TEAC
V-9000
STEREO CASSETTE DECK ¥90,000
1989年にティアックが発売したカセットデッキ。ティアックはこのモデルの後センターメカニズムに
移行していったため,左側にカセットホルダーのある伝統的なオーソドックスな外観を持つカセット
デッキの最後の世代のトップモデルで,オーソドックスなワンウェイの3ヘッドデッキで,各部にしっ
かりと物量が投入された1台でした。
録音ヘッドと再生ヘッドは,新開発のCA(コバルト・アモルファス)コンビネーションヘッドが搭載され
ていました。このヘッドは,優れた物理特性を持つ非結晶構造のアモルファスを薄い箔状化し,14
層というラミネート構造にしたもので渦電流損失を抑え,優れた高域特性を実現していました。内部
捲線には高純度のPC-OCCを採用していました。消去ヘッドには,センダストガードのダブルギャッ
プヘッドが搭載されていました。これらのヘッドは,重量級の亜鉛ダイキャスト・ヘッドベースにマウン
トされ,高精度なアジマス精度を確保するとともに,ヘッドへの微振動をシャットアウトするようになっ
ていました。
メカニズムは。
V
-1RX以来の,キャプスタン用,リール用,メカ駆動用それぞれに専用のモーターを搭
載した3モーター・3S(ソフト・スムーズ・サイレント)メカニズムでした。キャプスタン軸には,外径70mm
慣性質量1100g/cm2の高精 度大型フライホイールが2個搭載され,キャプスタン軸受けには回転中
心精度を高める38mmロングスパン・メタルアッセンブリーが採用され,安定した回転が確保されてい
ました。
走行系は,クローズドループ・デュアルキャプスタン方式が採用され,テープの微振動を抑えるとともに
安定したテープテンションが保たれていました。左右のピンチローラーの径をわずかに変えてワウ・フ
ラッターの周期を分散させる周波数分散型とされ,微振動を吸収するピンチローラー軸受けのオイル
含浸プラスチックや,ミクロンオーダーのエッチング処理が施され,テープのスリップを防止するキャプ
スタンなども採用されていました。
クローズドループ・デュアルキャプスタン方式の走行メカニズムは,E.M.(Electro Magnetic=電磁式)
ヒステリシス・テンションサーボによるバックテンション・コントロールにバックアップされていました。この
バックテンション・コントロールは,電磁結合による非接触ブレーキで,トルク変動が少なく,温度や湿度
などの影響も受けにくく,常に安定したテンションを与えることができ,走行特性が大きく向上していまし
た。さらに,リールモーターのトルク変動によるテンションの変化を抑えるテープテンション・コンプレッサー
システムが右ピンチローラー部に設けられていました。
V-9000は,振動対策もしっかり施されていました。まず,カセットハーフの微振動を抑えるために,カ
セットハーフをがっちり抑え込む「アンチスタティック・カセットスタビライザー」が搭載されていました。こ
のスタビライザーのアームは,制振効果の高い3mm厚アルミの3層構造がとられていました。さらに,
ハーフに広い部分で圧着する振動を吸収する効果も持つ高導電性のパッドが装備され,テープ走行に
よって帯電するハーフの静電気を逃がす仕組みにもなっていました。
ハーフを支えるカセットホルダーは,1.6mm厚の鉄板で剛性を高め,さらに左右両側を確実にロックし
てカセットの浮きから発生する振動やホルダー部の共振を抑える高剛性ダブルロック・カセットホルダー
が搭載されていました。また,がたつきが発生しない3点支持としたトライアングル・カセット・サポートシ
ステムも採用されていました。
モーターの微小コギングによって生じる巻き取り軸部の振動を,リール台からカセットハーフ内のハブ
へ伝える部分で吸収してしまう,ダイナミック・トルク・ダンパー付きリール台も搭載されていました。
筐体全体の高剛性化,制振化も図られていました。内部振動の発生源となるテープ走行メカニズム部
は,U型の専用シャーシに収めてからフロント側と強固に一体化された二重構造がとられ,フロント,リ
アシャーシ,独立のサイドシャーシと底面全体を保持するボトムシャーシ一体化による重層構造の強固
な高剛性構造となっていました。さらに,逆U型でトップパネル部分に制振シートを装着した一体化した
ボンネット,制振効果の高いサイドウッドと振動を抑える構造となっており,外部からの振動は,内部損
失が高く,高比重で音速が速い特殊金属複合材のインシュレーターが抑えるようになっていました。
すべての再生アンプは,±2電源ダイレクト・カップリング方式による全段DCアンプ構成
で,高音質が
実現されていました。ヘッドアンプ部も入力カップリング・コンデンサーを排除したFET入力によるDCサ
ーボ構成として,低域特性を大きく改善していました。さらに,電源電圧の供給力を40%アップしてアン
プ部の余裕を大きくしていました。ノイズリダクションとしてドルビーB,Cタイプが搭載され,ドルビーIC出
力もカップリングコンデンサーを排除して高耐圧化が図られていました。さらに,ドルビーHXプロも搭載
されていました。
録音ボリュームは,基盤と直付け構造とされ,外部からのノイズを遮断するL・Rシールドのアルミダイ>
キャストの密閉ケースに収められた録音ボリュームが搭載されていました。アンプ部,電源部,ディスプ
レイ部などの基板を分離した上,各部を専用のインナーシャーシに収めた完全シールドの独立構造とし
て相互の干渉によるノイズの発生を防止していました。
バイアス録音回路では,信号入力などの高調波とバイアス周波数との間でのビートを避けるため,バイ
アス信号周波数が210kHzに設定され,コバルトアモルファスヘッド自体の高域特性と低インピーダン
ス化により,優れた高域特性が確保されていました。
以上のように,V-9000は正攻法で音質を追求して作り上げられたデッキで,フラットバランスのクセの
ない音質が実現されていました。下部のシーリングパネルに付属機能のスイッチ類を収め,メカっぽ
を抑えたデザインはゴールドとブラックのモデルがあり,それまでのティアックとは異なる洗練されたイメー
ジであったのも特徴でした。