S-707の写真
PIONEER S-707
3WAY SPEAKER SYSTEM ¥64,000

1987年に,パイオニアが発売したスピーカーシステム。前年の1986年に発売されたS-701の後継機
に当たるスピーカーシステムで,やや目立たない存在となっていたS-701をより強化したモデルともいえ
上級機S-3000の技術,ノウハウを投入し,物量的にも大幅に強化されたパイオニアの意欲が感じられ
る1台でした。

S-707の技術的特徴は,上級機S-3000や前モデルS-701と同様のミッドシップマウントの採用を核と
したエンクロージャー構造の強化でした。ミッドシップマウントは,各ユニットがバッフル板において互いに
影響し合って音を濁らせる原因となることを防ぐための技術で,S-707では,ウーファーは,厚さ40mm
の底板にアルミダイキャストのフレームで強固に固定されただけでなく,ミッドレンジ,トゥイーターにも工夫
がなされていました。
前面バッフル板は,厚さ25mmの高密度針葉樹パーティクルボードを特殊接着剤で積層した50mm厚の
ものに強化され,高剛性のバッフル板と接着剤を介在させることで,バッフル板自体の不要共振を低減さ
せていました。そして,ミッドレンジは,2層バッフル板のうち後部バッフル板に,トゥイーターは全部バッフ
ル板にそれぞれ固定することで,相互の干渉を低減していました。
さらに,最も振動の影響を受けやすいバッフル板の共振を抑えるために,新開発の「ダイナミックスタビラ
イザー」が採用されていました。これは,鋼鉄製のパイプフレームで前面バッフル板と左右の側板をがっち
り固定し,ボーカル再生を左右する帯域(200Hz〜1.2kHz)の振動レベルを大幅に低減したものでした。
さらに,側板,天板は厚さ25mm,裏板は厚さ30mm,底板は厚さ40mmと厚みをしっかりもたせ,高剛性
化が図られていました。また,ネットワーク基板には,厚さ5mmのハードボードを使用し,エンクロージャー
への取付にも防振材を介在させるなどの配慮が図られ,S/Nの改善がなされていました。

S-707の内部構造S-707のウーファー

ウーファーは,30cm口径のコーン型で,より剛性が高く,軽量で,かつ内部損失が大きい新素材ニューイン
プルーブドカーボングラファイトが振動板に使用されていました。これを,φ140mm×20mmの大口径ストロ
ンチウムマグネット採用,磁束密度14,000ガウスという強力な磁気回路で駆動することで,パワフルな低
音再生を実現していました。さらに振幅による駆動力のリニアリティを向上させるために,LDMC(Linear Dr
-ive Magnetic Circuit)が採用されていました。

ミッドレンジは,12cm口径のコーン型で,振動板にはウーファーと同じくインプルーブドカーボングラファイト
が採用され,さらにセンタードーム部にはセラミックカーボンが組み合わされ,軽量,高剛性かつ高内部損失
というすぐれた特性を実現していました。磁気回路には,φ100×14mmの大口径ストロンチウムフェライト
マグネットが採用され,高精度設計などと相まって15,000ガウスの高磁束密度を確保されていました。

S-707のトゥイーター,ミッドレンジの振動板

トゥイーターは,2.5cm口径のドーム型で,振動板にはセラミックカーボンが使用されていました。これは,
カーボングラファイトを基材に焼成して作られたもので,99.9%のカーボン純度を持ち,ベリリウムに次ぐ
ほどの硬度と高い内部損失,しかも軽量という特性的にすぐれたもので,音の伝播速度が速く,幅広いピス
トニックモーション帯域が確保されていました。このセラミックカーボン振動板を駆動する磁気回路には,φ85
×10mmのストロンチウムフェライトマグネットが採用され,19,000ガウスという高磁束密度が実現されて
いました。

ネットワークには,ハンダなどを使わない圧着方式の結線が採用され,素子,配線材,配置にいたるまで十
分に吟味されていました。また,エンクロージャーの前面バッフルには,その厚みを生かして,大きなRのラウ
ンドバッフルが採用され,音場感と音像定位の改善が図られていました。
また,S-707には別売で専用の台が発売されていました。サイズ,デザインともぴったり合わされ,ボックス型
で内部には砂や毛布などの吸音・増重量材を充填して音響特性に合わせた調整ができるようになっていまし
た。

以上のように,S-707は,パイオニアの中級機の主力モデルとして力の入った作りとなっていました。これは,
当時の熾烈な「598戦争」の中で,前モデルS-701が地味な存在となってしまったことがあったからかもしれ
ません。しかし,それだけに,35kgの重量からもうかがえるように,エンクロージャー,ユニットともしっかりと
物量が投入された実力モデルとなっていました。外観的にも,上級機S-3000を思わせるような高級感があ
りました。音質的にも中高域の歪み感が少ない聴きやすい音になっており,同クラスでは使いやすい1台となっ
ていました。


以下に,当時のカタログの一部をご紹介します。



強力である。純粋である。
S-3000の思想をうけついだ,
高磁束密度ユニットと,
無共振化のミッドシップマウント。


◎バッフル板に不要振動を伝えない
 ミッドシップマウント
◎バッフル板と側板を固定する
 ダイナミックスタビライザー
 無共振化を徹底しました。
◎19,000ガウスの高磁束密度を実現
 セラミックカーボン・ドームトゥイーター
◎15,000ガウスの高磁束密度
 高純度再生のコーン型ミッドレンジ
◎明るく,伸びやかな低音。高磁束密度
 14,000ガウスの30cmウーファー
◎音質優先の高品位ネットワーク,大きな
 Rのラウンドバッフルエンクロージャー
◎無共振化の思想を発展させた
 スピーカーベース




●S-707の仕様●

型式 位相反転式ブックシェルフ型
スピーカー ウーファー 30cmコーン型
ミッドレンジ 12cmコーン型
トゥイーター 2.5cmドーム型
インピーダンス 6Ω
再生周波数帯域 30〜40,000Hz
出力音圧レベル 91dB/W(1m)
最大入力(EIAJ) 200W
クロスオーバー周波数 500Hz,4000Hz
外形寸法 394W×694H×365Dmm
重量 35kg

※本ページに掲載したS-707の写真,仕様表等は,1987年
 9月のPIONEERのカタログより抜粋したもので,パイオニア
 株式会社に著作権があります。したがって,これらの写真等を
 無断で転載,引用等をすることは法律で禁じられていますので
 ご注意ください。

                        
 

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