marantz PM-15
INTEGRATED AMPLIFIER ¥450,000
1993年に,マランツが発売したプリメインアンプ。マランツは,1953年にアメリカで生まれたオーディオブランドです
が,資金難から1964年にスーパースコープ社に買収され,1968年には,日本のスタンダード工業がスーパースコー
プ社と提携することとなり,マランツブランドのオーディオ機器の設計・製造も担当するようになって,1975年より社名
も日本マランツとなりました。1980年には,スーパースコープ社からオランダフィリップス社にマランツブランドが売却
され,日本マランツもフィリップス傘下に入ることとなりました。
1970年代から1980年代半ばまでは,アメリカ生まれのマランツブランドをイメージさせるアメリカンなデザイン,伝統
的な左右対称のデザインのプリメインアンプを発売していましたが,1980年代後半から,PM-95,PM-80など,フィ
リップスブランドの影響も感じさせるヨーロピアンな落ち着いたデザインのプリメインアンプに移行していきました。こうし
たシリーズは,1993年のPM-99SE NMで一つの頂点に達し,それをこえる最上級機として発売された超弩級機とも
いえるプリメインアンプがPM-15でした。

マランツは,1970年代,スーパースコープ社との提携のもと,ラジカセも含む比較的手頃な価格帯のオーディオ機器を
大々的に展開し,オーディオブランドとしてのイメージは薄くなってしまっていました。そうした中,1979年頃「ESOTEC
(イソテック)シリーズ」を立ち上げ,本格的オーディオブランドへの回帰を図っていきました。そうした中,プリメインアンプ
でもPM-6,PM-4など,純A級とAB級動作をスイッチで切り換えられる動作切り換えのアンプを発売し,1981年には
PM-6aで約1/4出力時まではA級動作を維持し,それを越えると自動的にAB級動作に切り替わる「クォーターA」方式
を開発・採用し,その後ベストセラーモデルPM-80などにも展開し,高評価を得ていました。こうした純A級へのこだわり
を見せていたマランツでしたが,PM-15では,AB級であってもA級に匹敵する音質が実現できるということから,あえて
AB級一本に絞った設計が採用されていました。



PM-15のパワー部は、AB級動作とすることでより効率の良い電圧増幅を可能とし,大型電源回路とあわせて,低イン
ピーダンスのスピーカーをも余裕を持ってドライブできるものとしていました。PM-80a,PM-99SEといったモデルでは
パワーMOS FETの出力段を搭載していましたが,PM-15では,Pc=200Wという他に類を見ないような高周波用の
大型のバイポーラトランジスタを2パラレルプッシュプルで採用していました。これにより,きわめて強力な電流供給能力
を確保するとともに,多数のパワーディバイスを並列で使用した際に生じることがある各ディバイスの能力のバラツキの
悪影響も抑えられ,150W+150W(8Ω),250W+250W(4Ω)という大出力が実現されていました。さらに,A級/
AB級切換回路の削除に伴い,回路がより簡素化され,効率が良くクオリティの高いドライブが可能となっていました。



プリメインアンプの中で共存しているプリ部とパワー部の電気的干渉を排除するために,それぞれ完全に独立させたレ
イアウト構造をとり,両者の接続にはバランス方式を採用して外部からのノイズが与える音楽信号への悪影響を抑えて
いました。こうしてプリアンプ部のノイズ対策を徹底し,聴感上のS/Nを向上させていました。
ボリュームとして,PM-90で開発された,プリアンプのNFループにもボリュームを挿入することで,ボリュームを絞った
際のプリ部の残留ノイズが抑えられ,S/Nの劣化を防ぐ,4連アクティブボリュームが採用されていました。さらに,ボリュ
ーム部品として,音質的に定評のあったローインピーダンス仕様の抵抗体回転型ボリュームが搭載されていました。
フォノイコライザー部は,プッシュプル動作の本格的なローノイズアンプが搭載され,リアパネルのスイッチの切換でMM
MCの双方に対応していました。



PM-15のもう一つ大きな特徴として,高速電圧増幅モジュール「HDAM」を搭載していたことがありました。「HDAM」は
Hyper Dynamic Amplifier Moduleの略で,通常IC化されているオペアンプをディスクリート化したともいえるアンプモ
ジュールで,切手大ほどの銅ケースの中に,多層基板によるシールド構造がとられたアンプ回路が納められており,熱や
振動,電磁波からの影響を排除しつつ常に安定した性能が発揮できるというものでした。通常のオペアンプの約15~20
倍の速さを誇るスルーレイトとICのスペース効率,熱や振動に対する高い安定度を実現し,音質面でも密度感やスピード
感が上がるという効果がもたらされていました。この「HDMA」は,自社グループ内に通信機部門を持つマランツならでは
のもので,持ち前の多層基板技術,表面実装技術,ノイズ対策の技術などを生かした自社開発のモジュールでした。1992
年にプリメインアンプPM-99SE,CDプレーヤーCD-15に初搭載された技術で,その後同社のアンプ,CDプレーヤー等
に広く採用されていくようになりました。PM-15では,フォノイコライザーアンプ,バランスバッファアンプ,プリアンプ,パワー
アンプの各部に搭載されていました。



電源部は,大型のトロイダルトランスが搭載され,高周波ノイズ対策として銅メッキが施され,低箔倍率電解コンデンサーを
使用した低インピーダンスを実現する安定した電源部となっていました。さらに,ノイズ対策として,数100kHzから1MHz
付近の高周波ノイズを吸収し,濁りのない高音域と量感のある低域を実現するノイズキラーをパワー,プリ,コントロール部
それぞれに搭載していました。
筐体は,銅メッキが施された亜鉛ダイキャストシャーシをベースに,3mm厚の鋼板を使用した天板および底板,アルミ押し
出し材のフロントパネル,そして,アルミブロック削り出しの脚部で構成され,振動や高周波ノイズ対策等が徹底された高剛
性な筐体となっていました。入出力端子は,すべて削り出しで金メッキが施され,スピーカーターミナルは,大型タイプが搭載
されていました。

以上のように,PM-15は,マランツのプリメインアンプの最上級機として堂々たる筐体に収められた重量級アンプとして発
売され,内部は,マランツらしさあふれる正攻法の作りがなされていました。当時,各社が超弩級ともいえるプリメインアンプ
を発売し,競っていた中,マランツが満を持して発売したともいえる1台でした。パワーアンプを思わせるほどの高さ約20cm
にも及ぶ堂々たるフロントパネルは迫力を感じさせますが,底力のあるしっかりした音はセパレートアンプに迫るものがあり
ました。また,左右対称でツマミが少なくシンプル,フロントパネルのサイドにアールのついたそれまでとは異なるイメージの
デザインは,この後,マランツのアンプやCDプレーヤーなどの機器に受け継がれていくことになりました。その意味でも,同
社にとって一つの新しい流れの始まりになったエポックメーキングな機種であったと思います。


以下に,当時のカタログの一部をご紹介します。



聴感上のS/N,高い電流供給能力・・・。
マランツ・ブランドのアンプへの
こだわりを極めた,最上位モデル。

◎AB級回路に絞ったパワーブロック。
◎バランスドライブ方式採用のプリアンプ部。
◎高速電圧増幅モジュール「HDAM]を搭載。
◎安定した電源供給を行う電源部。
◎制振性を追求したシャーシ・コンストラクション。




●定格●

定格出力 150W×2(8Ω),190W×2(6Ω),250W×2(4Ω) 
全高調波歪率 0.008% 
周波数特性  10Hz~50kHz+0dB,-1dB 
SN比  111dB(HIGH LEVEL) 
消費電力  340W(電気用品取締法) 
最大外形寸法  454W×210H×467Dmm 
重量 31.0kg 
※本ページに掲載したPM-15の写真,仕様表等は,1993年10月
 のmarantzのカタログより抜粋したもので,株式会社D&Mホール
 ディングスに著作権があります。したがってこれらの写真等を無断
 で転載・引用等することは法律で禁じられていますのでご注意くだ
 さい。

 

★メニューにもどる
  
 
★プリメインアンプPART7のページにもどる

 
 

現在もご使用中の方,また,かつて使っていた方。あるいは,思い出や印象の
ある方そのほか,ご意見ご感想などをお寄せください。


メールはこちらへk-nisi@niji.or.jp
inserted by FC2 system