Nakamichi420
POWER AMPLIFIER ¥75,000
1976年に,ナカミチが発売したパワーアンプ。テープデッキメーカーとして名をはせていたナカミチは,1975年
発売のカセットデッキNakamichi600を核に,1976年頃には「600シリーズ」を展開していきました。カセット
デッキをはじめとして傾斜型のパネルを持つユニークなデザインのパワーアンプ620,コントロールアンプ610
発売し,カセットデッキだけでなく,両アンプのすぐれた性能は高い評価を得ていました。そして,より機能はシン
プルに,そしてオーソドックスに性能を追求した弟機が「400シリーズ」で,そのパワーアンプがNakamichi420
でした。
出力段とプリドライバー段には,620で新開発されたコンプリートミラードPP(プッシュプル)回路が搭載されてい
ました。正負の信号を2系統に分割して増幅し,再結合して出力するB級増幅で用いられる,いわゆるプッシュプ
ル回路は,NPN型とPNP型のペアとなる増幅素子を+側,−側対称に接続し,特性の対称性を利用して,低歪
みで効率よく増幅する回路です。実際には,製造法も異なるNPN型とPNP型で完全な対称になっていることは
少なくどうしても微妙に特性が異なり,+側と−側の増幅波をつなぐとき,クロスオーバー歪,スイッチング歪が発
生するという問題があります。コンプリートミラードPP回路では,上下及び左右が全く対称的にトランジスターの極
性が配列され,このためNPNとPNPの特性差がキャンセルされ,増幅バランスが向上し,特性的には,NFなし
の裸特性で全高調波歪率0.1%(1kHz,50W),NFをかけると0.0008%以下という値が実現されていました。
電圧増幅段は,トランジスター8石の構成ですが,実際に電圧増幅は2石で行われ,残りの6石は動作条件を整
えるためのもので,実質的に非常にシンプルな構成で,NFに必要な100dBのゲインが確保されていました。こ
れにより,低雑音,低歪率,位相特性の向上が実現し,安定したNFがかけられるようになっていました。
420のパワーアンプブロックは,50Wの出力をもつ回路系としては驚くほどコンパクトにまとめられていました。
これは,入力レベルや出力の変動,あるいは温度などあらゆる変動因子に対する補償を総合的に追求した設
計でした。特に,扱うパワーが大きいコンプリートミラードPP出力段は,厚さ6mmの高純度アルミニウム基板の
外の表側にまとめられ,基板内側の初段,ドライバー段と隔絶させ,相互干渉を防ぐようになっていました。
また,通常の増幅回路では,クロスーバー歪を小さくするために,正負両トランジスターの動作範囲をオーバー
ラップさせる必要があり,通常300mA〜500mAのアイドリング電流をかけ,このときの電力損失がパワートラ
ンジスターの発熱となりますが,コンプリートミラードPP回路では,正負増幅のリニアリティにすぐれアイドリング
電流が20mAと非常に少なく,通常の回路よりもトランジスターを効率よく使っているため発熱量が根本的に少
ないという特性がありました。上述の高純度アルミニウム基板に装着した上に,パワートランジスターと基板間は
熱伝導率の高い特殊コーティングで絶縁し,大型ヒートシンクの外部装着を行うといった効率的な放熱により,
温度環境はさらに安定し,よりいっそう回路の安定動作が実現されていました。実際,フルパワー時でもヒートシ
ンクはほとんど熱を持たず,スイッチONから安定動作への時間も短いアンプとなっていました。
電源部は,トロイダル・オリエントコア使用の電源トランスと22,000μFの大容量コンデンサーが搭載されてい
ました。トロイダル・オリエントコアの電源トランスは,効率が良く大きさに比して容量が大きくレギュレーションに
すぐれ,磁性面が一方向に揃いリング状に磁界が完結するため,磁束のリーケージが少なく,回路系に対する
干渉も非常に少ないという多くのすぐれた特徴があり,アンプ全体の効率的な実装や小型化にも貢献していまし
た。また,コンデンサーのマイナス端子とシャーシを厚さ2mmの金属板で結び,アース材の内部抵抗を低く抑え
て,特性の劣化を防いでいました。
以上のように,Nakamichi420は,高さ80mm,奥行き225mmというコンパクトな筐体の中に,高品質なパーツ
を効率よく実装し,50W+50Wという出力を実現したパワーアンプで,ヒートシンクそのままというフロントスタイル
は,上級機の620ゆずりとはいえユニークなものでした。また,ブリッジングアダプターBA-100(¥13,000)を
使ってブリッジ接続をして120Wのモノラルパワーアンプとしても使用できるようになっていました。その外観同様
に色づけの少ない素直な音は,個性や色気を主張するものとは対極のもので,ナカミチらしさとも言えたと思いま
す。


以下に,当時のカタログの一部をご紹介します。



出力50W+50W
ひずみ率0.0008%
アンプを純粋な導体に近づけた
コンプリートミラードPP回路です。

◎新しい視点が,
 新しい音を生み出しました。
 コンプリートミラードPP回路。
◎シンプルな電圧増幅段により,
 位相の変化を抑え,
 安定したNFをかけました。
◎高密度集積アンプブロック
 あらゆる特性変動因を総合的に
 補償しています。
◎L,R完全独立アンプブロック
 左右セパレートアンプの思想を
 貫きました。
◎トロイダル・オリエントコア大容量
 電源トランスと,ふたつの
 22,000μF大容量コンデンサー
 採用の電源部。
◎コンデンサーからのアースは
 厚さ2mmの金属板を採用。
◎アイドリング電流が小さく基本的
 に発熱が少ない回路構成。
◎大型ヒートシンクの外部装着で
 効果的な放熱。
◎ワンタッチSP端子
◎420の歪率を正確に測るために
 は,新しい測定器が必要でした。
◎ブリッジ接続で120W出力の
 モノラルアンプに。
 音質をさらに向上できます。





●Nakamichi420主な規格●

電源 100,117,220,240V 50/60Hz
消費電力
30VA(無信号時)
400VA(両チャンネル駆動,最大出力,8Ω負荷)
出力
50W/50W(5〜20,000Hz,両チャンネル駆動,8Ω負荷)
(全高調波歪率0.02%以下)
パワー・バンド幅
5〜100,000Hz(IHF両チャンネル駆動,歪率0.1%以下)
5〜25,000Hz(IHF両チャンネル駆動,歪率0.01%以下)
5〜10,000Hz(IHF両チャンネル駆動,歪率0.005%以下)
ダンピング・ファクター 100以上(1kHz以下,8Ω負荷)
全高調波歪率
0.002%以下(1kHz以下,RMS)50W
0.008%以下(10kHz以下,RMS)50W
IM歪率
0.002%以下
(60Hz:7kHz=4:1,50W出力8Ω負荷)
周波数特性 5〜50,000Hz+0,−1dB
入力インピーダンス 10kΩ
入力感度 1V
残留雑音 0.05mV以下
SN比 110dB以上(IHF Aネットワーク,入力ショート)
クロストーク −70dB以下(1kHz)
使用半導体 トランジスタ40,ダイオード22
寸法 400W×80H×225Dmm
重量 約7kg




●Nakamichi420+BA-100(ブリッジングアダプター)規格●

出力 120W(8Ω負荷,全高調波歪率0.01%以下)
パワー・バンド幅 5〜100,000Hz(全高調波歪率0.05%以下)
ダンピング・ファクター 50以上(1kHz以下,8Ω)
全高調波歪率
0.003%(1kHz,RMS)
0.02%(10kHz以下,RMS)
IM歪率
0.008%
(60Hz:7kHz=4:1,8Ω)
周波数特性 5〜50,000Hz+0,−2dB RMS
残留雑音 100μV(IHF-Aネットワーク)
SN比 110dB(IHF Aネットワーク,入力ショート)




●BA-100主な規格●

電源 100,120,220,240V 50/60Hz
消費電力 3VA
基準入力電圧 1V
入力インピーダンス 10kΩ
基準出力電圧 1V
出力インピーダンス 500Ω
最大入力電圧 4V
最大出力電圧 4V
位相対称性 1度以内(5〜50,000Hz)
使用半導体 トランジスタ16,ダイオード5
寸法 190W×60H×100Dmm
重量 1.4kg
※本ページに掲載したNakamichi420の写真,仕様表等は1977年
 2月のNakamichiのカタログより抜粋したもので,ナカミチ株式会社
 に著作権があります。したがってこれらの写真等を無断で転載,引用
 等をすることは法律で禁じられていますのでご注意ください。

 
★メニューにもどる            
 
 

★セパレートアンプPART8にもどる
 
 

現在もご使用中の方,また,かつて使っていた方。あるいは,思い出や印象のある方
そのほか,ご意見ご感想などをお寄せください。


メールはこちらへk-nisi@niji.or.jp
inserted by FC2 system