Nakamichi700の写真
Nakamichi700
3HEAD CASSETTE SYSTEM ¥185,000

1973年に中道研究所が発売したカセットデッキ。同年に発売された1000に続いて発売された
モデルで,1000に準ずる高度な内容を持ちながら,1000とはまた異なった個性を持つスマート
な外観をもった高性能デッキでした。

700の最大の特徴は,世界で初めて3ヘッド化を実現した1000の技術を引き継ぎ,同じく3ヘッド
メカニズムを搭載していたことでした。700は,1000同様にナカミチ独自の「完全3ヘッド方式」で,
いわゆるコンビネーション録再ヘッドではありませんでした。カセットハーフの開口部をうまく利用し
て再生ヘッドを中央に,録音ヘッドを小さな窓から,入れる構造とすることで,完全に独立した3ヘッ
ド構成を実現していました。早くから磁気ヘッドを自社生産していたナカミチは,3ヘッドカセットデッ
キ用にヘッドを開発し,録音にはワイドギャップ(5μ)のフェライトヘッド,再生には,ナローギャップ
(0.7μ)のクリスタルパーマロイヘッドを搭載していました。また,消去ヘッドにはフェライトヘッドを
搭載していました。3ヘッド化によって,カセットテープでは他に見られない録音中の同時再生モニ
ターが可能となっていました。

700のヘッド部700のメカニズム部

700は,3ヘッド化によって35〜20,000Hz±4dBというすぐれた周波数特性を実現していました
が,さらに完璧を期すために,後のナカミチのデッキの特徴でもあった,アジマス調整機構をすでに
備えていました。400Hzのテストトーンを使って「アライメント・ビーコン」の2つのLEDが交互に点滅
するように調整すると録音ヘッドのアジマスを再生ヘッドに正確に合わせられる仕組みになっていま
した。テストトーン,アジマス等の調整部は,カセットリッド右のリッドを開けると現れるようになってい
ました。また,このリッド内には,約±6%(半音)のピッチコントロールも備えられていました。

走行系も,驚異的な高精度を実現し,ワウ・フラッター0.06%以下(WRMS)を実現していました。
カセットテープの寸法上,限界にまで大きく重くしたスタガー方式のフライホイールを搭載し,テープ
テンションを常に一定に保つクローズドループデュアルキャプスタン方式を採用していました。また,
フライホイールと軸受けは精密加工により一体化され,キャプスタンモーターには,パルスコントロー
ル方式のDCサーボモーターが搭載されていました。カセットテープデッキとして,1000同様に当時
の技術水準を遙かに超えた限界ともいえる高度なメカニズムが投入されていました。ナカミチがコン
ピューター用デジタルカセットメカニズムの生産で積み上げてきた高い技術が生かされていました。
1000とは異なり,カセットリッドの向きが縦向きで,走行系も縦方向になっていました。そのため,
カセットテープを横から入れるユニークな形をとり,カセットリッドを閉じると平らなシルバーの面が広
がるというシンプルながら美しいデザインは,高性能と高度なメカニズムを前面に出したデザインの
1000とは違った魅力をもっていました。

テープ走行の操作系は,この時代にすでにICロジックコントロールを搭載し,各部の動作タイミング
のコントロール,信号のミューティングとの連動などにより,ボタンの軽い動作で再生,早送り,巻き
戻しのダイレクトでスムーズな切替え,安全でノイズのない動作が実現していました。

ノイズリダクションとしては,ドルビー(Bタイプ)を搭載し,10dB(10kHz)のノイズ低減効果が得られ
るようになっていました。また,後部パネルにレコード・レベルキャリブレーションのツマミがあり,400
Hzの内蔵テストトーンを使って,EX,SXそれぞれテープポジションごとにL・R独立で録音・再生レベ
ルを調整することができるようになっており,ドルビーNRによる自己録再における完全な動作を実現
していました。
入力端子は豊富に備えられ,上面パネルにRCAピンのLINE端子の他にDINの入出力端子,DINの
マイク端子,L・Rのマイク端子,BLEND(MONO)のマイク端子がついていました。LINE入力,L・R
のマイク入力,BLENDマイク入力はそれぞれ独立してレベルコントロールが備えられていました。

以上のように,700は,ナカミチのシンボルともいえるカセットデッキ1000に準じた高度な内容を持つ
高性能デッキで,カセットデッキらしからぬシンプルで機能的な外観と優れた性能を両立させたもう一つ
の名機でした。


以下に,当時のカタログの一部をご紹介します。



魅力あるオーディオ機器とは,
永遠の美しさと性能を,
両立させているものだと思います。



●主な規格●

電源 100V 50/60Hz
消費電力 最大60W
テープ速度 4.8cm/秒
ワウ・フラッター 0.06%以下・WRMS
周波数特性 35〜20,000Hz±4dB(SX,EXUテープ)
総合S/N比 65dB以上(ドルビーNRin,WRMS,CCITT,400Hz,3%歪)
総合歪率 1.5%以下(1kHz,0dB)
消去率 60dB以上(1kHz,飽和レベル)
チャンネルセパレーション 35dB以上(1kHz,0dB)
クロストーク
60dB以上(1kHz,0dB)
バイアス周波数 105kHz
トランジスター 115
ダイオード 51
IC
入力 (マイク)0.5mV 600Ω
(ブレンドマイク)0.5mV 600Ω
(ライン)100mV 100kΩ
(DIN)25mV 26kΩ
出力 (ライン)1.0V
(ヘッドホン)1mW/8Ω
寸法 520(巾)×267(高さ)×130(奥行)mm
重量 約12.5kg


Nakamichi700Uの写真
Nakamichi700 U
3HEAD CASSETTE SYSTEM ¥210,000

1977年に中道研究所は,700を700Uへとモデルチェンジを行いました。4年間の技術の蓄積が
投入され,改良が施されていました。

再生ヘッドには,新たに0.9μのナローギャップのSR(Stable Responce)ヘッドが搭載されてい
ました。このヘッドは,ニッケル,ニオブ,タンタルを含有したパーマロイによるヘッドで,高い加工精
度等により,音質に優れるが耐摩耗性に劣るというパーマロイヘッドを摩耗しても周波数特性の変化
や位相のずれを起こさず,初期性能が長期にわたって維持されるようにし,通常のパーマロイヘッド
の3倍以上の寿命を実現したものでした。
録音ヘッドには,新開発のクリスタルフェライトヘッドが搭載されていました。このヘッドは,製造法上
の改良により加工歪みを取り除き,極めて狭い範囲に強く磁界をフォーカスしたもので,高周波歪み
も少なく,105kHzという高いバイアス周波数にも耐え,良好な高域特性を実現するものでした。
消去ヘッドにも,クリスタルフェライトヘッドが搭載されていました。内部損失が小さいため,消去効率
が高く温度変化の少ない消去ヘッドとなっていました。

Nakamaichi700のヘッド部

キャプスタン系とリール駆動系を独立させた2モーター方式は受け継がれ,さらに,キャプスタン用モー
ターは,新たに光学周波数制御方式が採用されていました。回転を検出する周波数ジェネレーターに
それまでは磁気検出方式が採用されていましたが,より細かなパルスとして制御精度を高めるために
モーターシャフトにスリットの付いた円盤を装着し,光学ビームの遮断数をフォトダイオードで読み取る
光学検出方式を採用することで,パルス数は50パルスから一気に120パルスに増え,高い制御精度
により,ワウ・フラッター0.05%Wrmsを実現していました。
また,700Uでは,音質への影響の大きいフラッター成分(7Hz以上の回転ムラ)をより低減するため
に,回転系の重要な部分をゴムによってフローティングさせてシャーシとの共振を抑えるなどの対策も
とられていました。

ヘッドをカセットハーフ開口部にインサートさせるメカニズムには,ヘッドに無理な力がかかったり,テー
プのテンションに異常を起こしたりしないために,シリンダーを使用したエアダンパーが新たに採用され,
テープとヘッドの接触が静かに行われるようになっていました。
テープ走行系のコントロールボタンは,ICロジック方式をさらに進め,指で軽く触れるだけでコントロール
が行われるタッチスイッチが新たに採用され,誤動作と長期間の摩耗によるトラブルを防ぎ,より敏速で
安全なファンクション動作が実現していました。

録音・再生アンプ系は,700発売以来,超低歪みのパワーアンプ620等の単体アンプ開発の技術も投
入され,新たに位相補正回路も搭載されるなど,より高性能化が図られていました。マイクアンプも,新
たに感度0.2mV,最大許容入力1.5Vという130dBものオペレーションレンジを持つマイクアンプが
搭載されていました。ヘッドホンアンプも,定格40mW,最大300mWに出力がアップされたものが搭載
されていました。

ナカミチは,レベルメーターとして,1000以来,応答速度の早いピークレベルメーターが搭載してきまし
たが,700Uでは,ピークスケールを1000や700の最大+5dBから+10dBとして,ワイドスケール化
していました。

以上のように,700Uは,700をベースに各部に改良,強化が図られ,より高性能で完成度の高いカセ
ットデッキとして生まれ変わっていました。その性能は,当時のカセットデッキの水準を大きく超えたもの
でした。


以下に,当時のカタログの一部を御所介します。



美しさと
高い性能との貴重な出会い
時を超えた生命です。


◎ 新開発SR(Stable Responce)
 ヘッドを採用した完全3ヘッド構成

 ●妥協をすてて特性を追求すれば
  当然3ヘッド方式に行きつきます。
 ●3ヘッドカセットデッキは
  いまだに数えるほどしかありません。
  理由があります。
 ●音の良いパーマロイに
  3倍の長寿命がそなわりました。
  SR再生ヘッド。
 ●録音ヘッドには
  新開発クリスタルフェライトヘッドを採用。
 ●消去ヘッドにも
  クリスタルフェライトヘッドを採用。
 ●同時録音モニターができます。
 ●ヘッドにやさしいソフトインサート,
  スムーズなカセットテープのソフトイジェクト。
 ●超大型フライホイールにより
  安定した回転。
 ●駆動/高速走行2つの専用モーターで
  メカニズムを簡素化。信頼性を高めました。
 ●ワウフラッター0.05%Wrmsを生んだ
  光学周波数制御方式。
 ●専用FF/RWDモーターで
  巻取り巻戻し50秒以内に完了(C-60)
 ●高いテープ走行精度と高音質を生む
  クローズドループ・ダブル
  キャプスタンシステム。
 ●2つのピンチローラーでテープを駆動。
 ●テープテンションの最適値を
  いつも安定に保ちます。
 ●ふたつのキャプスタンが
  テープ外乱をシャットアウトしています。
 ●変調ノイズも少なくなっています。
 ●フラッターの低減達成が音質を向上
  させました。

◎アライメントビーコンが,カセット
  ハーフの成形歪も克服します。

  ●ヘッドの垂直ズレが,高域特性の劣化や
   位相ズレを生みます。
  ●垂直ズレを信号の位相差として検出,
   ふたつのLEDで表示。

◎敏速なファンクション動作を
  実現したフールプルーフ
  ICロジックコントロール。

  ●触れるだけで動作する
   タッチコントロールに変わりました。
  ●テープ側要因による巻き込みトラブルが
   あっても0.2秒後にストップ。
  ●テープスタートメモリーを備えています。
  ●フルリモートコントロールもできます。
  ●Nakamichiは
   カセットデッキのアンプブロックも,
   プリメインと同じように大切と考えています。
  ●ヘッドもアンプの素子として
   とらえています。
  ●オペレーションレンジ130dBの
   マイクアンプ。
  ●ヘッドホンアンプは出力40mWに

◎位相補正回路を採用し,すべて
  の帯域で位相ズレを抑えました。
◎録音用/再生用それぞれ独立,効
  率が良く,正確なドルビーノイズリ
  ダクションシステム。

  ●録ったらその場でドルビーシステムの
   かかり具合が確認できます。
  ●効率が良く
   音の変わらないドルビーシステムです。

◎−40dB〜+10dBのワイドスケー
  ル,ピークレベルメーター。

  ●Nakamichiのカセットデッキには
   全機種ピークレベルメーターがついています。
  ●ピークスケール+5dBから+10dBへ。
   700Uの改良点のひとつです。
  ●MPXフィルター

◎2ポジション・バイアス,イコライザー
  独立テープセレクター

  ●再生イコライザーによる高域補償量をおさ
   え,歪の発生をふせいでいます。
  ●テープの種類に応じて
   効果的な使いわけができます。

◎400Hz 0dBトーンで,正確
  なドルビーレベル調整ができます。
◎ブレンドマイク入力により,5チャ
  ンネル3元ミキシングが可能。

  ●これもNakamichiカセットデッキ全機種を
   貫くポリシーです。




●Nakamichi700U規格●

電源電圧 100,117,220,240V 50/60Hz
消費電力 最大60W
テープ速度 4.8cm/秒
ワウ・フラッター 0.05%以下・WRMS
周波数特性 35〜20,000Hz±3dB(ドルビーシステムイン,SX,EXUテープ)
総合S/N比 65dB以上(ドルビーシステムイン,Wrms,400Hz,3%歪)
総合歪率 1.5%以下(400Hz,0dB)
消去率 60dB以上(1kHz,飽和レベル)
チャンネルセパレーション 35dB以上(1kHz,0dB)
クロストーク
60dB以上(1kHz,0dB)
バイアス周波数 105kHz
トランジスター 138
ダイオード 54
IC
入力 (マイク)0.2mV 10kΩ
(ブレンドマイク)0.2mV 10kΩ
(DINマイク)0.2mV 10kΩ
(ライン)50mV 50kΩ
出力 (ライン)1.0V
(ヘッドホン)40mW/8Ω(1kHz,0dB)
寸法 520(巾)×267(高さ)×130(奥行)mm
重量 約13kg


※本ページに掲載した700,700Uの写真,仕様表等は1976年
 10月,1977年11月のNakamichiのカタログより抜粋したもの
 で,ナカミチ株式会社に著作権が あります。したがって,これらの
 写真等を無断で転載・引用等することは法律で禁じられています
 のでご注意ください。

   
 
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