TA-N86の写真
SONY TA-N86
STEREO POWER AMPLIFIER ¥90,000

1978年に,ソニーが発売したパワーアンプ。プリアンプTA-E86とのペアを想定されたパワーア
ンプで,パワーアンプのイメージを感じさせない薄型のシンプルな筐体は,ソニー自慢のパルス電
源ならではのものでした。

TA-N86の技術的な特徴は,DCアンプ構成とHi-fTトランジスタの搭載でした。1970年代,アン
プ技術では,低域の位相の乱れによる音質劣化をなくすための信号経路からのコンデンサー排除
つまりDCアンプ化が大きな流れとしてありました。さらに,高音域の過渡応答特性低下による音質
劣化を抑えるための素子の高域特性の向上が図られていました。その1つとして,TA-N86では,
Hi-fTトランジスタが開発・搭載されていました。

TA-N86では,DCアンプにとって最も重要な,DC漏れの原因となる動作点の変化を防ぐため,初
段に,ソニー独自の半導体技術を生かした新開発のデュアルFETを搭載していました。動作点の変
化の主な原因となる入力FETの温度ドリフトが極めて少なく抑えられたこのデュアルFETの搭載によ
り動作点が極めて安定したDCアンプとなっていました。

Hi-fTトランジスタ

大電力を扱うものほど高域の応答特性が悪くなりがちで,スイッチング歪みを発生しやすくなるバイ
ポーラトランジスタの欠点を改善するために,トランジスタの動作領域の広帯域化,つまり遮断周波
数(fT)を伸ばしたのがTA-N86に開発・搭載されたHi-fTトランジスタでした。このHi-fTトランジスタ
は,細かいライン状のパターンをとり,高域応答特性のよい小電力トランジスタを無数に集積したよう
な構造もち,遮断周波数も従来のトランジスタが4〜20MHzであったのに対し,60MHz以上に達し,
すぐれた高域再現性が実現されていました。

電圧増幅段は,3段差動DCアンプで,NFをかける前の裸特性の向上が図られていました。さらに,
初段(ソース側),次段(エミッタ側)には,インピーダンスの大きい定電流回路が挿入され,電源電流
の変動を抑えて,音質の向上が図られていました。
電力増幅段は,3段ダーリントンDCアンプとなっていました。ダーリントン接続により,トランジスタの
内部抵抗実質的に2倍になることで,電圧増幅段・中段でのゲインが大きく得られ,その能力が生か
せるようになっていました。

電源部は,ソニー自慢の「パルス電源」が搭載されていました。これは,トランスレス整流回路で直流
(正確には脈流)を作り,これをスイッチングにより20kHzの方形波に変換,小型のトランスを通して
電源とするもので,50Hz,60Hz等のハムが発生せず,パルス幅で一定電圧(電圧変動率1%以下)
になるよう制御しているので,たとえ,AC電源90V〜130Vまで変動しても小出力時から大出力時ま
で極めて安定した電源供給能力が得られるという利点を持っていました。逆にスイッチングによるパ
ルスから発生するバズの影響が問題となるため,シールドは厳重に行われていました。

TA-N86の内部

内部レイアウトは,電源部が中央に配置され,ステレオパワーアンプとして合理的な左右対称のツイ
ンモノ構造がとられていました。入力端子はリアパネル中央部に,出力端子はリアパネル左右両端に
配置され,U字型に流れる信号の流れに沿って最短距離で部品も配置されていました。また,中央に
配置されたパルス電源は,上記のように原理的に電圧変動が極めて少ないという特徴があるため,
あえてL・R独立電源部となっていなくても,電源部に起因するL・Rチャンネル間のクロストークの発生
や,前段へのリジェクションも非常に少なくなっていました。

TA-N86は,リアパネルのスイッチで,A級,B級のバイアス切り換えや,モノラル動作への切換がで
きるようになっており,パワーアンプとして多様な使い方が可能でした。A級動作18W+18W(歪率
0.007%),B級動作80W+80W(歪率0.007%),MONO200W(歪率0.015%)の3種類
の動作ができ,ソースやスピーカーの違いに応じたり,マルチチャンネルアンプとしての使用など,使
い方に柔軟に応じられるようになっていました。

以上のように,TA-N86は,当時のソニーのセパレートアンプのエントリーモデルながら,充実した内
容と使いやすい機能を,薄型のスマートな筐体に納めた,ソニーらしさをしっかり体現した1台でした。
その筐体のイメージどおりのすっきりとしたクリアな音をもっていました。


以下に,当時のカタログの一部をご紹介します。



聴感による詰めが
技術革新の意義を実らせた
パワーアンプです。


◎低音域をDCアンプが高音域を>
 新しい素子<Hi-fTトランジスタが
 クオリティアップしています。
◎電源部だけ良くても,
 いいアンプはできません。しかし,
 いいアンプは,いい電源部の存在
 を前提条件にしています。
◎A級,18W+18Wひずみ率0.007%
 B級,80W+80Wひずみ率0.007%
 MONO200Wひずみ率0.015%
 3段切り換えができます。
◎Lch,Rchの信号系の干渉を
 しっかり断ちました。




●TA-N86主な規格●

型式
ステレオパワーアンプ
回路方式
全段直結ピュアコンプリメンタリーSEPP OCL
3段差動電圧増幅段,3段ダーリントン電力増幅段
半導体
FET4個,トランジスタ63個,ダイオード54個
実効出力
A級動作時 18W+18W(両チャンネル駆動,8Ω)
B級動作時 80W+80W(両チャンネル駆動,8Ω)
モノーラルアンプ動作時 200W(8Ω)
高調波ひずみ率
              20Hz〜20kHz      5Hz〜50kHz
実効出力時  A級    0.007%         0.02%
          B級   0.007%         0.02%
          MONO 0.015%         0.07%
10W出力時  A級    0.0025%        0.005%
          B級   0.0035%        0.007%
          MONO 0.008%         0.03%
1W出力時   A級    0.001%         0.006%
          B級   0.003%         0.007%
          MONO 0.008%         0.025%
混変調ひずみ率
(60Hz:7kHz=4:1)
実効出力時  A級    0.004%
          B級   0.004%
          MONO 0.005%
10W出力時  A級    0.002%
          B級   0.003%
          MONO 0.004%
1W出力時   A級    0.002%
          B級   0.003%
          MONO 0.004%
出力帯域幅特性
5Hz〜45kHz(B級動作時,IHF,8Ω)
5Hz〜60kHz(A級動作時,IHF,8Ω)
5Hz〜30kHz(モノーラルアンプ動作時,IHF,8Ω)
ダンピングファクター
70(1kHz,8Ω)
残留雑音
25μV(8Ω,Aネットワーク)
S/N
120dB以上(クローズドサーキット,Aネットワーク)
周波数特性
DC〜200kHz +0,−1dB(DIRECT端子使用時)
7Hz〜200kHz +1,−1dB(C COUPLED端子使用時)
ゲイン
A級   27.4dB
B級   27.4dB
MONO 33.4dB
入力感度
1.1V(B級実効出力時)
インピーダンス
50kΩ
出力端子
SPEAKER
B級動作 4〜16Ωのスピーカーに適合
A級動作,モノラルアンプ動作 8〜16Ωのスピーカーに適合
電源
100V,50/60Hz
消費電力
180W
大きさ
480W×80H×380Dmm
重さ
8.0kg


※本ページに掲載したTA-N86の写真,仕様表等は1978年3月のSONY
 のカタログより抜粋したもので,ソニー株式会社に著作権があります。したがって
 これらの写真等を>無断で転載・引用等することは法律で禁じられていますので
 ご注意ください。

  
 
 
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