DIATONE DS-5000
GRANDAGE SPEAKER SYSTEM ¥495,000
1982年に,ダイヤトーン(三菱電機)が発売したスピーカーシステム。三菱電機は,スピーカー
において非常に歴史のあるメーカーで,当初は,NHk技研のバックアップも受けながら放送局用
モニタースピーカーの開発・製造を行っていましたが,1968年からは民生用スピーカーシステム
の「DSシリーズ」を展開していきました。当初よりフラットな周波数特性を重視した設計が特徴で,
それ故に,比較的早くからスーパートゥイーターを搭載した3ウェイさらに4ウェイというスピーカー
システムも展開していきました。そうした4ウェイシステムのさらなる発展形として,DS-505を
1980年発売し,翌年の1981年には3ウェイシステムの弟機DS-503を発売して,「DS-50※
シリーズ」を展開していきました。そして,この「DS-50※シリーズ」の技術的流れを受け継いだ
超ド級のトップモデルがDS-5000でした。
ダイヤトーンは,1970年に4ウェイシステムとしてDS-301を発売し,さらに1974年にも4ウェ
イシステムとしてDS-303を発売しました。これらは,ウーファー,スコーカー,トゥイーターという
3ウェイシステムにスーパートゥイーターを加えたという構成になっており,高域レンジを拡大する
という設計になっていました。そして,DS-505では,ユニット構成の見直しが行われ,ウーファー
の上にミッド・バスを設けた新たな4ウェイ構成がとられ,その高い性能が評価されました。
DS-5000では,こうしたミッドバスユニットを搭載した新しい4ウェイ構成が採用され「DS-50※
シリーズ」の集大成として,より高い性能を実現していました。
ウーファーは,40cm口径のコーン型で,40cmもの大口径の振動板は機械的強度からも難しさ
があり,振動板の剛性が高くないとまともな音にはならないため,剛性が高く軽量なハニカムコア
をベースとしたアラミッドハニカム振動板を採用していました。アラミッド繊維で強化される可撓性
(しなやかにたわむ性質)レジンを特殊配合し,樹脂自身に大きな内部損失を持たせたスキンとア
ルミハニカム・コアを接着したハニカム構造振動板として成形したものでした。
アラミッド繊維は,芳香族ポリアミド系の繊維で,高強度,高弾性の性質と低密度と適度の内部損
失を兼ね備えており,航空宇宙関係の材料として注目されているものでした。しかし,振動板として
成形しようとすると加工性が悪いなどという弱点もありました。そこで,ダイヤトーンは上述のように
可撓性レジンとの組み合わせでクリアしていました。
ハニカムコアには,これまでで最強の5mm厚のものを新たに採用していました。また,マルチ・チュ
ーニング通気セル構造等の改良を加え,ヤング率や内部損失の改善など,性能の向上が図られ
ていました。
大口径振動板を駆動する磁気回路には,最大級のマグネットを搭載し,総磁束286,000マクス
ウェルを確保していました。
中低音部を担当するミッド・バスには,25cm口径のコーン型ユニットが搭載されていました。25
cmもの大口径のミッド・バスの問題点として,帯域内に入り込む高次高調波歪をいかに低減する
かがありました。この高次高調波歪を低減するためには,ミッド・バスの高域周波数限界を高める
必要があり,コーン頂部の剛性を大きくし,厚さを厚くすること,コーン紙やボイスコイルの重量を
軽くすることのほかに,コーンの半頂角を小さくする必要があります。このために,カーブドコーン
を採用していました。ハニカム構造で曲面状という世界初のハニカム振動板のカーブドコーンは,
三菱電機の人工衛星の製造技術を駆使したものでした。
ミッド・ハイユニットは,6.5cm口径のドーム型で,ボロン化チタンによるD.U.D.振動板を搭載して
いました。チタンを高温ボロン化処理(ボロン=ホウ素は,溶融,焼結等で金属元素と合成すること
が可能であり,高硬度,高融点などの性質を示す。)を行い,ボロン化チタンとチタンのサンドイッチ
構造の振動板を開発し,採用していました。ボロンは,ダイヤモンドに次ぐ硬度を誇り,音速などす
ぐれた音響特性をもち,金属よりむしろ陶器に近い物性を持っています。この性質により,Qが高く
鋭い共振を起こしやすい金属振動板とは違い,最適設計により振動板自身への制動を一切しない
ノートリートメント振動板を完成させることができていました。さらに,ボロン拡散成長を強力に改良
し,結晶成長ボロンによって母材のボロン化を,より一層推し進め,これにより,ボロンの剛性とあ
いまって金属チタンの固有を音を抑えていました。
こうした制動を行っていないボロン化チタン振動板を振動板部とボイス・コイル・ボビン部とを一体構
造とする,ダイヤトーン独自の直接駆動形振動板・D.U.D.(DIATONE Unified Diaphragm)とし
ていました。D.U.D.という直接駆動形振動板を採用することにより,ボイスコイルに発生する駆動力
を損失なく振動板に伝達することが可能となり,高音域の減衰が少なく,入力信号に対する応答性
も大幅に改善されていました。また,ボイスコイルに発生した熱もダイアフラムに直接伝導し,放熱
効果も高くなり,耐入力性を高めていました。
トゥイーター・ユニットは,2.3cm口径のドーム型で,ミッド・ハイ同様に,強化拡散ボロンによるD.U.D.
構造の振動板を採用していました。D.U.D.構造を採用することにより,ボイスコイルに発生する駆動力
を損失なく振動板に伝達でき,高音域の減衰が少なく,入力信号に対する応答性が改善され,高い放
熱効にょり,入力信号に対するリニアリティ,耐入力性が高められる等,トゥイーターに適した特性が
実現されていました。さらに,サスペンションに高分子ダンピングシートを芯材として繊維膜を両面に配
したサンドイッチ3重構造として,高速応答性と過渡特性をより向上させていました。
エンクロージャーは,大型のバスレフ型で,カナダ産の針葉樹材2プライ・パーティクルボードを使用し
た堅牢かつ適度な共振をもつものとしていました。スピーカーユニットを保持するバッフル板には,良質
のラワン合板の直交はり合わせを施したものを採用していました。エンクロージャー各部の補強桟には
音響特性の美しいシベリア産の紅松単材を使用していました。さらに,バッフル板中央にはソリッド・ウォ
ールナット材を埋め込むことによって,中高音域と低音域との相互干渉による混変調歪の抑圧を図って
いました。そして,吸音材には,天然のウール材を使用していました。
ネットワーク用インダクタンスには,無共振プリプレグ(ガラス・クロスに樹脂を含浸させたもの)コアを使
用し,巻線には最高純度の無酸素銅線を使用していました。また,各接続部は金メッキ無酸素銅の圧
着端子を採用していました。システムの入力端子は,ウーファー用と中高音用との独立の2組の端子を
設け,バイ・アンプ・ドライブが可能となっていました。フルレンジドライブに対しては,金メッキ無酸素銅
棒(直径6.5mm)によるショートバー方式としていました。
以上のように,DS-5000は,ダイヤトーンが持ち前のスピーカー技術と,三菱電機という総合電機メー
カーのもつ高い総合技術を生かした,力作でした。当時高い評価を受けていたJBLの4344とサイズが
奥行き以外ほぼ同一というサイズから,海外勢に対する対抗心もうかがえました。そして,先進技術の塊
のようなスピーカーシステムながら,音のまとまりもよく,聴きやすさももちながら,高い性能を実現してい
ました。
以下に,当時のカタログの一部をご紹介します。
音響技術の粋を尽くして
音は音楽感性の領域へ。
◎新低域の完成=最強5mm厚アラミッ
ド・ハニカム・ウーファー。
◎アラミッド・ハニカム・25cmカーヴド・コーン。
◎優れた高速応答性,D.U.D.ボロン・ドー
ム・ミッドハイユニット。
◎ハイスピード&高域再生。D.U.D.ボロ
ン・ドーム・トゥイーター。
◎高純度エンクロージュア&ネットワーク。
●定格●
スピーカー方式 | 4ウェイ4スピーカー・バスレフ方式フロア形 |
使用ユニット | 低音用 40cmアラミッド・ハニカム・コーン型 中低音用 25cmアラミッド・ハニカム・カーヴド・コーン型 中高音用 6.5cmD.U.D.ボロンドーム形(新形D.U.D.) 高音用 2.3cmD.U.D.ボロンドーム形(新形D.U.D.) |
公称インピーダンス | 6Ω |
再生周波数帯域 | 20~40,000Hz |
低域共振周波数 | 23Hz |
最大許容入力 | 250W |
出力音圧レベル | 93dB/W/m |
クロスオーバー周波数 | 300Hz 1,250Hz 4,000Hz |
ネットワーク | 低音用:+12dB/oct 中低音用:+12dB/oct,-12dB/oct 中音用:+12dB/oct,-12dB/oct 高音用:+12dB/oct |
レベルコントロール | 中音用:+1段,-2段,4ステップ切替 高音用:+1段,-2段,4ステップ切替 |
サランネット | 着脱可能 |
キャビネット | ウォルナット木目,リアルウッド仕上げ |
外形寸法 | 幅635×高さ1050×奥行460mm |
重量 | 87kg |
※本ページに掲載したDS-5000の写真・仕様表等は
1982年12月のDIATONEのカタログより抜粋したもの
で,三菱電機株式会社に著作権があります。したがって
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