AKAI GX-R99
STEREO CASSETTE DECK ¥168,000
アカイが1983年に発売した高級カセットデッキ。3ヘッド・ダブルキャプスタンメカニズムで
録再オートリバースを実現したデッキでした。同社はカセットデッキの第1号機でカセットハー
フ反転式のオートリバースを実現し,その後,赤外線センサーを使用したクイックリバース
を開発するなど,オートリバースデッキをリードしてきました。そのアカイの執念が感じられ
るデッキでした。このホームページでも取り上げたシングルウェイデッキのGX-F91をその
ままリバース化したかのような完成度の高い高性能デッキでした。GX-R99の最大の特徴は,何といっても3ヘッドダブルキャプスタンというカセットデッキに
とって最も高度で理想的なテープトランスポートメカニズムを録再リバースデッキで実現して
いたことです。「ACCURATE REVERSE ヘッドシステム」と名付けられたこのメカニズム
は,ヘッド回転式のリバースメカニズムで,往復とも同一のヘッドギャップと録再アンプが使
用できるメリットを重視して,フォワード側とリバース側の総合特性をシビアに一致させるこ
とを目指し,コンビネーション3ヘッドをそのまま回転させるというものでした。
3ヘッドの場合,ヘッドそのものの特性が優れてるだけに,アジマスなどの面でシビアなため
それを回転させるメカニズムは,非常に高精度なものが必要になりました。その「ACCURA-
TE REVERSE ヘッドシステム」の内容は,(1)ヘッドハウジング材に,通常の亜鉛ダイキャ
ストに比べて2倍の硬度と8倍の耐摩耗性を持つというベリリウム配合の高硬度亜鉛ダイキャ
ストを使用し,公差数ミクロンという超精密加工を施す。(2)往復方向のアジマスを正確に保
つストッパー部に純度99%以上のアルミナを使った高硬度のファインセラミック材を使用して
長期にわたる耐摩耗性と耐衝撃性を保証する。(3)回転部に滑りのよいフッ素系樹脂を主
体とする固体潤滑剤を,精密塗膜コントロール技術で数ミクロン厚にコーティングし,摩擦係
数を大幅に下げ,200万回以上の耐久性を実現。(4)ストッパーを受け止めるアジマス調整
ネジには,ステンレス鋼に焼き入れ処理を施し,硬度と緩衝性を両立したファインスクリューを
採用することにより,耐摩耗性と耐衝撃性を両立させる。(5)調整ネジはダブルナット方式とし
て,長期にわたりユルミを追放。(6)薄くて強靱なポリアミド樹脂にリード線をプリントしたフレキ
シブルプリントボードを採用し,回転部では螺旋状に巻き上げて,ヘッドに負荷トルクがかから
ず,低温時の硬化もない高いリードまわりの信頼性を確保。(7)ヘッドの回転には,摩擦係数
の低いラックをモータードライブによって素早く左右にシフトさせるシンプルなダブルピニオン駆
動を使用。・・というもので,アジマスずれに起因する音質の劣化を抑えるものでした。
ヘッドは,アカイ自慢の「スーパーGX(Glass & X’tal Ferrite)ヘッド」によるコンビネーション3
ヘッドでした。この「スーパーGXヘッド」は,フェライト素材を独自の加工技術によりローノイズ・ク
リスタル化(単結晶化)し,これをヘッドコアとシールドコアに用い全体を高硬度ガラスで固めたも
ので,(1)従来のフェライトが抱えていたノイズや粒子脱落などの難点を解決(2)高域でのエディ
カレントロス(渦電流損失)が極めて小さく,高い透磁率と広い周波数特性を実現(3)ヘッドギャッ
プの工作精度が非常に高くできる・・などの利点を持ち,優れた音質と高い耐久性を実現していま
した。GX-R99では,この「スーパーGXヘッド」を録音用と再生用に専用化して用い,高精度に一
体化したコンビネーションタイプの3ヘッドとして,録音用ヘッドのギャップは4ミクロン巾,再生用
ヘッドのギャップは1ミクロン巾とそれぞれにあった理想的なギャップ巾を実現していました。走行系は,リバースデッキでありながら,クローズドループダブルキャプスタン方式となっていまし
た。ピンチローラーの圧着力が,テープ走行方向の上流側で低く,下流側で高くなるように調整さ
れ,さらに,2本のキャプスタン軸には,逆 電ハードクロ−ムメッキ処理を施して,テープグリップ
力を強化し,直径も2.5mmと2.3mmと変えることにより,共振 周波数の分散を図っていました。
キャプスタン駆動はツインダイレクトドライブとして,フォワード側,リバース側それぞれに専用の
ブラシレス,コアレス,スロットレスのFGサーボモーターを配置し,テイクアップ側のモーターが駆
動され,サプライ側はベルトを介して従動するシステムになっていました。リバース時には,FG
サーボを一時解除して,2つのモータ ーに逆電圧を瞬間的に印加してクイックリバースを実現し
ていました。ループ内のテンションを素早く安定させるために, リバース時には,ピンチローラー
が圧着するタイミングをテープ走行の下流側を早めに,上流側を遅めにするという巧妙 なコント
ロールも行われていました。
GX-R99は,GX-F91から一歩進んで,テープ1本1本の特性を引き出すオートチューニングシ
ステムと録音レベル設 定の自動化を組み合わせたCRLP(ComputerRecording Level
Processing)コンピューターチューニングシステ ムを搭載していました。このCRLPは,
(1)Quick Auto Tuning,(2)MOL Detector,(3)Best Rec-Level Settingの3つの
機能から成り,これらが連携して働くシステムでした。
Quick Auto Tuningは,テープをローディングして録音に移る際,REC/PAUSEボタンを
押すだけで素早く(約2秒)そのテープに最適な録音条件を設定するシステムになっていました。
このQuick Auto Tuningには,AT(オートチューニング)バイアスという機能があり,ソース
のエネルギーバランスに合わせてテープのMOL特性をUNDER/STD/OVERの3種類を
選ぶことができました。MOLディテクターは,約2秒間でテープの中低域MOLと高域MOLを自
動的に 検出し,レベルインジケーター下のMOLディスプレイ上に表示される仕組みになってい
ました。GX-R99のレベルインジ ケーターは,VU/PEAKの切り替えができるだけでなく,中
低域レベルの表示と高域レベルの表示に切り替えることができるようになっていたので,この
MOL表示とにらみ合わせてシビアな録音レベル設定がマニュアルでできるようになっていま
した。
ベストレックレベルセッティングシステムは,検出したMOL特性と,高域,中低域別のレベル検
出をもとに,デッキが自動的に録音レベルを自動設定するシステムで,約10秒間録音スタンバ
イ状態で,入力ソースをモニターしながら中低域及び高域のピークが検出したMOL内に収まる
ように録音レベルを調整するものでした。GX-R99では,これら3つのプロセスをCRLPキーを
1回押すだけで自動的に行う仕組みになっていました。CRLPシステムは,録音開始後,不意
の高レベル入力に対してアッテネーターの働きもするようになっていました。当然,マニュアル
録音,録音レベルをメモリーしておき (最大6組)そのデータを活用しての録音もできるように
なっていました。
主要アンプには,カップリングコンデンサーを排除したDCアンプを採用し,特に再生イコライ
ザーアンプは,デュアルFET とデュアルトランジスタによる差動2段+AクラスSEPP回路を採
用し,ディスクリート構成でクオリティを追求した作りになっていました。この再生イコライザー
アンプはスーパーGX再生ヘッドに純度99.99%の無酸素銅のリード線で直結されていました。
パーツレベルでも,新開発のFBET(Fold Back Electrode Transitor:折り返し電極トラン
ジスター)を信号の増幅制御回路に採用,ラインアンプには,高速Bi-FETを採用するなど,ア
ンプ系全体のハイスピード化が図られていました。アンプ動作の源,電源部も+側の電源を基
準として+,−それぞれにフィード−バックをかけることにより安定な動作を誇る安定化電源・
高速トラッキングレギュレーターを採用し,安定なアンプ動作を確保していました。さらに,ドル
ビーブロックを電源部から完全にアンプ部と独立させ,相互干渉を防ぎ,それぞれの安定な動
作と音質の向上を図って いました。
機能的にもGX-R99は,ワンタッチで録音の頭へ巻き戻し,約4秒間のミュート録音をした後
録音スタンバイとなる「レックキャンセル機構」,3分間以上の無録音部分を探し出し,約7秒間
のブランク部分を作ってストップする「ブランクサーチシステム」,イントロを10秒間ずつスキッ
プ再生する「イントロスキャン」,前後1曲の頭出し機構「IPLS」など多彩でした。「オートフェー
ダー」「オートモニター」「オートミュート」「オートテープセレクター」など,録音時の自動化もCRLP
とともに全体的に進んだものでした。テープカウンターは,経過時間,残量時間,4桁数字の3
種類の表示が可能な「4デジット電子カウンター」を搭載し,カセットドアは,GX-F91以来のダイ
レクトリードイン,パワーイジェクトを採用してここでも自動化と便利さを追求していました。
GX-R99は,アカイ自身が当時「未来デッキ」と称していましたが,事実,ワンウェイ3ヘッド機の
高音質と録再リバースの長時間録再性能コンピュータ搭載の多機能などをすべて高度に満たし
たデッキでした。,このように詳しく見てみると多くの技術を結集して作られていたことがよく分か
ります。私自身は,リバースデッキに長い経験を持つアカイの意地が感じられる名機だと思って
います。アカイのカセットデッキもこれ以降,このGX-R99を超えるものは出ていないようです。
アカイそのものも,残念ながら民生用機から撤退してしまったようですし・・・。
●資料編 アカイのリバースデッキ●
CS-50D(アカイのステレオカセットデッキ第1号機)
1970年に¥49,500で発売。何とハーフ回転式のオートリバース機。
「INVERT-O-MATIC方式」という名前だった。
GX−735D(世界初のクイックリバース機)
アカイが1978年に世界に先駆けて発売した,赤外線リーダーテープ
検出式クイックリバース方式搭載のデッキ。当時の価格¥99,800
4つの過激な挑戦を秘め,ここに,
未来のデッキ・コンセプトが創造された。
1 Super GX 3Head Reverse
デジタルサウンド時代にこそ,そのクオリティが冴える。 高音質と長時間録音をめざして鍛え上げられた, スーパーGX・3ヘッドリバース。 |
◎ロータリー方式の高精度・高信頼化に挑戦した
ACCURATE REVERSEヘッドシステム |
◎優れた動特性と耐摩耗性でデジタルサウンドを
迎え撃つスーパーGX・3ヘッドシステム |
2 Double Capstan by Twin DD
テープをがっちり挟み込み,わずかな変動も許さない。 往復走行特性の均一化をはたした, ダブルキャプスタンbyツインDD。 |
◎テープ走行の安定化を図り,
レベル変動や変調ノイズを著しく低減した クローズドループ・ダブルキャプスタン |
◎高精度の往復テープ走行を実現した,
ツインダイレクトドライブシステム |
◎独自のデュアルワイドテープガイドを採用した,
BSP(Bi-directinal Symmetrical Precision)メカニズム |
3 CRLP(Computer Recording Level
Processing)system テープの特性と,ソースのエネルギーバランスを検知し, ベスト録音を約束する画期的録音システム。 |
◎テープ1本1本をジャストチューニング。
録音スタンバイの常識を変えた クイックオートチューニングシステム ●AT(オートチューニング)バイアス |
◎デッキ史上に残る快挙。
使用するテープのMOL特性を検出, 表示するMOLディテクター |
◎テープMOLを超えない範囲で,
ソースに応じた録音レベルを自動設定する ベストレックレベルセッティングシステム ●マニュアル録音 ●メモリー録音 |
4 High Tuned DC Amp
主要アンプを直結入力DCアンプとし,電源部を強化。 動特性と分解能を大幅に向上させた,ハイチューンDCアンプ。 |
◎カップリングコンデンサーを極力排除した
音質重視設計。再生イコライザーアンプには 直結差動2段+SEPP回路を採用。 |
◎新開発のFEBT(Fold Back Electrode Transistor),
最新型高速Bi-FETさらに, 数多くの特注品を含む良質デバイスを投入 |
◎電源回路に新設計の
高速トラッキングレギュレーターを採用して, アンプ動作の高安定化を達成 |
◎相互干渉による悪影響を断つため,
ドルビーブロックをアンプブロックから独立。 |
”まるで体の一部分のように操作できるデッキを−。”
多機能性と使いやすさも,未来デッキの条件と考えます。 |
◎A面からB面へわたってテープを思いのままに
操るコンピュータサーチ機構 ●レックキャンセル機構 ●ブランクサーチシステム ●イントロスキャン ●IPLS(自動頭出し) ●QMSS(クイックメモリーサーチシステム) |
◎わずらわしい操作を省略し,録音ミスを未然に
防ぐ先進のオートシステム ●オートフェーダー ●オートモニター ●オートミュート ●オートテープセレクター |
◎デッキの操作状態がひと目でわかる
大型FL集中ディスプレイ ●3Way表示4デジット電子カウンター ●3Way表示2色24セグメントFLバーメーター |
◎ダイレクトリードイン&パワーイジェクトシステム |
◎クイック&クワイエットメカニズム |
●GX-R99の主要な規格●
トラック方式 | コンパクト・カセット・ステレオ |
ワウ・フラッター | 0.028%WRMS(JIS) ±0.055%WPeak(EIAJ) |
周波数特性 | 20〜18,000Hz ±3dB Normalテープ
20〜19,000Hz ±3dB CrO2テープ 20〜21,000Hz ±3dB Metalテープ |
歪率(1kHz0VU) | 0.5% Metalテープ |
SN比 | 56dB(EIAJ)
ドルビーNR使用時 Bタイプ 1kHzで5dB,5kHz以上で10dB改善 Cタイプ 500Hzで15dB,1kHz〜10kHzで20dB改善 |
ヘッド | スーパーGX録音ヘッド×1
スーパーGX再生ヘッド×1(コンビネーションヘッド) 消去ヘッド×2 |
モーター | FGサーボDDモーター(キャプスタン)×2
DCモーター(リール)×1 DCモーター(メカ駆動)×1 DCモーター(オペレーションボード駆動)×1 |
早巻き時間 | 約90秒(C−60テープ使用時) |
入力レベル | ライン70mV(47kΩ) |
出力レベル | ライン410mV(2kΩ以下)
ヘッドホン1.3mW(8Ω) |
電源 | AC100V 50/60Hz |
消費電力 | 45W |
最大外形寸法 | 440W×105H×372Dmm |
重量 | 約8.7kg |
※本ページに掲載したGX−R99の写真,仕様表等は1983年12月
のAKAIのカタログより抜粋したもので,赤井電機株式会社に著作権
があります。したがって,これらの写真等を無断で転載・引用等するこ
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