PIONEER CS-T8
3WAY SPEAKER SYSTEM ¥85,000
1974年に,パイオニアが発売したスピーカーシステム。オーソドックスにまとめられた3ウェイシステム
ですが,ウーファーに,当時最新のカーボンファイバーコーンを搭載し,中高域にハードドームユニットを
搭載するなど,スピーカーでスタートしたブランドらしく,各ユニットやエンクロージャーに新しい技術を投
入した意欲作でした。

ウーファーは30cm口径のコーン型で,コルゲーション入りの深型のストレートコーンが搭載されていま
した。コーンには,前述のように,前年の1973年に,同社がCS-610で開発し,初搭載したカーボン
ファイバーコーンが採用されていました。この当時,日本のいくつかのオーディオブランドで,当時新素
材として注目されていたカーボンファイバー(炭素繊維)を振動板材料として導入する動きがありました。
軽く,強く,弾性に富むカーボンファイバーは,振動板の材料として多くのメリットがあると考えられたた
めでした。このカーボンファイバーをパルプと混抄することで適度なムービングマスとピストン領域の拡
大を実現し,過渡特性の向上が図られていました。CS-610では25cm口径であったのに対し,30cm
口径と,より大口径化され,当時カーボンファイバー混抄タイプのコーンとしては最大級でした。このカー
ボンファイバーコーンは,大口径ながら,ヤング率(強度,固さの単位)が大きいため高域再生限界が
高くとれ,また,ボビン内の内圧を逃がす特別設計のセンターキャップとの相乗効果で,高域再生限界
がさらに広がり,ミッドレンジとのつながりもよりスムーズになっていました。



そして,エッジには高品質の発砲ポリウレタンを使用し,二重構造の大型ダブルダンパーと,ロングボイ
スコイルの採用で,ハイコンプライアンスを得ると同時に,直線性,信頼性を向上させていました。
磁気回路には,直径156mmの大型フェライトマグネットを採用し,センターポールには純銅キャップを
装着するなど磁気回路より発生するわずかな非直線歪,磁気歪を抑えていました。また,フレームは,
ダイキャストによる頑強なフレームを採用していました。

ミッドレンジは,4.8cm口径のハードドーム型で,40μ厚の超硬質ジュラルミン(アルミニウム)ドーム
を採用していました。ダイアフラム(振動板)の支持は内側二重支持によるエッジレス構造で,エッジから
発生する歪が排除されていました。また,精密ダイキャストによる特殊フィンとマスキング効果を除くため
マルチホールを設けたイコライザーを装備し,磁気回路のセンターポールには共振を生じないようテー
パー穴を設けて,背面の吸音チャンバーに不要な音を吸収させるようになっていました。磁気回路は,
30cmウーファーに匹敵する直径140mmの大型フェライトマグネットで構成され,効率のよい銅クラッド
アルミリボン導線(アルミの表面に銅を圧延・接合した導線)を使ったショートタイプボイスコイルを採用し
300~10,000Hzの広帯域再生を可能にしていました。

トゥイーターは,2.5cm口径のハードドーム型で,ダイアフラムには,25μ厚の硬質チタンを使用し
ていました。ウーファーと同様に,高品質のポリウレタンエッジを使用していました。磁気回路には,直
径80mmの大型のフェライトマグネット,ボイスコイルには,銅クラッドアルミ線を使用していました。
また,ミッドレンジ同様に,精密ダイキャストによる特殊フィンとイコライザーの装着により,2,000~
20,000Hzという広域再生とすぐれた指向特性を実現していました。また,フランジもダイキャストに
よる共振の少ない強固なものを採用していました。

エンクロージャーは,密閉型で,板厚25mmの硬質パーティクルボードによる頑丈なものでした。ブラジ
リアンローズウッド仕上げにより,落ち着いたデザインイメージとなっていました。グレーのグリルの下
のバッフル面はブラックで,やや前面に突き出た形になっていました。
ネットワークは,透磁率にすぐれた大型フェライトコアと,損失の少ない太い銅線を巻いたコイルを使用
していました。直列に入るコンデンサーは,損失の少ないマイラーフィルムコンデンサーを使用し,また,
ウーファー部,ミッドレンジ部にはインピーダンス補償回路を設け,過渡特性と歪の改善を図っていまし
た。そして,バッフル面にはHIGH,MIDそれぞれに4ステップのレベルコントロールが設けられていま
した。

以上のように,CS-T8は,持ち前のスピーカー技術に,新しい素材,技術をさらに投入した意欲作でし
た。当時,低域再生の弱さが指摘されていた国産ブックシェルフタイプスピーカーの中では,しっかりし
た低音再生も可能と評価されていましたが,当時の最上級機CS-3000,名機CS-10などに比べ,
地味な存在になっていた惜しい1台でした。


以下に,当時のカタログの一部をご紹介します。



カーボンファイバーを基調にした
明るい忠実派。
オーソドックスな格調を追求した
完成度の高いシステムです。

◎カーボンファイバーコーン採用の
 強力ウーファー
◎歯切れに富んだクリアーな音質の
 ドーム型ミッドレンジ
◎さわやかな高音を広く再現する
 ドーム型トゥイーター
◎ブラジリアンローズ仕上げの風格を備えた
 エンクロージャー
◎細心に検討された高性能ネットワーク




●CS-T8の規格●

キャビネット形式
完全密閉型
使用スピーカー
低音用:30cmーン型
中音用:4.8cmドーム型
高音用:2.5cmドーム型
インピーダンス
8Ω
再生周波数帯域
30~20,000Hz
出力音圧レベル
90.5dB/W
最大入力
80W
クロスオーバー周波数
低-中音:700Hz
中-高音:4,000Hz
外形寸法
360W×630H×330Dmm
重量
27kg



PIONEER CS-T88
3WAY SPEAKER SYSTEM ¥75,000
1975年に,CS-T8は,CS-T88へとモデルチェンジされました。ユニット等基本的な構成はほぼ同一のもの
を継承し,各部に改良を加えつつ,価格は下げられ,コストパフォーマンスが高められていました。

ウーファーは,30cm口径のカーボンファイバー混入コーンを継承し,振動板背圧や反射をさける設計で,特別
設計のセンターキャップも継承されていました。磁気回路には,直径156mmのフェライトマグネットと28mmの
巻幅をもつロングボイスコイルを採用していました。フレームはがっちりとしたアルミダイキャスト製が継承され
ていました。

ミッドレンジは,口径4.8cm,厚さ40μ,重量わずか0.26gの超硬質ジュラルミンによるドーム型が継承さ
れ,外側と内側から独特の二重ダンパーで保持されたエッジレス構造で,エッジ部の共振や反射音も抑えられ
ていました。磁気回路は,純銅キャップ付きセンターポール,直径140mmの大型マグネットを採用し,マルチ
ホール付きイコライザー,精密ダイキャストによるフィンなども継承し搭載されていました。

トゥイーターは,2.5cm口径の25μ厚,0.08gという軽量を実現した硬質チタンダイアフラムによるハード
ドーム型で,エッジ部には,高品質の発泡ウレタンを成形したロールエッジが採用され,特殊コーティングで適
度な内部損失を実現しつつ,共振や反射音を小さく抑えていました。

エンクロージャーは,バッフル板が30mm厚の多層ラワン板,その他は厚さ25mmの高密度パーティクルボー
ドで構成され,しっかりと補強が施されていました。吸音材には,表面積の大きいY字型断面をもつアセテート
繊維を採用していました。ミッドレンジとトゥイーターは,特殊な緩衝材を介してバッフルに取り付けるフローティ
ングマウント方式がとられていました。外観仕上げは,天然木オイルフィニッシュ仕上げとなり,CS-T8に比べ
明るいイメージとなっていました。

ネットワークは,チョークコイルすべてに空芯コイルを採用し,コンデンサーには,損失の少ないMF(メタライズ
ド・フィルム)コンデンサー,MP(メタライズド・ペーパー)コンデンサーを使用していました。

以上のように,CS-T88は,CS-T8の後継機として,基本部分を継承しつつ,コストパフォーマンスが高めら
れバランスのとれた音を実現していました。明るく聴きやすい音は,パイオニアらしさを感じるものでした。


以下に,当時のカタログの一部をご紹介します。



徹底した試聴のくり返しと
新しい測定法の導入。
ゆたかな音楽性のために
磨き上げました。

◎カーボンファイバーコーン採用の
 30cm大口径ユニットで,
 音楽の量感を力強く再現します。
◎楽器のもつ音色を自然な美しさで
 再現する,ユニークなエッジレス構造の
 ドーム型ミッドレンジ。
◎くせのない音質で,
 さわやかな音の広がりと粒立ちの
 良さを生むチタンドームユニット。
◎箱鳴りのない堅固な完全密閉型,
 美しい天然木オイル仕上げエンクロージャー。




●CS-T88の規格●

キャビネット形式
完全密閉型
使用スピーカー
低音用:30cmーン型
中音用:4.8cmドーム型
高音用:2.5cmドーム型
インピーダンス
8Ω
再生周波数帯域
30~20,000Hz
出力音圧レベル
90dB/W(1m)
最大入力
80W
クロスオーバー周波数
低-中音:800Hz
中-高音:4,500Hz
外形寸法
360W×630H×330Dmm
重量
29kg

※本ページに掲載したCS-T8,CS-T88の写真,仕様表等は,1974年
 7月,1977年2月のPIOEERのカタログより抜粋したもの,パイオニア
 株式会社に著作権があります。したがって,これらの写真等を無断で転
 載,引用等をすることは法律で禁じられていますのでご注意ください。

                        
 

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