SP-10MK3の写真
Technics  SP-10MK3
Quartz Synthesizer DD Turntable  ¥250,000

1981年にテクニクス(松下電器)が発売したターンテーブルシステム。世界初のダイレクトドライ
ブ方式ターンテーブル・SP-10を 1969年に発表,翌1970年に発売したテクニクスはSP-10
の2代目として1975年にクォーツロックを搭載したSP-10MK2を発売し, 13年目の1981年
にSP-10MK3を発売するに至りました。SP-10の最終形として開発されたSP-10MK3は,
まさに超弩級といえるターンテーブルで,DD方式ターンテーブルの頂点ともいえる1台でした。

ターンテーブルを駆動するモーターには伝統のDCモーターが搭載されていましたが,SP-10の
歴史,いやターンテーブルの歴史の中でも最強ともいえるモーターが搭載されていました。世界
でも屈指のトルクを持つカッティングレース駆動装置テクニクスSP-02のモーターをベースに開
発された超低速電子整流子ブラシレスDCモーターで,民生用機器としてはテクニクス最大(ある
いは日本最大?)の16kg・cmという巨大な起動トルクを実現していました。これは,前モデルの
SP-10MK2の2.5倍にもなっており,10kgもの重量を持つターンテーブルをわずか0.25秒
回転角30度で定速回転(33・1/3rpm時)させることができるトルクでした。
ちなみに,SP-02はテクニクスが1978年に発表したカッティングレース駆動装置で,そのター
ンテーブルは重さ30kg,慣性質量10ton・cm2に 達するというものすごいものだったそうです。

ターンテーブルの停止機構にはメカニカルブレーキと,逆回転の駆動回路を瞬間的に作動させ
る電子ブレーキを併用したものが搭載され,10kgもの重量級ターンテーブルをわずか0.3秒で
停止させる(33・1/3rpm時)ことが可能でした。このブレーキ機構は,瞬間停止させてもほとんど
音もなく動作し,速度切換えの際にも低速から高速には,巨大な起動トルクにより,高速から低
速には電子ブレーキ駆動回路を動作させることにより,瞬時切換えが可能となっていました。さら
に停止中には,メカニカルブレーキを半ブレーキの状態に維持し,不必要なターンテーブルの動
きを制御し,針先の保護や厳密なレコード演奏時の頭出しを可能としていました。

一体構造ターンテーブル

ターンテーブルは,SP-10MK2(3kg)の3倍以上の重量・10kgもの超重量級ターンテーブル
を搭載し,その慣性質量は1.1ton・cm2に 達し,10kg・cm以内の定負荷に対して回転速度が
変動しないほどの安定性が確保されていました。アルミダイカストターンテーブルに15mm厚銅
合金ターンテーブルを組み合わせた2層構造で,異種金属の組み合わせにより外部振動の影
響を受けにくい構造となっていました。さらに,ターンテーブルをローターマグネットと一体化した
テクニクス独自の一体構造DDが採用され,ケース,モーター,ターンテーブルの積み重ねがな
い,極めて精度の高い構造が実現されていました。
回転数制御には,SP-10MK2同様に,高精度のクォーツ発振器を用いたクォーツロックが搭
載されていました。回転数検出には全周検出FG(周波数発電機)を採用していました。一点検
出法に比較して,検出コイルを全周に分布させた全周検出方式はより高精度な検出が可能と
なっていました。ここで検出されたFG信号と水晶発振器による基準信号との位相差を位相制御
回路が検出して制御するクォーツロックと巨大ともいえる慣性質量と相まって,ワウ・フラッター
0.015%,回転数偏差±0.001%以内という高精度な回転を実現していました。

SP-10MK3の内部構造

アルミダイカストと銅合金による10kgもの2重構造・超重量級ターンテーブルは外部振動の影
響を極小化し,この超重量級ターンテーブルを支えるキャビネットは高精度亜鉛ダイカストおよ
びアルミダイカストが採用され,底ベースにはテクニクス自慢の音響素材T.N.R.C.(Technics
Non Resonance Compound)が採用されるなど,トータルに無振動・無共振の設計がなさ
れていました。このような設計により,SN比92dB,実際に極限的に静寂な回転を実現していま
した。

SP-10MK3は,SP-10MK2同様に電源部がセパレートした構造となっており,コントロール
部と一体化されていました。ターンテーブルのスタート/ストップと回転数の選択はターンテーブル
本体にもスイッチが装備されていましたが,電源部のコントロールパネルでは,さらにピッチコン
トロールの操作もできるようになっていました。SP-10MK3は,33・1/3,45,78rpmの3種類
の回転数が備えられ,SPレコードにも対応していました。そして,各回転数ごとに0.1%ステップ
で±9.9%の範囲,つまり回転数で199通り,総計597通りものピッチが得られるようになって
いました。しかもクォーツ制御による極めて正確な制御をかけた状態でピッチコントロールができ
るクォーツシンセサイザ方式が採用されていました。
ピッチコントロールは,電源部のコントロールパネル上のプッシュボタンにより行い,ワンプッシュ
0.1%刻みで微調整が行え,ピッチ可変時にもクリアボタンを押せば瞬時に0%に復帰するよう
になっていました。さらに,任意の回転数でピッチロックボタンを押せば,pitch lockの文字が点
灯し,他のボタンを押しても回転数が変わらないロック状態になり,再びピッチロックボタンを押す
とロックが解除されるようになっていました。定速回転中はストロボが黄緑色で停止して見え,ピッ
チ可変時にはストロボが赤橙色で動いて見えるようになっていました。また,回転数とピッチ微調
整量の表示にはLEDが採用され,見やすい鮮明なデジタル表示となっていました。

SP-10MK3の写真2

以上のように,SP-10MK3は,DD(ダイレクト・ドライブ)プレーヤーのオリジネーター・テクニ
クスが開発した究極のDD方式のターンテーブルといった存在で,安定した静かな回転により
カートリッジやアームの性能をきちんと引き出すその能力は格別のものがありました。故長岡
鉄男氏も,雑誌などで「『オーディオが消えうせて、生の人間と楽器がそこに踊り出た』という感
じである。鮮烈の極致。強烈な実在感というか、実態感というか、あまりの生々しさに目下大い
に当惑している。目のやり場に困るのである。」と評したほどで,個人的な思いですが,最近100
万円以上(中には数百万円)の海外製のベルトドライブプレーヤーがありますが,SP-10MK3
は,この価格(¥250,000)で,それらの性能に決して負けていないと思います。また,その抜
群の信頼性は今でも広く知られるところで,発売から長く年月を経た現在でも使用されている方
が多いという,まさに記憶に残る超弩級の名機といえるでしょう。


 以下に,当時のカタログの一部をご紹介します。



新たなる標準原器
12年目に,またしてもテクニクスから

ワウ・フラッタ0.015%,SN比92dB,
起動トルク16kg・cm
さらに操作性も極めて
クォーツシンセサイザピッチコントロール装備
贅の限りを尽したテクニクスの
最高級ターンテーブル


◎テクニクスプレーヤ技術を総結集
 ターンテーブルの最高性能を徹底追求
◎16kg・cmもの巨大な起動トルク
 0.25秒の瞬時起動を実現(33・1/3rpm)
◎電子ブレーキとメカニカルブレーキを併用
 瞬時停止及び瞬時速度切換えを実現
◎1.1ton・cm2の慣性質 量,10kg・cmの
 負荷トルクに対しても回転速度変動ゼロ
◎ワウ・フラッタ0.015%,偏差±0.001%以内
 回転精度をきわめるクォーツD.D.
◎伝統の無振動・無共振思想を徹底
 92dBという高SN比を実現
◎クォーツシンセサイザ方式を採用
 ±9.9%まで0.1%刻みの速度微調が可能
◎リモート操作が行えるコントロール
 ユニットを一体化した電源部



SL-1000MK3の写真
Technics  SL-1000MK3
Quartz Synthesizer DD Turntable  System
                         ¥500,000


テクニクスは,1982年にSP-10MK3を搭載したプレーヤーシステムとしてSL-1000MK3
を発売しました。SP-10シリーズは,単体ターンテーブルとしての実力が広く認められ,様々な
キャビネットに収めて使うオーディオファンがいました。また,SP-10シリーズに対応したキャビ
ネットもいろいろ発売され,また自作する強者もいました。そうした中で,テクニクスも専用のキャ
ビネットを発売していました。SP-10MK3に至り,16kg・cmという巨大トルクと10kgという重
量級ターンテーブルの超弩級ターンテーブルとなり,それに対応したキャビネットも当然強力な
ものとなっていきました。テクニクスとしても,より強力な専用キャビネットSH-10B5を発売し,
新開発のアームEPA-100MK2を搭載してSL-1000MK3として発売しました。いわばテクニ
クスの最高級単体パーツを組み合わせた純正セットというプレーヤーシステムでした。

SH-10B5の写真 SH-10B3の写真
SH-10B5
Turntable Base  ¥120,000
SH-10B3
Turntable Base  ¥70,000


SH10B5は,テクニクス自慢の音響素材T.N.R.C.(Technics Non Resonance Compound)
による一体成形で,重量は,巨大トルクと重量級ターンテーブルのSP-10MK3に対応するため,
SP-10MK2用ベースSH-10B3の12kgに対して19kgに達していました。アームベースとして,
EPA-100MK2用の穴あきが1枚と,他のアームに対応させるために穴があいていないものが
1枚付属していました。

EPA-100MK2の写真
EPA-100MK2
Universal Tone Arm ¥130,000

1982年にテクニクスが発売したユニバーサルS字型トーンアームがEPA-100MK2でした。その名
が示す通り,EPA-100の2世代目モデルでした。
アームパイプ部は,特殊生成法により軽量かつ機械的強度と弾性率の高いチタニウムの表面部にボ
ロン層を形成し,機械強度をより高め曲げやねじれなどによる有害な部分共振を徹底して抑制したも
のでした。ヘッドシェル部には,ボロンファイバーとアルミニウムを複合生成し,軽量高剛性を実現して
いました。これらはいずれも世界初の採用でした。
アームの軸受け構造には,水平回転部、垂直回転部ともに、内製した高精度ピボットベアリングによる
軸受けにより支えられ,水平・垂直の回転軸が一点で交差し、初動感度およびあらゆる回転方向の感
度差が少ない高感度ジンバルサスペンション方式が採用され,さらに摩擦係数が鉄の約1/3というル
ビーボールを計20石使用して,5mgという初動感度を実現していました。
後部バランスウェイトは,メインウェイトは片方をスプリングで分割支持し,もう一方はウェイト後部とダ
ンピングセレクタに対向して付けた2つの磁石の吸引力でフロートした構造で,このウェイトの共振が粘
性シリコンオイルとダンピングシリンダによって制動され,ピックアップ全体の共振を効果的に制動する
ようになった「ダイナミックダンピング機構」が採用されていました。
高さ調整には,精密スパイラルヘリコイド構造のアーム高さ調整機構を搭載し,精度の高い高さ調整を
可能にしていました。アームベース付属の出力コードには,直流抵抗が39.5mΩ/mと低く,低容量
(41.5pF/m)のコードを採用し音質の劣化を抑えていました

EPA-100の写真
EPA-100
Universal Tone Arm ¥60,000

EPA-100MK2のもととなったEPA-100は1976年発売で,アームパイプ部が特殊窒化 処理高強度
チタンパイプである以外は,基本的な構造はEPA- 100MK2とほぼ同一ともいえるもので,その価格は
赤字覚悟の激安とも言えるほどで,実際人気モデルとなりました。当のテクニクスもそれほど売れること
は想定していなかったようで,EPA-100MK2では¥130,000に値上げされましたが,その中身を見
るとそれでも安いと思えるものでした。

以上のように,SL-1000MK3は,テクニクスの高性能パーツを組み合わせた,テクニクス純正のセット
モデルとしてすぐれた性能を持ったプレーヤーシステムでした。その高い再生能力と音は,驚くほどのも
ので,ノイズの少なさ,ピンポイントに音が浮かび上がるような音場感と音のクリアさ,濁りのなさなどが
大きな特徴でした。アナログプレーヤーの世界では,DD方式の高級機はなくなってしまい,海外製のベ
ルトドライブプレーヤーが高級機の主流となっている現在ですが,SL-1000MK3の再生能力や音は
ベルトドライブ機とはある意味一線を画するものでした。DD方式の高級機となると,相当な高度な技術
と高い生産能力がないと不可能ともいえるため,まさにテクニクスならではのものだったといえるでしょう。






●SPECIFICATIONS●


■SP-10MK3■

形式
クォーツフェイズロックドコントロール
ダイレクトドライブ
ターンテーブル
銅合金+アルミダイカスト製,直径32cm
ターンテーブル重量
10kg
慣性質量
1.1ton・cm2  (1,100kg・cm2)
モータ
クォーツフェイズロックドコントロール
超低速電子整流子ブラシレスDCモータ
回転数
3スピード,33・1/3,45,78.26rpm
回転数微調範囲
0.1%ステップで±9.9%までの
クォーツロックピッチ可変(各回転数単独)
起動トルク
16kg・cm
起動時間
0.25秒(33・1/3r.p.m.)
停止時間
0.3秒(33・1/3r.p.m.)
負荷変動
10kg・cm以内0%
回転数偏差
±0.001%以内
ワウ・フラッタ
0.015% WRMS(JIS C5521)
±0.021% weighted zero to peak
(DIN45507,IEC98A weighted)
SN比
92dB DIN-B(IEC98A weighted)
60dB DIN-A(IEC98A unweighted)
電源
AC100V,50/60Hz
消費電力
25W
外形寸法
369W×113H×369Dmm(本体)
166W×96H×410Dmm(コントロールユニット)
重量
18kg(本体のみ)
6kg(コントロールユニット)





■SH-10B5・SH-10B3■

 
SH-10B5
SH-10B3
外形寸法
561W×175H×466Dmm
560W×170H×465Dmm
重量
19.0kg(ダストカバー含む)
12.0kg(ダストカバー含む)
アーム実効長
211〜242mm
218〜250mm
トーンアーム後部
110mm以内(Lが211mmの時)
80mm以内(Lが242mmの時)
92mm以内(Lが218mmの時)
68mm以内(Lが250mmの時)
アームベース
EPA-100MK2用穴あき1枚
穴無1枚付
EPA-100用穴あき1枚
穴無1枚付



■EPA-100MK2・EPA-100■

 
EPA-100MK2
EPA-100
形式
制動可変形ダイナミック
ダンピング方式ユニバーサル
トーンアーム
制動可変形ダイナミック
ダンピング方式ユニバーサル
トーンアーム
アームパイプ
ボロンタイタニウムパイプ
特殊窒化処理高強度チタンパイプ
アーム実効長
250mm
250mm
アーム全長範囲
322〜350mm
322〜350mm
アーム後部長範囲
64.5〜94.5mm(アーム支点より)
66〜94mm(アーム支点より)
アーム高さ調整範囲
44〜64mm
(ベース取付面よりパイプセンターまで)
44〜64mm
(ヘリコイド部6mm)
オーバーハング
15mm
15mm
水平トラッキングエラー角
+1°6′(30cmレコード内周)
+2°6′(30cmレコード外周)
+1.1°(30cmレコード内周)
+2.1°(30cmレコード外周)
回転軸感度
5mg(水平・垂直,初動感度)
5mg(水平・垂直,初動感度)
アーム実効質量
22g
(カートリッジ自重6.5g,針圧1.25g時)
22g
(カートリッジ自重6.5g,針圧1.25g時)
針圧調整範囲
0〜3g
0〜3g
シェル重量
9.5g
9.5g
適合カートリッジ重量
5〜10g
5〜10g
適合カートリッジ
コンプライアンス
5×10-6cm/dyne 以上
12×10-6cm/dyne





■SL-1000MK3 総合■

電源
AC100V 50/60Hz
消費電力
25W
外形寸法
561W×175H×466Dmm(本体)
166W×96H×410Dmm(コントロールユニット)
重量
44.0kg

※ 本ページに掲載したSP−10MK3,SL-1000MK3,SH-10B5,SH-10B3
EPA-100MK2,EPA-100の写真・仕様表等は1971年9月,1972年1月
1972年9月のTechnicsのカタログより抜粋したもので,松下電器産業株式会社
に著作権があります。したがって,これらの写真等を無断で転載,引用等をすること
は法律で禁じられていますので,ご注意ください。

 
★メニューにもどる
  
   
★アナログプレーヤーPART4のページにもどる

 
 

現在もご使用中の方,また,かつて使っていた方。あ るいは,思い出や印象のある方
そのほか,ご意見ご感想などをお寄せください。

メールはこちらへk-nisi@niji.or.jp
inserted by FC2 system