ナカミチが1985年(DRAGON発売から3年後)に発売した3ヘッドカセットデッキです。1000ZXLなどを除いては,これまで音質重
Nakamichi CR−70
Discrete Head Cassete Deck ¥220,000(税別)
視で徹底してマニュアル調整にこだわってきた(?)ナカミチがマイクロプロセッサーによる自動調整,時間表示のテープカウンター,
リモコンなど,使い勝手をも重視した機能を多く搭載したカセットデッキでした。それまでとはフロントパネルの横幅も違い(450mmか
ら435mmに)路線の少し異なったデッキだったように思います。考えてみると,このデッキは,ナカミチが発売したSystem70という,
一種の高級システムステレオのデッキ部分と言った意味合いもあったようなので,デザインやコンセプトも従来のマニア向けから少し
違ったものになっていたのかもしれません。私も現在所有しており,もう1台の所有デッキであるDRAGONよりも使いやすいため,思
わずこちらをよく使ってしまいます。
CR−70の最大の特徴は,マイクロプロセッサーによるオートキャリブレーションです。再生ヘッドのアジアス,録音再生レベル,録音
バイアスを自動調整し,テープの特性に正確に合わせることができます。DRAGONなどのマニュアル調整でシビアに手動で追い込
んでいく以上の精度(何と64ステップ)で,約15秒という短時間で調整が完了します。他社のデッキにはこのような機構はありました
し,ナカミチのデッキにも(1000シリーズ,700シリーズ,600シリーズ)にもすでにありましたが,最も洗練された形になっていたよ
うに思います。何より,DRAGONで開発した再生ヘッドのアジマス調整とオートキャリブレーションを組み合わせたところはヒットだっ
たと思っています。(それまでは録音ヘッドのアジマス調整を録音時に行っていた。)CR−70は再生時のアジマス調整もできました。DRAGONとは違って手動で聴感を元に合わせるものでした。DRAGONのNAAC
による自動アジマス調整もすばらしいものですが,コストがかかりすぎるみたいで,DRAGON以降は採用機はありませんでした。代
わりにナカミチはこのような手動のアジマス調整をCassete Deck1,DR−1と10万円クラスのデッキに採用していきました。確か
にNAACに比べると調整の手間はありますが,数秒で同じ効果が得られ,すっきりと高域ののびた音が聴けました。だから,これは
これで優れた機構だったと思います。DRAGONはアジマス調整が自動の代わりにバイアス,レベル調整が手動で,CR−70は再
生アジマスが手動調整の代わりに,バイアス,レベルの調整は自動化されており,自動化の視点が異なっていたという感じでした。
再生時のアジマス調整は,赤外線リモコンでもできるようになっていたので,リスニングポジションで聴きながら調整できました。もちろんヘッド系は,ナカミチ自慢の完全独立3ヘッド構成(いわゆるコンビネーション型ではない。録音ヘッドと再生ヘッドが完全に
別になって離れているナカミチ独自の3ヘッド。)で,クローズドループ・ダブルキャプスタンによる駆動系を持っていました。FGサー
ボモーターによるダイレクトドライブでした。その結果,ワウ・フラッターはDRAGONの0.019%には及びませんが,0.024%を
誇っていました。
これまでのナカミチのデッキと異なり,テープセレクターも自動となり,赤外線リモコンも装備するなど使い勝手が良くなっていまし
た。テープカウンターもナカミチ初のリアルタイムカウンターになっていました。しかも,通常のリアルタイムカウンターと異なり,左
右のリール軸の回転の差を検出して算出するもので,途中まで巻いたテープを再生しても,数秒で経過時間,残量時間を切り換
えて表示することができるものでした。録音時,残量時間が0.00になると自動的に録音レベルを下げて自然にフェードアウトす
るオートフェード機構も装備していました。音の方は,さすがにナカミチの高級機だけあって,カセットとは思えないしっかりした音でした。私も現在,同社のDRAGONととも
に現役で使用中ですが,録音した音はソースに限りなく近い音になります。しかし,DRAGONと比べるとやはり違いは感じられ
ます。CR−70はDRAGONに比べるとデジタル時代的なかちっとした音と感じられ,DRAGONはアナログ的な柔らかさがわず
かに感じられるといった感じです。(どちらも,ソースに忠実な音なのですが。)このCR−70はナカミチ最後の高級デッキとなりま
した。高級デッキを多く手がけてきたナカミチも,これ以降20万円以上するような高級デッキは出していません。(他社も事情は同
じかもしれませんが。)デジタル録音機の時代が訪れたことが大きな原因でしょう。
以下に,当時のカタログの一部をご紹介します。
テープファンの夢をかなえる
完璧なまでの録音・再生マシン。
カセットオーディオに捧げる
不朽のプレゼントです。
◎その精度は,厳密なマニュアル調整をしのぐほど。
完璧なまでの録音を約束する,オートキャリブレーション。 ◎すべてのテープをベストに再生する,アジマスファインチュー ニング機構。 ◎20kHz以上の再生を保証するNakamichiのオリジナル。 完全独立3ヘッドシステム。 ◎20kHz以上の再生を可能にしたもうひとつの秘訣,独自の ヘッド・アライメント機構。 ◎磁気ヘッドづくり30余年のノウハウの結晶,Nakamichiの 高性能ヘッド。 ◎クローズドループ内にヘッド以外何も置かない,Nakamichi だけのダブルキャプスタン。 ◎左右のキャプスタン径を変えた,周波数分散型トランスポート ◎高性能D・Dキャプスタンモーターと高精度FGサーボにより, 0.024%の低ワウ・フラッターを達成。 ◎静粛かつスピーディーな動作を実現した,Nakamichiならで はのサイレントメカニズム。 ◎完璧な録音再生のためにいっそう強化されたアンプ部。 ◎経過/残量時間表示リアルタイムテープカウンター ◎オートフェード機構 ◎オートリピート機構 ◎オート&マニュアルテープ/イコライザーセレクション ◎FL集中ディスプレイ ◎リモートコントロール機構 |
●CR−70 主な規格●
トラック形式 | 4トラック2チャンネルステレオ方式 |
ヘッド | 3(消去×1,録音×1,再生×1) |
モーター | テープトランスポート
FGサーボ,ブラシレス/スロットレス/コアレスD・Dモーター (キャプスタン用駆動用)×1 DCモーター(リール駆動用)×1 メカニズム DCモーター(カム駆動用)×1 DCモーター(再生ヘッドアジマス調整用)×1 |
電源 | 100V AC50Hz/60Hz |
消費電力 | 最大43W |
テープ速度 | 4.8cm/秒 |
ワウ・フラッター | 0.024%以下 WTD RMS,±0.045%以下 WTD Peak |
周波数特性 | 20Hz〜20,000Hz±2dB(録音レベル−20dB ZX,SX,EXUテープ)
18Hz〜21,000Hz±3dB(録音レベル−20dB ZX,SX,EXUテープ) |
総合SN比 | ドルビーCタイプNR ON 72dB以上(70μs,ZXテープ)
(400Hz,3%THD,IHF A−WTD RMS) ドルビーBタイプNR ON 66dB以上(70μs,ZXテープ) (400Hz,3%THD,IHF A−WTD RMS) |
総合歪率 | 0.8%以下(400Hz,0dB,ZXテープ)
1.0%以下(400Hz,0dB,SX,EXUテープ) |
消去率 | 60dB以上(100Hz,+10dB) |
チャンネルセパレーション | 37dB以上(1kHz,0dB) |
クロストーク | 60dB以上(1kHz,0dB) |
バイアス周波数 | 105kHz |
入力 | (ライン) 50mV 50kΩ |
出力 | (ライン) 1.0V(400Hz,0dB,アウトプットレベル最大)2.2kΩ
(ヘッドホン) 12mW(400Hz,0dB,アウトプットレベル最大)8Ω |
早巻き時間 | 約80秒(C−60) |
大きさ | 435(巾)×135(高さ)×306(奥行)mm |
重さ | 約9.0kg |
※本ページに掲載したCR−70の写真,仕様表等は1992年5月のNakamichiのカタ
ログより抜粋したもので,ナカミチ株式会社に著作権があります。したがって,これらの写
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