KX-9050Sの写真
KENWOOD KX-9050S
STEREO CASSETTE DECK ¥89,800

1992年にケンウッドが発売したカセットデッキ。3ヘッドシングルウェイのオーソドックスなカセット
デッキで,ケンウッドらしい正攻法に音質を追求した設計の1台でした。

走行系は,3モーター構成で,クローズドループデュアルキャプスタンメカニズムを採用していました。
特にキャプスタン駆動はDD(ダイレクト・ドライブ)方式で,新開発のコア付き周対向型ダイレクトモー
ターを採用していました。カセットデッキとしては初の搭載で,従来のモーターに比べてトルクが大きく
高い制御特性を持ち,立ち上がり時間も速く安定するため,STOP状態でキャプスタンをアイドリング
しておく必要が無く,軸受け部の不要な摩耗を最小限に防ぐことができるメリットがありました。
リールベースはテイクアップサイドにダンパーつきを採用することで,負荷変動によるリール駆動変化
やワウ・フラッター変化が少なく抑えられ,テープの始めから終わりまで安定したテープ走行を実現し
ていました。

DDモーターダンパー付きリール台

キャプスタン用以外に,リール駆動用に1個,メカ駆動用に1個と計3個のモーターを走行系に搭載し,
さらに,ローディング用にもう1個モーターを搭載していました。

録音・再生ヘッドとも高域特性に優れ伝送ロスの少ないPC-OCCコイルを採用し,電磁変換特性が
良く耐摩耗性の高いアモルファスヘッドを搭載していました。
消去ヘッドには,セラミックガード付きセンダストイレースヘッドを搭載していました。通常多く搭載され
ているフェライトイレースヘッドは金属としての結晶密度が低くマイクログルーブ(微少な穴)ができてお
り,テープ走行時に摺動効果によって高域成分における残留磁束の自己減磁が発生してしまうという
弱点がありました。センダストは結晶密度が高いため,そのような問題が起きませんが,消去バイアス
に210kHzといったハイバイアスを使うとヘッド自体の発熱量が高くなり,テープにダメージを与えると
いう問題が起きてしまいます。KX-9050Sのセラミックガード付きセンダストイレースヘッドは,消去
効率が高くギャップ間のうず電流損失をなくす非磁性体部を持つ三相構造のコアのため,発熱量は
ダブルギャップフェライトヘッド並に抑えられ,この結果,センダストイレースヘッドでの210kHz消去バ
イアスシステムと高効率消去が可能となっていました。

振動対策もしっかりとられ,1.6mm厚鋼板シャーシの採用に加え,ツインビーム構造のPCボードベー
スや同じく1.6mm厚のパネルサブフレーム,1.2mm厚の背面パネルなども採用されていました。ま
た,動作基点であるメカニズムをセンターレイアウトにすることで理想的な荷重配分と電源レイアウトを
実現していました。

フルカセットスタビライザー

カセットハーフの捩れや振動を抑えて装着精度を高め,不要振動を抑圧する全面タイプのカセットスタ
ビライザーを搭載していました。ハーフ装着面には徹底的な比較試聴にもとづき,通常用いられる樹脂
系振動吸収素材ではなく,純毛フェルト素材の制振材を装備していました。

KX-9050Sの最大の特徴ともいえるのがドルビーNR Sタイプの搭載でした。ドルビーSタイプは,プロ
用に開発されたドルビーSRをカセットデッキ用にアレンジしたもので,従来のドルビーCタイプよりNR効
果が大きく,高域から低域にいたる全域に渡るほか,ブリージング等の動的副作用が小さく,多くのカセ
ットデッキに搭載されているドルビーBタイプともある程度の互換性があり,再生が可能というメリットをも
つというものでした。KX-9050Sでは,従来型のドルビーBタイプ,Cタイプも搭載され,互換性もさらに
確保されていました。
また,再生イコライザーの聴感上のノイズを低減するために初段Bi-FET方式と,S/N劣化のない新トリ
ム調整機能が採用されていました。S-NR基板は外乱ノイズを抑えるグランドプレーン構造が採用され
基板内の信号経路を最短化して,当時最小のS-NR基板を実現していました。
CDからの録音に対応したCDダイレクトインも装備していました。CDダイレクトインは,CDの2V固定に
合わせてバランス・録音レベルをパスし,直接ドルビーICまで信号を入力するもので,接点抵抗を減らし
音質の向上を図っていました。

バイアスとテープ感度を自動調整するオートチューニング機構A.T.C.S.が搭載されていました。A.T.C.S.
は,400Hzと10kHzでバイアスレベルを,10kHzでテープ感度を調整するようになっており,テープポジ
ション別にメモリーするバイアスプリセット機能をもっていました。バイアス値は設定値から±3段階シフト
できるバイアス・ファイン・アジャストも搭載されていました。

以上のように,KX-9050Sは,オーソドックスに煮詰められた中級機で,KX-880シリーズ以来,音の良
さで定評のあるケンウッドらしい1台でした。ケンウッドとして初めてのドルビーSタイプ搭載機であり,同社
の本格的な音質重視型のデッキとしては最後の1台でもありました。また,ドルビーSタイプを搭載していな
いKX-9050(¥74,800)もラインナップされていました。


以下に,当時のカタログの一部をご紹介します。



ドルビーS搭載。音の純度を極めた,
最高級カセットデッキ。

 ◎ 新開発コアつき周対向型ダイレクトドライブキャプスタン
  3モータークローズドループメカニズム
 ◎PC-OCCアモルファスアロイ3ヘッド+
  セラミックガードつきセンダストイレースヘッド
 ◎ヘッドのアジマスずれを防止
  真鍮ボス+t1.6mm厚鋼板構成のヘッドブロックベース
 ◎高剛性筐体構造+センターレイアウトメカニズム
 ◎カセットハーフ全体の振動を抑える
  フルカセットスタビライザー
 ◎高音質録音を実現する
  A.T.C.S.&バイアス・ファイン・アジャスト
 ◎ハイクオリティ録音が可能なCDダイレクトイン

 ●デュアルFLメーター
 ●4電源供給巻線分離±電源トランス部
 ●パワーローディングシステム
 ●16キーフルファンクションリモコン付属
 ●ディスプレイ全消灯をふくむ2段階ディスプレイオフスイッチ




●KX-9050S/KX-9050一般定格●

トラック形式 ステレオ
録音形式 交流バイアス(ハイバイアス210kHz)
ヘッド 録音(アモルファスアロイヘッド)×1(コンビネーション)
再生(アモルファスアロイヘッド)×1(コンビネーション)
消去(セラミックガード付ダブルギャップセンダストチップフェライト)×1
モーター キャプスタン駆動モーター×1 
リール駆動モーター×1 
メカアシスト×1
ローディング×1
ワウ・フラッター 0.024%(WRMS)
早巻時間 約75秒(C−60)
周波数特性 メタルテープ   20〜22,000Hz ±3dB
ひずみ率 0.7%(1kHz,3次高調波ひずみ率,メタルテープ)
SN比 59dB(Dolby NROFF)  
67dB(Dolby NR B)
75dB(Dolby NR C)
80dB(Dolby NR S:KX-9050S)
入力端子 ライン 77.5mV(入力インピーダンス50kΩ)
CD DIRECT 460mV(入力インピーダンス10kΩ)
出力端子 ライン 490mV(出力インピーダンス1kΩ) 
ヘッドフォン 2.3mW(出力負荷インピーダンス8Ω) 
電源電圧・電源周波数 100V AC 50Hz/60Hz
消費電力 KX-9050S/26W,KX-9050/23W
最大外形寸法 幅440×高さ138×奥行328mm
重量 KX-9050S/7.5kg,KX-9050/7.3kg

※本ページに掲載したKX-9050Sの写真,仕様表等は1992年3月
 のKENWOODのカタログより抜粋したもので,ケンウッド株式会社
 に著作権があります。したがって,これらの写真等を無断で転載・引
 用等することは法律で禁じられていますのでご注意ください。

   
 
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