより抜粋したもので,ケンウッド株式会
社に著作権があります。したがって,これらの写真等を無断で
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