SONY
PS-X75
STEREO PLAYER SYSTEM ¥89,800(カートリッジ
レス)
1979年に,ソニーが発売したプレーヤーシステム。1978年に同社が発売した
PS-B80に初めて搭載さ
れた電子制御アーム「バイオトレーサー」の技術を受け継ぎ,価格を抑えつつ,完成度も高められたコスト
パフォーマンスの高いプレーヤーシステムでした。
PS-X75の最大の特徴は,上述の電子制御アーム「バイオトレーサー」を搭載していたことでした。「バイオ
トレーサー」は,あらゆる動作を電子的にコントロールするトーンアームで,当時の最新のIC技術やデジタル
技術の導入により,@低域共振周波数foのピークを従来に比べ,約8dB改善。A徹底したフロントオペレー
ションによる操作性の向上。B機械的なインサイドフォース・キャンセラー,カウンターウェイトの除去などによ
るシンプル化。が実現されていました。人間の動作と同じように自由度の高い大きい動作をすることから,生
体機能応用光学=バイオニクスの意味を示唆する「バイオトレーサー」と名付けられていました。
「バイオトレーサー」では,アームの垂直回転部と水平駆動部に,それぞれ速度センサーと位置検出センサー
そしてリニアモーターが設置され,2つのセンサーによって検出された信号がサーボアンプに送られ,そこから
リニアモーターに必要な電流を供給し,アームの動きをコントロールするようになっていました。
速度センサーは,アームの動きをスムーズにし,同時に共振やインサイドフォースなど,音響的な特性を改善
するために働き,位置検出センサーは,128ワード×4ビットのマイクロコンピューターと連動し,フルオート動
作やゼロバランス調整,針圧調整など,アームの操作を行うために働くようになっていました。ひとつの動作に
対して,通常数100回の論理判断が行われ,アーム位置,速度,各操作スイッチの状態が確認され,1/1000
秒以下のスピードで命令処理が行われるというものでした。
この「バイオトレーサー」により,音質面の効果として,低域の不要共振のピークを3dB以内に抑え,クロストーク
の改善を図ることができ,低音のしっかりした再生ができるということでした。また,速度型センサーであるため,
低い周波数ほど検出出力が小さくなり,フィードバック量が少なくなる,さらに,速度フィードバックをかけている
ため,振動が起こりにくく振動が発生しても直ちに制動されるなどの理由で,レコードのそりに強くなり,ハウリン
グも起こしにくくなるということでした。そして,1回転2回の周期と2Hz〜5Hzの改善が著しく行われるため,レコ
ードのわずかなソリによるワウ感が減り,聴感上の音質向上が図られるということでした。
操作性の上では,各種のオート化が図られていました。カートリッジを取り替えると自動的にゼロバランスがとれ,
ボリューム操作で針圧印加が簡単に行え,演奏中でも針圧の可変可能と従来にない操作性を実現していました。
また,インサイドフォースキャンセラーも針圧に合った適正値を自動的にかけてくれるようになっていました。
光電式のレコードサイズ自動検出によるオートリードイン,オートカット等,アームは前面操作のボタン一つでフル
オート動作し,ボタン操作によるキューイングも可能でした。
「バイオトレーサー」で制御されるアームそのものも,音質への影響がある部分共振を抑えるため,各コネクショ
ン部接合を強化してできる限りの一体化が進められた,しっかりとした作りとなっていました。アームパイプには,
剛性を大きく高めた特殊アルミ合金が使用され,アームパイプに起因する共振を大きく低減していました。さらに
有効長235mmのJ字型アームとして,通常のアルミパイプの約8倍の剛性が実現されていました。また,このア
ームパイプは,ネックシリンダーから軸受部まで一体構造としてより強度を高めていました。ヘッドシェルとトーン
アームの接合部であるネックシリンダー部には,シェルプラグの先端をクサビ効果による強い力でホールドし,
シェルプラグの根元を4方向からカッチリと締め付ける構造を採用し,ガタがほとんど生じないようになっていまし
た。アームの軸受部は,支点間の距離を長くとった1本のストレート軸で支える構造がとられ,軸受部に使用する
ボールベアリングの微妙な隙間から生じるガタによるアームの動作点の微妙なぶれも最小限に抑えられていまし
た。基本的には,
PS-X70のトー
ンアームをベースにしたもので,高級プレーヤー
PS-X9の基本構造を受け継
いだ,ソニー伝統のアーム構造でした。
ターンテーブルは,32cm口径のアルミダイキャスト製で,このターンテーブルを「リニアBSLモーター」で駆動し
ていました。「リニアBSLモーター」は,「ブラシ&スロットレス」と称するとおり,ブラシもスロットも必要としないシ
ンプルな構造で,コギング(トルクムラ)の原因となるスロットがないため,トルクムラがきわめて少なく,静かで
滑らかな回転が実現され,かつすぐれた信頼性,耐久性が確保されていました。
さらに,「マグネディスク検出方式」と「クリスタルロック」により,正確で高精度な回転を実現していました。「マグネ
ディスク検出方式」は,ミクロン単位以下のものを計測するソニーマグネスケールの高度な精密計測技術を使っ
たもので,回転面積が広範囲にとれるターンテーブルの外周の内壁に磁性体をコーティングし,512波の速度検
出信号を高密度に着磁して,曲面をもたせてターンテーブルとの位置関係を改善したマルチギャップヘッドで平均
値検出し,サーボ系に送り込むという高精度な速度検出方式でした。331/3rpm時に約284Hzという高い発生信
号周波数を持っているため,フラッター成分の中でも比較的高い周波数までサーボ補償が可能となっていました。
検出された速度信号は,周囲温度の変化や電源・電圧・周波数の変動にも影響を受けない水晶発振による正確
な基準信号と比較され,正確に位相制御される「クリスタルロックサーボ」により極めて正確な回転を実現していま
した。
キャビネットには,ソニーが開発した音響素材SBMC(ソニー・バルク・モールド・コンパウンド)が採用されていまし
た。SBMCは内部損失が大きく共振しにくく,さらに高剛性で収縮率が小さいため成形精度が高いなど優れた特徴
を持つ樹脂素材で,厚さ構造などを総合的に検討して,要所に補強を施し,部分共振を低減した剛性の高いフレー
ム構造としていました。また,ゲル状高粘弾性物質をゴムカップに充填し,振動のダンピング効果を高めた大型のイ
ンシュレーターを採用し,耐振性を高めていました。
以上のように,PS-X75は,中級機の前モデルPS-X70に,PS-B80で開発された「バイオトレーサー」を導入し完
成度を高めたともいえるような中級機でした。先進的な操作性と安定性の高いレコード演奏能力を持ち,音楽を聴く
道具として使いやすい1台でした。