TEAC R-999X
Auto Reverse Stereo Cassette Deck ¥149,000
1984年にティアックが発売した高級カセットデッキ。同社のオートリバース機では恐らく最高峰のものでは
なかったかと思います。前年に発売されたアカイの高級リバース機GX−R99に刺激されたのか,3ヘッド機
で録再オートリバースを実現し,4モーターDDメカニズムでdbxまで搭載するなど,ティアックの執念が感じら
れたものでした。R-999Xのヘッドは,リボン化したアモルファスを13層ラミネート構造にしたCA(コバルトアモルファス)ヘッド
で,優れた磁気特性によって,優れたMOL特性やフラットな高域特性を実現し,高い耐摩耗性も持っていまし
た。3ヘッド化によって録音・再生にそれぞれ最適のギャップ幅を実現し,メタルテープ使用時には22kHz,ハ
イポジションテープでも21kHzまでの高域特性を得ていました。R-999Xでは,リバース化するにあたり,アカイのGX-R99同様にFWD,REVとも同一のヘッドを使用するヘ
ッド回転式のメカニズムを採用していました。当然,本来ミクロンオーダーの精度で固定すべきヘッドを回転させ
るわけですから,そのメカニズムには高度な技術が注がれていました。ティアックでは,このリバースメカニズム
をSuperA.R.H.S(Acculign Rotating Head System)と称していました。このSuperA.R.H.Sの特徴は,
(1) 回転部のヘッドホルダーと軸受け部に重量が軽くショック吸収性の高い高精度アルミダイカストを,ミクロ
ンオーダーで加工して使用。
(2) 世界で初めてシールドタイプの精密マイクロベアリングを2個使用し,ミクロン単位の驚異的回転精度を
実現し,ショックやゴミ,温度変化による初期特性の劣化を抑えている。
(3) 回転ヘッドのストッパー部には,ビッカース硬度1,800Hv,耐荷重24,000kg/cm2を誇る純度99.5
%のアルミナセラミックスを使用。極細ピッチのステンレスアジマススクリューとの組み合わせで,両
方向独立のアジマス微調整を実現。
(4) ティアック独自のヘッド・エレベーション・トリプルギアによってヘッドの高さ調整を可能にし,3次元的にヘ
ッドポジションを保持している。
などでしたが,以上のようなメカニズムにより,固定ヘッド式ワンウェイ機を凌駕するヘッド精度を実現していま
した。テープ端検出センサーには,赤外線とフォトトランジスターによる,I.R(赤外線)コンビネーション・テープ
センサーを採用して,クイックリバース機能を搭載していました。
回転系は,キャプスタンとリール,計4つの回転系を各々独立したDD(ダイレクトドライブ)DCサーボモーターによ
って駆動する4DDモーター駆動というシステムになっていました。ティアックの執念が感じられるこのシステムは
B.S.M(Bi-directuonal Symmetrical Mechanism)と称し,4DD化によって,FWD,REV両方向メカニズ
ムが完全なシンメトリカルになり,両方向全く同一の特性実現に近づきました。キャプスタンをドライブするブラシレ
スDCサーボモーターは,10極もの極数を持ち,重量級フライホイールと,1回転138パルスもの高精度全周平
均型FGサーボのはたらきで安定した走行を実現していました。また,2DDリールモーターにより,リールDDフル
テンションサーボを実現し,サプライ側のリールモーターの回転数をフォトセンサーによって検出し,リールモーター
のトルクを常に一定にサーボすることで,常に一定のバックテンションが得られ,確実なヘッドタッチをテープ全面に
わたって達成していました。消去ヘッド,ピンチローラーは両方向独立設置し,高精度,高強度の焼結ステンレスア
ームのシーソー運動によって一方の消去ヘッドのみを作動させ,走行系の余分な負荷を低減していました。これらの
高精度な4DD.B.S.Mシステムにより,ワウ・フラッター0.025%(WRMS)という回転精度を実現していました。
NRシステムは,ドルビーB,Cに加え,dbxを搭載し,110dBのダイナミックレンジと92dBのSN比を実現していまし
た。また,dbxには,dbxDISCポジションを装備し,当時発売されていたdbxレコードが聴ける機能も持っていました。
ドルビーB,Cも1チップLSI化し,部品点数を低減し,音質劣化を抑え,動作精度の向上を図っていました。アンプ系は,ダイレクトカップリング方式のオールDC構成アンプを搭載し,イコライザーアンプをはじめすべてのアンプ
に±2電源方式のDC構成アンプ回路を使用していました。また,REC部,PB部,NR部を各ブロック化し,センター
シャーシによりシステムコントロール部と電源部との分離をし,トランスを独立した専用シャーシに搭載するなど,各部
の相互干渉を排除する設計がなされていました。スイッチ類は誤操作防止のために再生系と録音系を分離し,REC,REC MUTE,PAUSEの各スイッチおよび,REC
レベル,NRセレクター,キャリブレーションレベル等をモーター駆動式のオート・グライド・パネル内に収納していました。
キャリブレーションとしては,L・R独立のBIASおよびLEVELの高精度なマニュアルキャリブレーションを装備していまし
た。メカニズム・コントロール系は,専用にプログラムされたLSIを2個搭載したマルチCPUコントロールで,リバースデッキな
らではの機能性を発揮していました。A・B面を通して両方向に最大15曲も頭出しができるCPS(Computomatic Pro
-gram Search),A面,B面の頭から何曲目という頭出しを行うCDS(Computomatic Direct Selection),再生中
に10秒以上の無信号部分があると自動的に早送りして次の曲から再スタートするブランクスキャン,任意の2点間を繰
り返し演奏する(AB両面にわたる2点間も可能)ブロックリピート,曲の頭だけを10秒ずつ再生していくイントロチェック,
など多彩な機能を持っていました。また,3ヘッドならではのTAPE,SOURCEのモニター切換は定速走行時には自動
的にTAPEに切り換るAUTOモニターを採用していました。以上のように,R-999Xはティアックの執念が感じられるリバース録再機の最高峰的存在でした。アカイのGX-R99と
並び,録再リバースデッキの限界を極めたデッキではなかったかと思います。デザイン的には決してあか抜けているとか
使いやすいとはいえませんでしたが,音の方はリバース機を感じさせない安定感のあるものでした。私にとっては印象的
なデッキの1台です。
以下に,当時のカタログに一部をご紹介します。
これほどまでに,テクノロジーと贅の
限りを尽くしたリバースデッキが,
かつて存在しただろうか。
◎世界初,CA(コバルト・アモルファス)
3ヘッドリバース。 |
◎リバースメカニズムの極致,SuperA.R.H.S
(Acculigh Rotating Head System) |
◎超弩級シンメトリカル・メカニズム
4D.D.(ダイレクト・ドライブ)DCサーボモーター。 |
◎クリアーサウンドの頂点。dbxNR搭載,
3NRシステム。 |
◎トータルなクオリティをアップする,
オールDC構成アンプ。 |
◎テープの可能性を存分に引き出す,
ダブル(BIAS,LEVEL)キャリブレーション。 |
◎リバースデッキの機能性を生かす,
マルチCPUコントロール。 |
◎カウンター・スキャンの精度を上げる,
アキュレイト・デュアル・スピード。 |
◎操作性とスタイリングを両立させた,
オート・グライド・パネル。 |
◎使い易さを秘めた,
4桁LEDマルチカウンター。 |
●MODEL R-999X SPECIFICATIONS●
トラック形式 | 4トラック・2チャンネル・ステレオ |
ヘッド構成 | 録音(コバルト・アモルファス)×1,再生(コバルト・アモルファス)×1:コンビネーションヘッド
消去(ダブルギャップフェライト)×2 |
使用テープ | C−60,C−90タイプ |
テープ速度 | 4.8cm/S |
モーター構成 | キャプスタン用:ブラシレスDCサーボ,DD×2
リール用 :コアレスDCサーボ,DD×2 メカニズム駆動用:DC×1 グライドパネル作動用:DC×1 |
ワウ・フラッター | 0.025%以下(WRMS),±0.05%W.Peak(EIAJ) |
早巻時間 | 約70秒(C−60テープ) |
総合周波数特性 | 20Hz〜22kHz(25Hz〜21kHz ±3dB EIAJ):メタル
20Hz〜21kHz(25Hz〜20kHz ±3dB EIAJ):クローム 20Hz〜20kHz(25Hz〜19kHz ±3dB EIAJ):ノーマル |
総合SN比
(メタルテープ) |
61dB(NR OUT)〔3%THDレベル,WTD〕
70dB(ドルビーB-NR IN 5kHz以上) 80dB(ドルビーC-NR IN 1kHz以上) 92dB(dbx IN 1kHz) |
ダイナミックレンジ
(メタルテープ) |
110dB(dbx IN 1kHz,ピークレベル) |
入力 | ライン:60mV(入力インピーダンス50kΩ) |
出力 | ライン:0.5V(負荷インピーダンス50kΩ以上)
ヘッドホン:40mW最大(8Ω) |
電源 | 100V AC,50/60Hz,38W |
外形寸法 | 432(幅)×119(高さ)×359(奥行)mm |
重量 | 8.5kg |
※本ページに掲載したR-999Xの写真,仕様表等は1984年8月のTEACのカタログより
抜粋したもので,ティアック株式会社に著作権があります。したがって,これらの写真等を
無断で転載・引用等することは法律で禁じられていますのでご注意ください。
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