Victor S-3000MONITOR
MONITOR SPEAKER SYSTEM ¥138,000
1977年に,ビクター(現JVCケンウッド)が発売したモニタースピーカーシステム。当時,ビクターは,バッ
クローディングホーン,球形の全指向性システムなど,様々なタイプのスピーカーシステムに挑戦していま
した。そうした中,1976年に,S-777,S-755というコアキシャルユニット搭載のスピーカーシステムを
発売していました。特にS-777は,2ウェイのコアキシャルユニットのみというシステム構成で,同軸方式
の良さや可能性を示していました。このS-777とほぼ共通ともいえるコアキシャルユニットを使用したモ
ニタースピーカーシステムがS-3000でした。
S-3000に搭載されたコアキシャルユニットは,「フェイズ・リンク・コアキシャル・スピーカー」と称するもの
で,位相をしっかりと考慮した設計が特徴でした。2つ以上のスピーカーユニットが同軸上に配置されたコ
アキシャル・スピーカーは,音の放射位置が揃うため音像のまとまりが良く,しかもマルチウェイならでは
のワイドレンジな特性を持たせることができるなど,多くのメリットがあります。反面,ウーファーとトゥイー
ターなど同軸に配置されたユニット間の干渉の問題がありました。特に,相互の干渉や混変調によって
クロスオーバー周波数付近で,音の乱れが生じやすいといわれています。当時,ビクターはコンピューター
を駆使して,フェイズ・モアレ伝送パターン測定法などの最新の測定法,解析法を用いて音の放射波形を
映像化するなどして,コアキシャル・スピーカーの解析を行い,ユニットの位置関係を精密に調整し,きわ
めて干渉の少ない「フェイズ・リンク・コアキシャル・スピーカー・ユニット」を完成させたということでした。
S-3000の同軸ユニット・「フェイズ・リンク・コアキシャル・ユニット」は,30cmウーファーとホーントゥイー
ターを同軸に配置したものでした。
ウーファーは,30cm口径のコーン型で,軽量で強靱,適度な内部損失を持つアメリカ・ホーレー社製の新
開発のコーンが使用され,低音域のトランジェントだけでなく,中音域を特に重視した設計により,ボーカル
再生にすぐれた性能を実現していました。
トゥイーターは,スロートイコライザーのみの古典的な円形エクスポーネンシャル・ホーン(断面が円形また
は楕円形のホーン),水平指向特性のよいセクトラル・ホーン(水平方向の断面を見ると扇型をしているホー
ン)やマルチセルラ・ホーン(ホーンを細かく仕切った形状のホーン)など,いろいろな形状のホーンをテスト
した結果,アルミ製のエクスポーネンシャル・ホーンにドリップ(涙的型)イコライザーを組み合わせた構造が
採用されていました。ドリップイコライザーは,音像を前方に引き出してウーファーとの音響中心を一致させ,
音像のゆがみを防ぐためのもので,ホーン型にありがちなスロートの奥から音が聞こえる違和感をなくすと
ともに,室内の乱反射で音像定位が乱されないよう,指向特性を近距離モニター向きにコントロールする機
能も持っていました。
トゥイーターのダイアフラムは,アルミニウム合金を使用し,機械プレスによらず,機械歪みの少ないビク
ター独自のエア成型法で精密に加工されたものが搭載されていました。カットオフ1kHzの大型のエクス
ポーネンシャルホーンとの組み合わせにより広い再生帯域とすぐれた分解能,濁りのない音質を実現し
ていました。
キャビネットは,数10種類の試作キャビネットによるテストの結果から選ばれた80リットルのバスレフ型
キャビネットが採用されていました。ダクトの寸法や形状,材質についても多くの試作・実験から精密な
チューニングが行われ,キャビネット内部の定在波によるピーク性の共振が開口部から再生されない位
置に,折り曲げダクト(フォールデッドダクト)が配されていました。キャビネットの構成素材は,フロントバッ
フルは北米産針葉樹材・ダグラスファーのランバーコア,天板,地板および両サイドバッフルは高密度パー
ティクルボード,リアバッフルはラワン合板と,それぞれの特徴を生かし,3種類の材料が採用されていま
した。無垢材の響きを生かしたランバーコア構造のフロントバッフルには,ビクター独自の響棒を付加し
て振動モードを平坦化し,天板と地板には30mm厚の頑丈なパーティクルボードを用いることで箱鳴りを
防ぐなど,振動減衰特性を巧みに制御した複合素材キャビネットとしていました。
ディバイディングネットワークについてもコイル,コンデンサー,抵抗類,基板,配線材などしっかりと検討
が加えられていました。コンデンサーは,世界各国の優良品をテストした後,電極の振動を抑えて直流抵
抗も小さくした縦型構造コンデンサーをあらたに開発して用いていました。コイルの振動が及ぼす音質へ
の悪影響を避けるために,コイルは乱れのない整列巻きとされ,コイル全体をエポキシ樹脂で固めてしま
う構造がとられていました。基板は,導体厚350ミクロンの大電流容量基板が採用され,入力端子とネット
ワーク,スピーカーユニットを結ぶ配線材には,ねじりピッチを特別に小さく巻いた新開発のワイヤーが用
いられていました。
モニタースピーカーとして設計されたS-3000は,業務用途に応えるための設計がなされていました。搭
載されたスピーカーユニットは,高能率95dB/W(1m),高耐入力100Wというヘビーデューティーなユニ
ットで,低歪率,大容量のディバインディングネットワークによって,最大音圧約115dBS.P.L.を確保し,業
務用のモニターとして信頼度を高めていました。さらに,万一の場合のメインテナンスを容易にするため,
スピーカーユニットは4本の六角ボルトを外せばすみやかに取り外しができ,3本のビスでウーファーブロッ
クに結合されたトゥイーターブロックは,ホーンだけを残してドライバー部をそっくり交換できるようになって
いました。入力端子は,フロントとリアバッフルの2ヶ所に設けられ,設置条件によってどちらかを使用でき
るようになっていました。リアバッフル側の端子には,マルチアンプ駆動用に入力端子を備えており,アッテ
ネーターは,フロント側,リアバッフル側の両方に設けられていました。また,アッテネーターとディバイディン
グネットワークは,前後のプレートにユニット化されており,ユニットごとの交換が可能となっていました。
キャビネットは,持ち運び時の角破損を防ぐと同時に,人体の安全性を考慮して,コーナーにRがつけられ
ていました。さらに耐久性にすぐれた特殊表面材の採用とあいまって傷がつきにくく,長期の使用に耐える
作りとなっていました。
以上のように,S-3000は,MONITORの名の通り,モニタースピーカーとして,音像定位のよいクリアで
色づけや滲みのない音を実現していました。その音は,ある意味淡泊ともとれるものでしたが,正確な表
現力をめざしたビクターの熱意が感じられるものでした。スタジオモニターといえば海外製であったこの当
時,ビクターが負けじと開発した実力派の1台でした。
以下に,当時のカタログの一部をご紹介します。
粋美のモニター・サウンド。
音楽再生の原点を見据えた,
高忠実度モニター・システム。
◎ソフトウェアとハードウェアの接点,
粋美のモニター・サウンド。
◎クリアーな解像力と定位,
フェイズ・リンク・コアキシャルの
2ウェイ・スピーカー・ユニット。
◎精密チューニングの
バスレフ型
複合素材キャビネット。
◎特性・音質のすぐれた
新開発低歪率ディバイディング
ネットワーク。
◎前後2系統の入力端子と
マルチアンプ入力端子。
◎最大音圧115dB(1m),
シビアな業務用途にこたえる
高信頼設計と容易なメインテナンス。
●定格●
●総合特性●
型式 |
2ウェイ・バスレフ型 |
スピーカー・ユニット |
30cmコーン ドリップ・イコライザー付きホーン (フェイズ・リンク・コアキシャル) |
最大入力 |
100W(ミュージック・パワー) |
再生周波数帯域 |
30~20,000Hz |
インピーダンス |
8Ω |
出力音圧レベル |
95dB/W(1m) |
クロスオーバー周波数 |
2,000Hz |
寸法 |
710H×440W×412Dmm |
重量 |
30.5kg |
●30cmウーハー部単体特性●
再生周波数帯域 | 30~2,500Hz |
最大許容入力 | 200W(ミュージックパワー) |
インピーダンス | 8Ω(400Hzにて) |
磁束密度 | 8,000Gauss |
総磁束 | 300,000Maxwell |
出力音圧レベル | 95dB/W(1m) |
fo | 35Hz |
Qo | 0.38 |
Mo | 35.5g |
●ホーン・ツィーター部単体特性●
再生周波数特性 | 1,500~20,000Hz |
最大許容入力 | 30W/100W |
インピーダンス | 8Ω |
カットオフ周波数 | 1,000Hz |
磁束密度 | 14,000Gauss |
総磁束 | 40,000Maxwell |
出力音圧レベル | 102dB/W(1m) |
※ 本ページに掲載したS-3000MONITORの写真・仕様表等は,
1978年3月のVictorのカタログより抜粋したもので,JVCケン
ウッド株式会社に著作権があります。したがって,これらの写真等
を無断で転載,引用等をすることは法律で禁じられていますので
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