LUXMAN PD300
VACUUM DISC STABILIZERTURNTABLE ¥163,000
1980年に,ラックスが発売したターンテーブルシステム。ラックスは,アンプのブランドとして定評があり,アナログプ
レーヤ,テープデッキなどのメカニズム系の機器についてはあまりメジャーではありませんでした。しかし,アナログプ
レーヤーに関しても,1975年には,すでにDD方式のプレーヤーPD121,PD131を発売するなど,機種数は少な
いものの,しっかりした作りの魅力的なプレーヤーを出していました。そうした中,1980年代に入り,ディスク吸着シ
ステムを搭載したプレーヤーとして,超高級機PD555と本機PD300を発売し,新たに注目を集めることとなりました
PD300の最大の特徴は,「バキュアム・ディスク・スタビライザ」と称する,ディスク吸着システムを搭載していたこと
でした。1980年代に入り,ビクター,マイクロなどが吸着システムを搭載したプレーヤーを,オーディオテクニカは吸
着システム内蔵のターンテーブルシートを発売するなど,この時期,ターンテーブルとディスクを一体化して,ディスク
の不要な共振やディスクのソリ等による弊害を抑えるディスク吸着システムが流行をみせていました。そうした中で
もラックスは,早くからディスク吸着システムに取り組んでいたブランドでした。PD300は,国産プレーヤーシステム
あるいはターンテーブルとしては,ディスク吸着システム初搭載の1台でした。

ディスク吸着システムは,もともとアナログディスクの原盤を作成するカッティングマシンに搭載されていた技術で,モー
ターを使用したポンプで空気を吸い続けて吸着状態を保持する方式が一般的でした。しかし,この方式では,そのため
のノイズや振動が伴う恐れがあり,そのままでは採用が難しいものでした。そのため,上述のように各メーカーが民生
用プレーヤーシステムに搭載するにあたっては,ディスクの演奏前に吸着して,その後吸着状態を維持するという方式
がほとんどでした。PD300でもこうした方式で,ターンテーブル面にシーリング・パッドが設けられ,LPレコードの音溝
の外周部と内周部にあたる部分にあるシーリング・パッドが,音溝部分がターンテーブルに密着すると,柔軟にレコード
に密着して密閉状態を作り出し,吸着動作を停止しても吸着状態を維持できる仕組みになっていました。
PD300では,吸着するための真空ポンプは,ふいごの原理を応用したシンプルで堅固なメカニズムとなっており,確実
な吸着動作の原動力となっていました。一方ターンテーブルには,表面に空気吸引経路として2本の溝と吸入口が設け
られ,内部には空気通路が設けられており,チューブでポンプと接続されていました。これらの吸着システムによって音
溝部分に与えられる圧力を重力換算すると約50kgのスタビライザを乗せたことと同等になるというもので,通常のおもり
式スタビライザやプレーヤーマットによるものと比較しても,大きなスタビライザ効果が実現されていました。
吸着−解除の操作は,キャビネット前面に設けられた吸着レバーをワン・タッチで操作するだけで可能でした。通常位置
は水平で,これを縦位置に起こすだけで吸着動作が行われるようになっていました。このとき,規定の吸着状態が得ら
れると,レバー横のインジケーターが,燈から青に切り替わって表示するようになっていました。このインジケーターは,レ
コードとターンテーブルの間の真空度を検知して正確に表示する仕組みになっていました。
ターンテーブルの駆動には,ベルトドライブ方式が採用されていました。これは,吸着システムによりディスクの有害共振
を追放するという設計思想から,不要振動の原因となるモーターをカートリッジの軌道から遠ざけ,振動とフラックスの影
響を避けようとしたものでした。また,モーター自体も,ブラシ&スロットレスの高性能DCモーターを搭載し,10倍速回転
という低速回転で使用することで,振動を抑えていました。さらに直径30cm,重量は3.5kgという高精度なアルミダイ
キャスト製ターンテーブルは,500kg・cmという大きな慣性質量が確保され,鳴りを追放した構造がとられていました。
重量級ターンテーブルを支える軸受部には,堅固な素材と構造が採用されていました。シャフトはステンレスを素材として
10mm径とし,超硬鉄の軸受けボールで受け,さらにこれを真鍮による大型軸受けでしっかり支え,直径36mmの大型ナ
ットでシャーシに固定されていました。これらのしっかりした素材と構造により,重量級ターンテーブルの慣性エネルギー
による安定した滑らかな回転が実現されていました。
ターンテーブルの手前にはストロボスコープが設けられていました。このストロボスコープは,ターンテーブル裏面に刻ま
れたパターンを,内蔵のクォーツ発振器による点滅光で表示するもので,正確な表示が可能となっていました。調整用
ツマミはキャビネット下部に設けられており,33rpm,45rpmとも独立して調整できるようになっていました。
さらに,不要振動や共振を抑えるために,軸受け部からトーンアームまでの一体構造化が図られていました。まず,堅
固な軸受け部とアームベース取付部をメイン・シャーシとして一体構造にし,アルミダイキャストで剛体成型し,重量級
のアームベースも6本のボルトでがっちりと一体化していました。これに,トーンアームを取り付け,ターンテーブルを乗
せるとPD300の骨格ができあがり,この一体構造化により,吸着システムとあいまって,レコード盤→ターンテーブル
→トーンアームの再生系のループの中から不要振動の発生源を追放していました。

また,外部振動に対しては,二重のインシュレーターを設けた「ダブル・インシュレーション方式」が採用されていました。
ターンテーブルとアームベースを一体化したメインシャーシと十分に堅牢で重量のあるキャビネットとの間に3個のメイン
インシュレーターが設けられ,さらにキャビネットの脚部には大型のサブ・インシュレーター4個が設けられていました。
メイン・インシュレーターは,3ヶ所で一体構造の再生系をキャビネットから吊り下げると同時にダンプする働きをしていま
した。特殊ゴムでシャフトを支えて微小振動をカットし,あわせてシリコングリスの粘性制動とスプリングの組み合わせで
大振幅振動を遮断する,ラックス独自の2段階制動方式が採用されていました。また,このメインインシュレーターはター
ンテーブルの水平バランス調整ができるようになっていました。
サブ・インシュレーターは,キャビネット4隅の脚部に設けられ,プレーヤー全体を支えると同時に,置き台からダンプする
働きをしていました。天然上質ゴムを主体とした大型のものを採用していました。また,プレーヤー全体の水平バランスを
調整するための高さ調整が可能となっていました。
PD300は,アームレスのターンテーブルシステムであるため,様々な単売されているトーンアームを取り付けられるよう
に,各社のトーンアームに対応した着脱式のアームベースが用意されていました。このアームベースは,8mm厚のアル
ミ削り出しの重量級のもので,6本のボルトでしっかりと固定されるようになっていました。4種類のアームベースにより
当時市販されていたほとんどのトーンアームに対応できるものでした。
さらに,このアームベースは,アームの取り付け穴が中心を外れた位置に設けられており,アームベースを取り付け時
に向きを回して変えることにより,アームのオーバーハング調整が容易にできるように工夫されていました。そのために
メイン・シャーシのアームベース取り付け部のボルトを通す穴も余裕を持たせた形状にされており,取り付け時に微調整
してオーバーハングを調整できるようになっていました。
そして,PD300には,ACコンセントの電源の極性が音質に与える影響を考慮して,極性を検知できるライン・フェーズ
センサが備えられているのも特徴でした。
以上のように,PD300は,ラックスらしい音へのこだわりやアマチュアライクとも言えるようなこだわった作りなど,アナロ
グプレーヤーの分野では,まだまだ定評の得られていなかったラックスならではのユニークな1台でした。ラックスはこれ
以降も,PD310,PD350など吸着システムを搭載したプレーヤーシステムを作っていくこととなりました。


以下に,当時のカタログの一部をご紹介します。



極められた基本性能を出発点として,
はるかな高みに到着
バキュアム・ディスク・スタビライザ内蔵。

”無共振プレーヤ”誕生!
・・・プレーヤによる録音情報の再生に,新しい次元。


VACUAM DISC
STABILIZER

レコード盤とターンテーブルを吸着一体化。
バキュアム・ディスク・スタビライザ
レコード盤のソリや共振による
再生音の変調を
完璧に追放しました。

◎吸着システムは,レコード再生のひとつの究極
◎簡単な操作で確実な動作の吸着システム内蔵

●真空ポンプには,ふいごを応用した
 シンプルで堅固なメカニズムを採用。
●吸着レバーにより,操作は手軽。
 吸着状態はインジケータで確認可能。
●いったん吸着すると,レコード演奏中は,吸着
 状態を保持。ノイズも振動も皆無です。

◎静粛で,精度の高い回転系
●吸着効果を高めるハイ・イナーシャ・ターン
 テーブルとベルト・ドライブの組み合わせ
●堅固な構造の大型軸受により,
 重量級ターンテーブルを支持。


UNIFIED
STRUCTURE

軸受け部からアームベース取付部まで
共振を排除した一体構造に。
さらに,ダブル・インシュレーションで
外部からの振動を
遮断しました。

◎”無共振構造”とダブル・インシュレーション
●軸受け部からアームベース取付部までを
 アルミ・ダイキャストで一体構造に。
●ダブル・インシュレーション方式を
 採用して,外部振動を完璧に遮断。

◎効果的なインシュレータ

◎正確な動作・緻密な操作感の付属機能
●回転微調整
●オーバーハング調整
●重量級アームベース
●ライン・フェーズ・センサ




●SPECIFICATIONS●


■フォノモーター部■

駆動方式 ベルトドライブ方式
モータ ブラシ&スロットレスDCサーボモータ
ターンテーブル 30cmアルミダイキャスト製 重量3.5kg
慣性モーメント 500kg・cm
回転数 33rpm,45rpm 2スピード切替式
速度微調整範囲 ±3.0%(33,45 独立調整式)
SN比 60dB以上
ワウ&フラッタ 0.03%以下(W.R.M.S.)
起動時間 3秒以下(33rpmのとき約3/4回転以内)



■電源・その他■

電源 AC100V 50Hz/60Hz
消費電力 15W
外形寸法 490W×200H×390Dmm
重量 18kg

※本ページに掲載したPD300の写真・仕様表等は1981年2月の
LUXMANのカタログより抜粋したもので,ラックス株式会社に著作
権があります。したがって,これらの写真等を無断で転載,引用等を
することは法律で禁じられていますので,ご注意ください。

 
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