Victor T-2020
FM/AM STEREO TUNER ¥59,000
1977年に,ビクターが発売したFM/AMチューナー。セパレートアンプとチューナーを核とする「2020シリーズ」の中の
チューナーで,「7070シリーズ」等に比べて最も手頃な価格のエントリーモデル的存在の「2020シリーズ」ながら,技
術的にもしっかりした内容をもつ本格派のチューナーでした。
フロントエンド部は,5連バリコンが搭載され,2個のデュアルゲートMOS FETとバッファ付きローカル・オシレーターの
採用により,高感度・高安定度が実現されていました。
T-2020の大きな特徴は,検波回路にPLL(Phase Locked Loop)回路が導入されていたことでした。PLLは,入
力信号と出力信号の位相差を検出し,フィードバックによって常に入力と位相の同期した出力を得る回路で,様々な信
号系の忠実度向上に大きな効果をもたらすため,オーディオ機器や通信機分野でも用いられています。FMチューナー
では,1970年代の半ば頃からステレオ復調のためのMPX回路に採用されるようになっていきました。1970年にビク
ターが発表したCD-4方式4チャンネルのディモジュレーター(復調器)のサブ・チャンネルの検波回路にもPLL検波回路
が搭載され,そのすぐれた性能が評価されていました。しかし,このようなPLL回路が搭載されていたMPX回路では扱
う周波数が19kHz〜76kHz,CD-4のサブ・チャンネル検波回路でも中心周波数が30kHz,であったのに対し,FM
検波回路では10.7MHzと桁違いに高い周波数になるため,FMチューナーの検波回路のPLL化は,SN比や歪みの
点で実用化が難しいとされてきました。ビクターは,その困難を排して,世界初のPLL検波回路を開発し,搭載していま
した。そして, PLL検波回路は,この後のチューナーに次第に採用されるようになっていきました。
PLL検波回路は,位相比較回路→ローパスフィルター→VOC(電圧制御発振器)で構成されるループからなり,常に入
力信号の位相にロックされた検波出力が取り出されるようになっていました。温度や経時変化による多少のズレも吸収
して動作するために長期間高い安定度が維持されるほか,ロックレンジを外れた周波数の信号に対してフィルター効果
をもつこと,ロックレンジが入力信号の強弱に応じて変化し,弱い信号では自動的にバンド幅が狭くなって妨害波の排除
能力が高まること,そして回路自体にAM抑圧能力があることなど,多くのすぐれた特性が実現されていました。
MPX復調回路には,パイロット引き抜き回路と,NFBによって低歪率化を図ったデコーダー,さらにスイッチング信号を
作り出すPLL回路を単一パッケージにまとめた新しい高集積度ICを採用していました。パイロット引き抜き回路はPLLで
制御され,信号レベルの変化にも忠実に追従して19kHzのステレオ・パイロット信号をキャンセルすることができるよう
になっており,後段のローパスフィルターがシンプルになり,オーディオ帯域の周波数特性や位相特性が向上していまし
た。
また,出力アンプは,イコライザー用ICを使用した広ダイナミックレンジのものが搭載されていました。
同調点のズレを防ぐために,ビクター独自のチューニング・ホールド回路が搭載されていましたが,T-2020では,自動
化されたオート・チューニング・ホールドとなり,より使いやすくなっていました。正確の同調をとると,数秒後にホールド状
態となり,離調すれば直ちに解除されるようになっており,電源を切った後に再び動作させる場合も,チューニングノブを
動かさない限りホールド状態に復元するようになっているため,タイマーを使った留守録音時にも対応できるようになって
いました。
バリコン式チューナーとして,260mm長の横行ダイヤルスケールが搭載され,シグナルメーターとチューニングメーターは
アナログメーター式ではなく,5点LED表示式で,明快で反応の速い表示ができるようになっていました。その他,ダブル
ミューティング回路,エア・チェック用基準レベル・オシレーター,出力レベル調整ボリュームなども搭載されていました。オ
シレータースイッチと出力レベル調整ボリュームは,使いやすく隣り合わせて配置されていました。
以上のように,T-2020は,「2020シリーズ」のチューナーとして,上級機のシンセサイザーチューナーT-7070と技術的
に共通点をもつなど,しっかりした内容をもったコストパフォーマンスの高いチューナーでした。「2020シリーズ」の一員とし
て,プリアンプP-2020とデザイン的に統一性をもたせるなど,純正システムステレオとしても使いやすくなっていました。
以下に,当時のカタログの一部をご紹介します。
実感,セパレートの真価。
2020SERIES
T-2020型
●PLL検波などの先進技術が可能にした
走行長260mm,200kHz刻みの
精密ロングダイアル@
●機能的なエア・チェックのために
出力レベル調整ボリュームAと
基準レベルオシレータースイッチBが隣接。
●ディジタル時代を先取り。
各5ポイントのシグナルCと
FMチューニングDインジケーター。
●同調後,数秒で受信周波数をロック。
自動化されたチューニング・ホールドE回路と
ホールド・インジケーターF
先進技術の2ステージPLL,
高安定・高性能チューナ−。
◎PLL・FM検波回路。
◎パイロット・キャンセル内蔵,
NFB・PLL・MPX・IC回路。
◎FMオート・チューニング・ホールド。
◎ディジタル感覚の
チューニング・インジケーターと
シグナル・インジケーター。
●5連バリコンと2個のデュアルゲート
MOS型FET,バッファ付きローカル・
オシレーターによる高感度・高安定FM
フロントエンド。
●イコライザー用ICを起用した広ダイナミック
レンジ出力アンプ。
●ダブル・ミューティング回路。
●同軸ケーブル用F型コネクター付き。
●T-2020型規格●
●FMチューナー部●
受信周波数範囲 | 76MHz〜90MHz |
実用感度(75Ω) | 1.0μV(11.2dBf) |
50dB S/N感度(75Ω) | 2.0μV(17.2dBf)モノ/20μV(37.2dBf)ステレオ |
イメージ妨害比 | 110dB |
IF妨害比 | 110dB |
スプリアス妨害比 | 110dB |
キャプチャー・レシオ | 1.0dB |
実効選択度 | 80dB |
AM抑圧比 | 65dB |
高調波歪率(1kHz) | 0.08%モノ/0.10%ステレオ |
SN比 | 78dBモノ/72dBステレオ |
ステレオ・セパレーション | 50dB(1kHz),40dB(50Hz〜15kHz) |
サブキャリア抑圧比 | 70dB |
ステレオ・スレシホールド・レベル(75Ω) | 5μV/31.3dBf |
ミューティング・スレシホールド・レベル(75Ω) | 5μV/31.3dBf(モノ), 5μV/31.2dBf(ステレオ) |
周波数特性 | 50Hz〜10kHz±0.3dB 30Hz〜15kHz+0.3,−0.8dB |
出力信号レベル | VARIABLE OUT=0〜1.5V/2.5kΩ FIXED OUT=750mV/2.5kΩ DET OUT=160mV/2.5kΩ REC LEVEL=50%周波数変調相当 |
アンテナ入力インピーダンス | 75Ω(不平衡)/300Ω平衡 |
●AMチューナー部●
受信周波数範囲 | 525kHz〜1605kHz |
実用感度 | 300μV/m(49dB/m)バーアンテナ/50μV外部アンテナ端子 |
イメージ妨害比 | 50dB |
IF妨害比 | 55dB |
選択度 | 45dB |
SN比 | 50dB |
消費電力(電気用品取締法基準) | 10W(100V,50/60Hz) |
寸法・重量 | 111H×480W×375Dmm 5.6kg |
※本ページに掲載したT-2020の写真,仕様表等は1977年のVictor
のカタログより抜粋したもので,日本ビクター株式会社に著作権があり
ます。したがって,これらの写真等を無断で転載・引用等することは法
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