Ｖｉｃｔｏｒ ＱＬ-Ｆ６
ＱＵＡＲＴＺ ＬＯＣＫ ＦＵＬＬ ＡＵＴＯ ＰＬＡＹＥＲ ＳＹＳＴＥＭ ￥６８，０００
１９７８年に，ビクターが発売したプレーヤーシステム。Ｆ６の名が示すように，マニュアル機のＱＬ-７Ｒ等とは系統の異
なるフルオートプレーヤーのシリーズの中の上級機にあたり，すっきりとシンプルな筐体の中に，すぐれた性能と機能
性を備えた１台でした。
アームには，フルオートプレーヤーでは，それまで例のないオイルダンプ・アームが搭載されていました。ビクター自慢
の，一点支持方式の感度とジンバルサポート方式をしのぐ安定性を追求したという「ニュー・ジンバル・サポート・トーン
アーム」をオイルダンプ化したもので，精密なオリジナルメカニズムで仕上げられていました。「ニュー・ジンバルサポー
ト方式」は，仮想一点支持構造で，４個のベアリングが仮想中心点から等距離に配置され，どの回転方向に対しても各
ベアリングにかかる力と回転角が等しく，一点支持と同様な性能が得られるという構造が特徴でした。
従来，マニュアル式の高級機や単体アームに採用される例が多かったオイルダンプアームは，オイルの粘性を活用する
ことで，カートリッジのコンプライアンスとアームの実効質量の関係で生じる低域共振のピークを制動してトレース性能や
耐ハウリング特性を高めることができるというメリットがあります。反面，取り扱いが難しく，難点もあり，また特殊な構造
上，システムプレーヤー，特にフルオートプレーヤーに採用するのは難しいものでした。
ＱＬ-Ｆ６のオイルダンプアームは，これらの様々な問題点を解決して搭載されていました。オイルは，最初から密閉式の
ギャップ内に封入され，補充や交換の必要もなく，傾けてもこぼれない構造となっていました。さらに，水平（Ｈ）軸と垂直
（Ｖ）軸のオイルギャップが独立しており，それぞれ単独で制動量が調整できるようになっていました。ＨＱコントロールノ
ブとＶＱコントロールノブを回して，針圧と同じ目盛りにセットすれば適度な制動量が得られ，また，個々のカートリッジに合
わせて微調整も可能となっていました。
このオイルダンプアームには，新開発のＮＲ（Ｎｏｎ Ｒｅｓｏｎａｎｃｅ）ヘッドシェルが装備されていました。ＮＲヘッドシェルは
コネクター部と一体加工された本体をカートリッジとフィンガープレートで上下から締め付けて全面剛体化した構造で，共
振を抑えていました。また，アーム本体も，パイプ内部の防振処理，チャッキング・ロック・ヘッドコネクターなど，不要共振
を防ぐきめ細かな対策が施されていました。また，このアームには，楕円針付きのＭＭ型カートリッジＺ-１ＥＢ型が付属し
ていました。
ターンテーブルの駆動には，最高級機ＴＴ-１０１に準じた構造のコアレスＤＣモーターが搭載され，鉄芯がないため本質的
に回転振動が少なく，しかも１．２ｋｇ・ｃｍの大トルクが確保されていました。さらに，全周積分検出方式の高精度なＦＧサー
ボによる回転数検出・制御が搭載され，クォーツロックがより精度を高めていました。クォーツロックには，位相比較回路だ
けでなく，モーターから検出した速度信号周波数を電圧に変換するＦ-Ｖ変換回路にもクォーツ信号を応用したダブル・サー
ボ・クォーツ回路が搭載され，クォーツロックの安定度が従来の約３０倍にも高められていました。
クォーツロックＯＦＦにすると，±６％のピッチコントロールが可能となっており，速度表示としてメーター方式が採用されてい
ました。このメーターは，クォーツロック時にはグリーン，ピッチコントロール時にはオレンジにメーター照明が変わるように
なっており，ＱＬ-Ｆ６のデザイン上の特徴にもなっていました。
スタート，リジェクト，スピード切換など，使用頻度の高い操作系は，キャビネットの前面に集中配置され，ソフトな操作感が
得られるようにオイルダンプ・フィーリングのピアノ・スイッチが採用されていました。リピートセレクター（１〜6回，∞切替可
能）やレコード・サイズ・セレクター等は，アームサイドの邪魔にならない位置に配置されていました。
キャビネットは，堅牢なアルミダイキャスト製で，ライトブロンズ調のスリムなデザインにまとめられていました。ボトムボード
には，新開発の重量級素材「スーパー・コンパウンドＴＹＰＥ１」が用いられ，強度が高められるとともに，重心を下げること
で耐ハウリング性を向上させていました。
以上のように，ＱＬ-Ｆ６はフルオートプレーヤーとして，すぐれた機能性をもちつつ，ターンテーブル，アームなどの基本部分
をしっかり作り上げた，完成度の高いプレーヤーシステムでした。比較的手頃な価格ながら，アナログプレーヤーの分野で
のビクターの伝統的な高い技術が生かされた1台だったと思います。
k-nisi@niji.or.jp