TRIO KT-770
QUARTZ SYSNTHESIZER STEREO TUNER ¥49,800
1983年に,トリオ(現JVCケンウッド)が発売したFM/AMチューナー。通信機メーカーでもあったトリオは,FM
チューナーに高い技術を持っており,高い評価を受けていました。しかし,シンセサイザーチューナーの発売に
おいてはむしろトリオは慎重で,後発となっていました。中級機以上のチューナーには,バリコン搭載のチュー
ナーへのこだわりが見られ,L-02T,L-03T,KT-2200などの高級機には最後までバリコン式を採用し
て高い性能を実現し,シンセサイザー方式を採用していませんでした。そうした中,1983年にシンセサイザー
方式のチューナー・KT-1010とKT-770を発売し,検波段に新たにDLLD方式を採用するなど,トリオ伝統の
パルスカウント方式からの移行を始めるきっかけになりました。
フロントエンドは,5連バリキャップが搭載され,RF増幅部とMIX部にデュアルゲートMOS・FETが採用され,
大入力特性の相互変調特性を大幅に改善し,FM波,テレビ電波などによる相互変調妨害の発生,S/N比の
劣化も抑えられていました。クォーツシンセサイザー部には,水晶発振によって作り出される基準周波数を25
kHzにアップした「パルススワロー・スタティックコントロール方式」を採用していました。基準周波数を再生帯域
外に追いやることで,基準周波数が信号ラインに残留してノイズになることを防ぎ,また,低雑音で大入力特性
にすぐれたツイン・バラクターダイオードなどにより,局部発振信号の純度を高め,98dBの高SN比を実現して
いました。
IF段の検波回路には,新開発のDLLD(ダイレクト・リニアループ・ディテクター)を搭載していました。DLLDは,
バランス型PLL検波回路の一種で,10.7MHzのIF信号をダイレクトにリニア化して閉ループ検波器で検波,
さらに,閉ループ内に,IFフィルターで発生する高調波歪みを低減する歪み補正回路を設けて高S/N比の検波
を行おうというものでした。歪み補正回路はDCC(ディストーション・コレクティング・サーキット)と称されるもので
上級機KT-1010にも搭載されたものでした。IF段では,妨害波を除去するためには帯域の狭い急峻なIFフィル
ターを通す必要があります。しかし,それはオーディオ的には歪みの原因となります。そこで,高選択度と音質の
両立を図るために,急峻な特性のIFフィルターでまず妨害波を取り除き,通過した信号から高調波歪み成分だ
けを抽出してキャンセルしようとする方式がDCCでした。
また,IF段は,上級機と異なり,WIDE/NARROWの帯域切換えは搭載されていませんでした。,セラミックフィ
ルター2段IF増幅1段という構成で,60dBの高選択度を確保しながら,0.0095%(モノ1kHz),0.02%(ス
テレオ1kHz)という低歪率を実現していました。
MPX回路は,PLL MPX方式で,パイロット信号キャンセラーも内蔵されたものが搭載されていました。
AM部は,2連バリキャップが搭載され,IC化された受信回路が搭載されていました。AM部には復調帯域を広
帯域(WIDE)から狭帯域(NARROW)まで連続的に可変できるAM帯域可変回路が搭載され,プリエンファシ
スや受信状態に合わせて調整できるようになっていました。WIDE状態ではかなり高音質を実現していました。
選局は,プリセットメモリーがFM6局,AM6局の系12局が可能で,ワンタッチで呼び出せるようになっていまし
た。また,オートチューニングで電波を自動選局できるようになっていました。
以上のように,KT-770は,当時のトリオのチューナーとしてエントリークラスのモデルながら,トリオとして初の
音質重視型シンセサイザー方式チューナーKT-1010の弟機として,多くの技術を継承した内容をもっていま
した。それだけに,クリアな音質と高感度を両立した使いやすいチューナーになっていました。シンプルな回路
の良さもあり,コストパフォーマンスにすぐれた1台だったと思います。
以下に,当時のカタログの一部をご紹介します。
選択度60dB,ひずみ率0.0095%。
「高音質受信」のKT-770。
◎新開発の広帯域直線検波DLLD
(ダイレクト・リニア・ループ・ディテクタ-)
特許申請中
◎パルススワロー・スタティックコントロール式
シンセサイザー
◎大入力特性にすぐれたフロントエンド
◎高選択度,低ひずみ率を良質したIF段
◎AM帯域可変回路(特許申請中)
●SPECIFICATIONS●
●FM部●
受信周波数範囲 | 76MHz~90MHz |
アンテナインピーダンス | 75Ω不平衡 |
感度(75Ω) | 10.8dBf(新IHF) 0.95μV(IHF) |
SN比50dB感度 | MONO :16.2dBf(新IHF) 1.8μV(IHF) STEREO:38.8dBf(新IHF) 24μV(IHF) |
高調波ひずみ率 | 100Hz 0.02%(モノ) 0.04%(ステレオ) 1kHz 0.0095%(モノ) 0.02%(ステレオ) 50Hz~10kHz 0.15%(モノ) 0.18%(ステレオ) |
SN比(100%変調) | 98dB(MONO) 88dB(STEREO) |
実効選択度(IHF±400kHz) | 60dB |
ステレオセパレーション | 1kHz 66dB 50Hz~10kHz 45dB 15kHz 40dB |
周波数特性 | 20Hz~15kHz ±0.5dB |
イメージ妨害比 84MHz | 95dB |
IF妨害比 84MHz | 110dB |
スプリアス妨害比 84MHz | 100dB |
AM抑圧比(65.2dBf) | 70dB |
サブキャリア抑圧比 | 70dB |
キャプチャーレシオ | 1.5dB |
●AM部●
受信周波数範囲 | 522kHz~1611kHz |
感度 | 10μV・250μV/m(ループアンテナ) |
高調波ひずみ率 (1000kHz) | WIDE0.3%~0.8%NARROW |
選択度(IHF) | WIDE30dB~50dBNARROW |
SN比(30%変調1mV入力) | 52dB |
●電源部その他●
電源電圧・電源周波数 | 100V 50Hz/60Hz |
定格消費電力(電気用品取締法に基づく表示) | 9.5W |
最大外形寸法 | 420(W)×64(H)×317(D)mm |
重量 | 3.4kg |
※本ページに掲載したKT-770の写真,仕様表等は1983年5月
のTRIOのカタログより抜粋したもので,JVCケンウッド株式会社
に著作権があります。したがって,これらの写真等を無断で転載
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