Nakamichi 430
FM TUNER ¥85,000
1976年に,ナカミチが発売したFMチューナー。当時ナカミチは,テープデッキで有名なブランドでしたが,この
ころ,カセットデッキナカミチ600を核として,コントロールアンプ610パワーアンプ620FMチューナープリア
ンプ630
を発売し,スラントデザインが共通した,システム化されたオーディオ機器群を「600シリーズ」として展
開していきました。そして,その弟機として,よりオーソドックスなスタイルのプリアンプ410パワーアンプ420
いう「400シリーズ」を発売しました。この「400シリーズ」のチューナーとして発売されたのが430でした。

フロントエンドは,同調回路における選択特性を重視し,周波数直線5連バリコンを採用していました。RF(高周
波)2段と多段同調により,スプリアス妨害比100dBを実現していました。そして,高周波増幅段には,ローノイズ
デュアルゲートMOS FETを使用し,実用感度1.8μV(10.5dBf)を実現し,3段使用することにより,50dBク
ワイティング感度の向上と歪低減を実現していました。こうした構成により,高次高調波歪を抑え,混変調妨害や
相互変調妨害の排除能力を高めていました。



IF段は,特別に選別した4素子ワンウェファー集中型セラミックフィルターを1段だけの使用にとどめ,LCリニア
フェイズフィルター1段と合わせた2段構成としていました。通常選択度特性を上げるために,セラミックフィルター
を2段,3段と多数重ねる方法がとられていますが,選択度特性は向上するものの,群遅延時間特性にリップル
(振幅の波)を生じ,歪みが増えることになります。フィルターをよく選別しても低変調レベル時の歪みの増加を避
けるのは難しく,各フィルター段の温度特性もばらばらになりがちで,問題が生じる可能性があります。そこで,
セラミックフィルター1段+LCフィルター1段という組み合わせとすることで,選択度特性と群遅延特性という相反
する関係にある特性をできるだけ両立させていました。
さらに,IF段には帯域幅2段切換を装備し,ノーマル:選択度60dB/歪率0.09%(ステレオ),ナロー:選択度
90dB/歪率0.4%(ステレオ)という特性を実現し,隣接局のある場合や弱電界地域にも対応できるようにして
いました。

温度その他の影響で起こる局部発振周波数のずれ=ドリフトは,同調ズレにつながってしまうもので,FMチュー
ナーにとって大きな問題ですが,430では,SLT(セルフロックチューニング)回路を搭載して対応していました。
SLTは,同調ズレを起こしたときに検波出力の直流成分を検知して,局部発振周波数のドリフトを強制的に補正
してしまうもので,いったん同調すると,ダイヤルツマミを作為的に200kHzほど動かしても,ズレがほとんど生じ
ないほどでした。

MPX部には,PLL(フェイズ・ロック・ループ)回路が採用されていました。FM放送波を19kHzのパイロット信号
に同期させ,Lチャンネル分とRチャンネル分に分割させるためには,正確な同期が必要になります。PLL回路
により,熱,湿度などの影響によるMPX信号の位相ズレを検出して補正することで,常に安定したセパレーショ
ンが確保されていました。

ミューティング回路は,従来のものでは,アンテナ入力レベルでミューティング動作点を決める方式がとられてい
ましたが,比較的弱い放送信号入力までミュートがかけられることがあるという弱点もありました。そこで,430
のミューティング回路は,ノイズレベルを検出する方式がとられ,微少な放送信号入力でも,SN比が確保できれ
ば,確実に受信できるようになっていました。
さらに,ノイズ成分の目立つ左右チャンネルの高域のセパレーションを調整して加える(ブレンドする)ことでノイ
ズを打ち消し,弱電界入力のノイズを減少させるハイブレンドスイッチも装備されていました。



430は,表示部が横行ダイヤルスケールと指針,そしてSIGNAL,STEREOのLED表示のみで,SIGNALメー
ターやチューニングメーターをもたないというシンプルなものでした。その代わりに,ダイヤル指針の左右にチュー
ニングインジケーターが設けられていました。放送信号の入力でSIGNALのLEDが点灯し,チューニングインジ
ケーターが点灯した方に指針を動かし,チューニングインジケーターが左右とも点灯すると正確な同調点を示す
というものでした。SIGNALのLED(シグナルインジケーター)は,約55dBf(300μV,300Ω)で点灯するよう
になっており,SN比と歪率が十分であることを示すものでした。この方式はを「デジタルチューニング方式」と称し
FMチューナープリアンプ630のシステムを継承したものでした。

そのほかに,将来的なドルビーFMデコード回路の搭載に備えていました。アメリカでは,FM放送をドルビーBタ
イプでエンコードし,受信機側でデコードしてノイズを減らすというドルビーFMシステムが1971年に登場し,いくつ
かの放送局で試験放送等が行われていました。その後普及することはありませんでしたが,海外向け輸出も大き
く考慮していたナカミチらしいスペックでした。



以上のように,Nakamichi430は,「400シリーズ」に共通する素っ気ないと感じられるほどシンプルな外観デザ
インでしたが,FMチューナーの分野に乗り出していったナカミチの熱意が感じられる独創性や技術が投入されて
いました。FMチューナーにおけるブランド力故か,知られざる実力機ということになってしまいましたが,使いやす
いオーディオチューナーとしてすぐれた1台だったと思います。


以下に,当時のカタログの一部をご紹介します。



セラミックフィルターの使用を1段にとどめています。
音のいいチューナー430。

SLTは(セルフロックチューニング方式)で同調ズレを追放。
デジタルチューニング方式で敏速に高精度同調。
チューナーの価値を総合的に高めています。

◎スプリアス妨害比100dB。
 周波数直線5連バリコンの同調段。
◎ローノイズ・デュアルゲートMOS・FET
 3段構成の高周波増幅段,感度1.8μV
◎セラミックフィルターの採用を1段にとどめたIF段。
 歪率0.09%,選択度60dB(ノーマル)
◎歪率を重視するか,選択度を優先するか・・・・
 帯域幅2段切り換え機構。
◎同調ズレの根絶を図った
 SLT(セルフロックチューニング)回路。
◎フェイズロックループ(PLL)回路採用のMPX部で
 安定したステレオセパレーション。
◎ノイズレベル検出方式ミューティング。
◎ハイブレンドスイッチ。
◎ドルビーFMデコード回路搭載可能。
◎デジタルチューニング方式




●Nakamichi 430主な規格●

電源電圧  100V 50/60Hz 
消費電力  11VA 
受信周波数 76MHz~90MHz
実用感度 1.8μV(10.5dBf)
歪率(1kHz以下,100%変調時) ノーマル モノラル:0.06%以下
      ステレオ:0.09%以下
ナロー  モノラル:0.2%以下
      ステレオ:0.4%以下
S/N比(IHF)  モノラル:70dB以上
 ステレオ:68dB以上
周波数特性 30~15,000Hz+0.5dB,-1.5dB
実効選択度(IHF) ノーマル:60dB以上
ナロー :90dB以上
ステレオセパレーション ノーマル 100Hz:35dB以上
       1kHz:50dB以上
      10kHz:35dB以上
ナロー  100Hz:30dB以上
       1kHz:30dB以上
      10kHz:30dB以上
キャプチャーレシオ(IHF) 1.5dB(ノーマル)
4.0dB(ナロー)
イメージ妨害比 100dB以上
IF妨害比 100dB以上
スプリアス妨害比 100dB以上
SCAサプレッション 75dB
AMサプレッション 60dB
MPXフィルター 19kHz -70dB
アンテナ端子 300Ωバランス
75Ωアンバランス
アウトプット端子レベル 500mV(50%変調時,アウトプット最大)
寸法 400W×80H×222Dmm
重量 4.9kg
※本ページに掲載したNakamichi430の写真,仕様表等は
 1977年9月のNakamichiのカタログより抜粋したもので,
 ナカミチ株式会社に著作権があります。したがって,これらの
 写真等を無断で転載・引用等することは法律で禁じられてい
 ますのでご注意ください。

 

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