TRIO KX-880
STEREO CASSETTE DECK ¥69,800
1982年に,トリオ(現JVCケンウッド)が発売したカセットデッキ。当時のトリオは,1977年にKX-9000,
1979年にKX-1000と3ヘッド構成のカセットデッキを発売し,1980年には598クラスながら3ヘッド構
成というカセットデッキKX-800,1981年には3ヘッド・2モーターDDのKX-1000Dを発売するなど意欲
的なモデル発売していました。しかし,カセットデッキの分野では,あまりメジャーなブランドとはいえません
でした。そうした中,2ヘッド構成ながら基本をしっかりと作り上げたKX-880を発売し,評価を一気に高め
ることになりました。

KX-880の大きな特徴は,「高剛性サイレント・メカ」の採用でした。KX-880は一見ただの2ヘッドのシン
グルキャプスタンのデッキでしたが,そのシンプルな構造を生かして,クラスを超えた高い精度と剛性を実
現したのが「高剛性サイレント・メカ」でした。



モーターによる回転振動,キャプスタンとリール台による回転振動,テープ走行による振動などのあらゆる
振動モードを多角的に解析し,振動による影響を受けにくい走行系を追求して完成させたものでした。ス
ペースの制約が多く複雑なメカニズムをもつカセットデッキでは,大きく分厚い材料を使うのも限界があり
難しいため,余分なフレームなどを取り除き,メカ本体を徹底的にシンプル化して強度をアップし,さらに
専用モーターによるサイレントドライブ機構を開発して搭載していました。カセットを固定するテープガイド
も従来のプラスチックモールドではなく金属シャフトに変更し,カセットを剛性の高いメカ・シャーシにガッチ
リと固定するようになっていました。以上のようにメカニズムの機構・構造・材質に改善を行った「高剛性
サイレント・メカ」により,外乱を抑えると同時に,テープの安定したヘッドタッチを実現し,位相転移や,周
波数変調による音質の劣化を抑えていました。



搭載されたモーターは,2モーター+1モーターの3モーター構成で,キャプスタン駆動用にはダイレクトド
ライブFGサーボDCモーターを採用し,トルクリップルの少ない2層モーターと粘性抵抗の少ない独自の
軸受構造により,巻き始めから巻き終わりまでフラッター変化の少ない安定したテープ走行を実現してい
ました。リール駆動用には専用のDCモーター,メカ駆動用にも専用のDCモーターが使用されたサイレン
トドライブ機構により,ローノイズを実現していました。
そして,すべての動作はマイコン制御のフルロジックメカで軽快で安全な操作を可能にしていました。REC
PLAY,FF,REWなど様々な走行状態のテープ巻き取りトルクをマイコンを使って制御するようになってお
り,録音・再生の低速走行も,FF・REWの高速走行も,最適トルクでコントロールしているため,安定した
録音・再生を可能にすると同時に,あらゆる走行モードでテープを安全に保護するようになっていました。



ヘッドは,2ヘッド構成で,録再ヘッドには,新開発のアモルファスアロイヘッドが採用されていました。新
素材アモルファスアロイの採用により,透磁率が高く,小さな磁界で大きな磁束密度がとれ,高能率で高
音質録音が可能になっていました。また,絶縁性にすぐれていて,45μ厚の極薄板を13枚ラミネートし
たヘッドコアを採用したため,渦電流が少なく,高域レンジの伸びた広い周波数帯域を実現していました。
さらに,すぐれた耐摩耗性をもっていました。消去ヘッドには,ダブルギャップ・フェライトヘッドを搭載して
いました。

アンプ系は,トリオ持ち前のアンプ技術,回路技術がしっかりと生かされていました。ハイゲインの再生イ
コライザーアンプ,録音アンプ,マイクアンプ,ヘッドホーンアンプ,ドルビーアンプの5つのアンプのアース
ポイントを明確にした上で,クロストークやSVR(電源電圧除去比)にすぐれたプリントパターンを設計し,
オーバーオールでの諸特性を改善していました。また,電源には33VAの大型トランスを採用し,別巻線
を含む6系統の電源で給電し,大容量ケミコンとあいまって強力な電源部としていました。さらに,マイク
アンプ,ヘッドホンアンプには高性能オペアンプを使い,低歪みの回路構成としていました。

テープポジションは,NORMAL,CrO2,METALが搭載され,ハーフの検出孔を利用してのオートテープ
セレクターとなっていました。ノイズリダクションは,専用ICを搭載し,ドルビーBに加えてドルビーCタイプ
も装備されていました。

機能的に特徴となっていたのは,多彩なオート動作,頭出し機能を実現するDPSSの搭載でした。マイコ
ン制御のメカニズムにより,「前後1曲頭出し」,前後最大16曲までまでの飛び越し選曲ができる「希望曲
の頭出し」,現在聴いている曲を16回繰り返して連続演奏する「1曲リピート」,テープの片面を16回繰り
返して連続再生する「ワンサイド・フルリピート」,10秒以上の曲間がある場合自動的に早送りして次の曲
の再生に移る「ダッシュ・アンド・プレイ」,録音開始時点まで巻き戻し,停止する「リレックスタンバイ」,1
曲目の頭まで巻き戻して再生する「リワインドプレイ」,イントロ部分を約10秒間ずつ連続してダイジェスト
再生する「インデックス・スキャン」,1分以上の無録音部分をすばやくサーチする「ブランク・サーチ」など
の機能が実現されていました。

テープカウンターは,4桁デジタル表示で,DPSS操作時の曲数表示などのDPSSカウンター機能の他に
分・秒単位で直読できるリニア・テープカウンターの機能を備えた多機能のカウンターとなっていました。
時間検出は,リールの回転数をフォトリフレクターで検出し,マイコンで演算処理する高精度なもので,
減算機能も備えていました。
レベルメーターは,-20dB~+9dBの18ポイントの2色FL表示のレベルメーターで,最大値を約2秒間
保持するピークホールド機能をもっていました。バーグラフタイプのメーターでは数少ない縦型表示タイプ
となっていました。

以上のように,KX-880は,中級機として,あえて2ヘッド・シングルキャプスタンというシンプルでオーソ
ドックスな形で基本性能を高め,高音まできれいに伸びたバランスのとれた音質を実現し,使いやすく音
の良いカセットデッキとして高い評価を得ることとなりました。そして,KX-880は,この後KX-880SR
KX-880SRⅡ→KX-880G→KX-880D→KX-880GR→KX-880HXと約6年間にわたりモデルチェ
ンジを行い,改良を加えられながらロングセラーモデルとなりました。


以下に,当時のカタログの一部をご紹介します。



静寂が音の精髄に迫る。
高剛性サイレントメカ。

無共振思想で
テープオーディオをつきつめた。
高剛性サイレント・メカ。


IGHーRIGIDITY ILENT ECHANISM

◎安定したテープ走行を実現した,
 高剛性サイレント・メカニズム。
◎DD・2モーター+1モーター。
 ダイレクトドライブ・フルロジック・メカ。
◎電子トルク・コントロール。
◎チャンネル間位相変移の
 三次元測定法。
◎変調ノイズ測定。
◎録音・再生を通しての総合特性を
 追求した,アンプ部,電源部。
◎夢のアモルファスヘッド
 新素材を得てデッキの音質はここまできた。
◎専用ICによりMOL特性を高めた,
 ドルビーCタイプ。
◎方形波入力による周波数分析。
◎テープポジションを自動的に選ぶ,
 オートテープセレクター。
◎独立したレック・ボリューム,バランスボリューム
 ホーンズ・レベルボリューム。
◎2色18ポイント・ピークホールド
 FLレベルメーター。
◎遠隔DPSS操作も可能。
 リモートコントロールユニットRC-7。

機能が増えればテクニックは広がる。
頭脳プレイのNew D.P.S.S.

◎前後1曲頭出し
◎機能曲の頭出し
◎1曲リピート
◎ワンサイド・フルリピート/ダッシュ・アンド・プレイ
◎リレック・スタンバイ
◎リワインド・プレイ
◎インデックス・スキャン
◎ブランク・サーチ
◎オートレック・ミュート
◎リニア・テープカウンター




●KX-880 定格●

トラック形式  ステレオ 
録音方式  交流バイアス(105kHz) 
ヘッド  消去:ダブルギャップ・フェライトヘッド×1
録音・再生:アモルファスアロイヘッド×1 
モーター  キャプスタン:FGサーボ・ダイレクトドライブモーター×1
リール:DCモーター×1
メカ駆動用:DCモーター×1 
ワウ・フラッター  ±0.054%W・Peak(EIAJ),0.027%(WRMS) 
早巻時間  約85秒(C-60) 
周波数特性(EIAJ)  ノーマルテープ:20Hz~18,000Hz±3dB
クロームテープ:20Hz~19,000Hz±3dB
メタルテープ:20Hz~22,000Hz±3dB 
ひずみ率
1kHz,3次高調波ひずみ率 
ノーマルテープ:0.55%(EIAJ)
メタルテープ:0.8%(EIAJ) 
SN比  EIAJメタルテープ:57dB
Dolby Ctype ON:74dB
Dolby Btype ON:67dB
DolbyNR OFF:59dB 
入力端子  マイク:0.3mV(適合インピーダンス600Ω)
ライン:77.5mV(入力インピーダンス50kΩ) 
出力端子  ライン:0.39V(出力インピーダンス2kΩ)
ヘッドホーン:0.85mW(出力負荷インピーダンス8Ω) 
電源  100V AC50Hz/60Hz 
消費電力
(電気用品取締法にもとづく) 
AC27W 
最大外形寸法  440W×98H×300Dmm 
重量  5.9kg 
録音テストテープ  ノーマルテープ:KENWOOD ND-60
クロームテープ:KENWOOD CD-60
メタルテープ:KENWOOD MD-60 
※本ページに掲載したKX-880の写真,仕様表等は1984年2月の
 TRIOのカタ
ログより抜粋したもので,JVCケンウッド株式会社に著
 作権があります。したがって,これ
らの写真等を無断で転載・引用等
 することは法律で禁じられていますのでご注意くだ
さい。
    
 

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