TRIO KX-800
STEREO CASSETTE DECK ¥59,800
1980年に,トリオ(現JVCケンウッド)が発売したカセットデッキ。当時のトリオは,カセットデッキの分野では,あまり
メジャーなブランドではありませんでしたが,1977年にKX-9000,1979年にKX-1000と3ヘッド構成のカセット
デッキを発売し,カセットデッキへの意欲を見せていました。そうした中,カセットデッキのエントリークラスの主力機と
して発売されたのがKX-800でした。
KX-800の最大の特徴は,エントリークラスのいわゆる598クラスのカセットデッキでありながら,3ヘッド構成を実
現していたことでした。テープデッキのヘッドは,コアとの隙間(ギャップ)からの磁束の漏れを利用して,テープを磁
化(録音)したり,テープの磁気的変化を電気信号に変えたり(再生)しています。そして,このギャップ幅は,バイア
ス電流や帯磁などの諸特性によって,録音・再生それぞれに適した幅が決まってくるため,異なったものとなります。
そのため,それぞれ専用のヘッドをもつ3ヘッド構成は,性能上有利となるため,オープンリールデッキや高級なカ
セットデッキに採用されていました。
KX-800には,録音・再生ヘッドを分離し,1つのケースに納めたコンビネーション録再ヘッドを搭載していました。
録音ヘッド,再生ヘッドともフェライトヘッドで,それぞれに最適なギャップが与えられ,コンパクトにまとめられて,安
定したヘッドタッチを確保していました。消去ヘッドもダブルギャップのフェライトヘッドが搭載されていました。
3ヘッド構成とヘッド系にコストを割いていることもあったのか,走行系は1モーターシングルキャプスタンのシンプルで
オーソドックスなものとなっていました。しかし,1モーターで全ての動作を行うだけに,逆にメカニズム的には複雑なも
のとなっているともいえました。テープ走行の操作系は,従来のピアノキー式ではなく,機械的にソフトタッチな操作を
実現したメカニカル・ロジックコントロールとしていました。フライホイールのセンタースピンドルにギヤを設置し,それ
に噛み合うギヤ及びカム機構により,フライホイールの回転力をモード切換スイッチの原動力とする機構で,ボタン操
作力は200g以下と軽く,モードからモードへのチェンジもテープに負担をかけずにダイレクトにできるようになってい
ました。また,ポースボタンの隣には無信号録音のできるレックミュートボタンが装備されていました。
トリオのカセットデッキは,この世代からメタルテープ対応となり,テープセレクターは,メタル,ノーマル,フェリクロー
ム,クロームの4ポジションとなっていました。さらに,バイアス微調整のできるファインバイアスチューニングが搭載
されていました。
ノイズリダクションとして,ドルビー(Bタイプ)が装備されていました。FM録音時に使用するMPXフィルターも装備され
ドルビースイッチの中に,FILTER ONとFILTER OFFのポジションが装備されていました。
KX-800は,3ヘッドデッキでしたが,アンプ回路とドルビー回路は1系統で録音・再生兼用となっていたため,録再
同時モニターの機能は搭載されていませんでした。
入力は,LINEとMICが装備され,独立で入力回路が搭載され,ライン入力はマイクアンプを経由せずに直接録音ア
ンプに接続されるようになっていました。また,マイク入力は前面に端子が設けられ,さらに,マイクATTポジションが
設けられており,このポジションでは-12dB減衰させることで,高感度マイクにも対応していました。
ライン出力のレベルを調整できるアウトプットボリュームも装備されていました。このボリュームはヘッドホン端子とも
連動しており,ヘッドホンの音量調整ともなっていました。
レベルメーターは,-20~+5dBの針式のVUメーターが装備され,さらに0,+3,+6dBの3ポイントのLEDのピー
クインジケーターが装備されていました。
電源回路には,強力な本格的安定化電源を搭載し,従来,中級機以下で多用されていたリップルフィルターに比べて
安定性が大幅に改善されており,音質が向上していました。
以上のように,KX-800は,598クラスながら3ヘッド構成を実現した画期的なカセットデッキでした。各種の機能や
機構を省きながらも,コストの制約の中で,3ヘッド化で音質を高めようとした設計は,トリオの野心作であったといえ
ると思います。
以下に,当時のカタログの一部をご紹介します。
常識を破ったメタルデッキ。
3ヘッドでテープフリー,¥59,800。
魅力だ。
◎録音・再生に適したギャップ幅が設定できる
コンビネーション3ヘッド方式
◎メタルテープが使いこなせる
4段切換テープセレクター
◎テープフリーの
ファインバイアスチューニング
◎無録音のできる
レックミューティング
◎ソフトタッチ200g以下の
メカニカル・ロジックコントロール機構
◎テープノイズを抑える,ドルビーNR
◎留守ロク,目覚ましに便利,タイマースタンバイ
◎強力な電源回路
◎マイクアッテネーターつき入力セレクター
◎アウトプットボリューム
●KX-800定格●
トラック形式 | 4トラック2チャンネルステレオ |
モーター | 電子制御DCサーボモーター |
ヘッド | 3ヘッド 録音再生:フェライト・コンビネーション 消去:フェライト・ダブルギャップ |
テープ速度 | 4.76cm/s |
ワウ・フラッター | 0.05%(WRMS)以下 |
早送り・巻戻し時間 | 85秒以内(C-60テープ) |
周波数特性 | ノーマルテープ :30Hz~16,000Hz(35Hz~14,000Hz±3dB) フェリクロームテープ:30Hz~18,000Hz(35Hz~16,000Hz±3dB) クロームテープ :30Hz~18,000Hz(35Hz~16,000Hz±3dB) メタルテープ :30Hz~18,000Hz(35Hz~16,000Hz±3dB) |
SN比(ドルビーNR OFF/ON) | ノーマルテープ :52dB/62dB フェリクロームテープ:54dB/64dB クロームテープ :54dB/64dB メタルテープ :54dB/64dB |
総合ひずみ率 | 1.2%以下(1kHz 0VU メタルテープ) |
録音バイアス | 交流105kHz |
消去方式 | 交流消去 |
入力端子・感度 | MIC:0.19mV(18kΩ) ローインピーダンス(600Ω)マイク用 LINE:77.5mV(50kΩ) |
出力端子・レベル | LINE:775mV(100kΩ負荷) HEAD PHONE:8~16Ωヘッドホーン用 |
電源 | AC100V 50Hz/60Hz |
消費電力(電気用品取締法による表示) | 14W |
寸法 | 440W×133H×355Dmm |
重量 | 6.8kg |
付属機構 | ドルビーノイズリダクションシステム, テープセレクター/バイアス可変ボリューム MPXフィルタースイッチ(ドルビーNR ON時) タイマースタンバイ/レックミュート 3ポイントピークレベルインジケーター フルオートシャットオフ/3桁テープカウンター インプットセレクター(ATT MICポジション付) 出力ボリューム, |
※本ページに掲載したKX-800の写真,仕様表等は1980年5月
のTRIOのカタログより抜粋したもので,JVCケンウッド株式会社
に著作権があります。したがって,これらの写真等を無断で転載・
引用等することは法律で禁じられていますのでご注意ください。
★メニューにもどる
現在もご使用中の方,また,かつて使っていた方。あるいは,思い出や印象のある方
そのほか,ご意見ご感想などをお寄せください。